塚本邦雄70歳の時の自選歌集。解説の岡井隆が指摘しているように二十代から一貫して現代短歌の第一線で活躍している塚本邦雄の四十代以降の作品が95%を占める、中年から老年への軌跡を強く感じとれるアンソロジー。全1793首。今回の何度目かになる再読は、先行する偉大な練達の老いの迎え撃ち方を掬いとろうとするような読み方となった。
檸檬風呂(れもんぶろ)に泛べる母よ夢に子を刺し殺し乳あまれる母よ
一月の芒そよげり寒(さむ)や寒(さむ)男はことばすらみごもらず
かなしくまぬけな想いに格好をつけて折り合いをつけているという印象が拭いきれずに残って歌が心に滲んでくるのは、おそらく読み手である私自身が、今この時、塚本邦雄にそういう面を期待しているから。
何に飢うるそのかなしみぞ壮年の一人生きざま破墨(はぼく)のごとし
みられる仙になれるかどうか仙境にいたりつけるかどうかといったていの老いはじめの迷いの消化と昇華の具合が気になったのだった、
また改めて読むときには、違った読み方も可能になるはずである。