王朝和歌に関する評論が多くある作家丸谷才一が自ら作ったのは短歌ではなく俳句。それも安東次男から連句の手ほどきを受け、大岡信を加えた三人で歌仙の会を開いていたという本格正統派。本書は古希での記念出版『七十句』と米寿の記念として準備されていた『八十八句』に、岡野弘彦、長谷川櫂との三人で巻いた歌仙五巻を収めた俳句文芸のふくよかさを感じ取れる一冊となっている。最晩年にいたるまで旺盛な句作活動があり、それを真剣に楽しんでいた様子がうかがえるのが、なんともうらやましい。
闇に置けば呪文つぶやく蜆かな
雪月花のときに思へやいろは歌
佐保姫もこんなずんどう酒のびん
春をつかさどる女神佐保姫のすがたを酒瓶のようなずんどうタイプとして描き出しているところが俳諧らしくてとても面白く、ギリシアの美的プロポーションとは異なる日本的な愛しいプロポーションの女神がグッと身近なものとして感覚することができてほっこりする。
後半部分には、歌仙五巻がいかに詠まれたのかを句ごとに解説しているていの対談があって、歌仙連句の読み方の導きともなっている。あまり接することのない歌仙の世界をじっくり紹介してくれいるので希少価値が高い。芭蕉の連句とは時代が異なる21世紀に、連句がどのように生きつづけているのかを知れる貴重な実践例でもある。
【付箋箇所】
11, 12, 13, 24, 35, 38, 43, 47, 54, 55, 59, 75, 77, 90, 91, 106, 107, 108, 110, 116, 127, 130
目次:
七十句
八十八句
歌仙
大河の水の巻
大鯰の巻
迦陵頻伽の巻
夜といふ旅人の巻
ずたずたの心の巻
対談 丸谷さんと俳句 岡野弘彦+長谷川櫂
丸谷才一
1925 - 2012
岡野弘彦
1924 -
長谷川櫂
1954 -
安東次男
1919- 2002
参考: