読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

丸谷才一『日本文学史早わかり』(講談社 1978, 講談社文芸文庫 2004)

現代イギリスの詞華集好きと比較しながら、日本には勅撰和歌集による詞華集作成文化が歴史的により早くより長くあり、文化的枠組みや感受性により深く影響を与えてきたことを確認しつつ、日本文学史を詞華集に沿って時代を区分けし、各時代の特性を考察したエッセイ「日本文学史早わかり」が核となって成った日本文学史再考の評論集。
丸谷才一案では、論考が執筆された20世紀の終盤までの期間を5つに分け、指導的批評家3人をあげながら、各時代を見ている。

 

第一期:八代集時代以前 宮廷文化準備期  『万葉集』等
第二期:八代集時代   宮廷文化全盛期  『古今和歌集』『新古今和歌集』等
第三期:十三代集時代  宮廷文化の衰微期 『玉葉和歌集』『風雅和歌集』等
第四期:七部集時代   宮廷文化の普及期 芭蕉七部集、蕪村七部集ほか
第五期:七部集時代以後 宮廷文化の絶滅期 アララギの短歌、ホトトギスの俳句

 

指導的批評家は紀貫之藤原定家正岡子規の三人で、第四期も芭蕉ではなく『新古今』的感性の世俗大衆化という観点から藤原定家の影響下の時代としているところに特徴がある。最後の指導的批評家が明治期の正岡子規で、様式美から写実優位への転換というところで止まってしまっているが、80年代以降のポストモダンを経験した21世紀現在にまで眼を向けて見て、正岡子規の次に来る実作者兼批評家となると、なかなか思い浮かばない。折口信夫西脇順三郎は明治生まれということを考えるとすこし古いし、『折々のうた』の大岡信はいるけれど実作も批評もインパクトが弱い(と思う)。詩も俳句もなした歌人批評家塚本邦雄、あるいは戯曲もものした寺山修司などがいるが、このあたりのことは本書を読んだ人がそれぞれ想像してみるのが生産的かもしれない。

「日本文学史早わかり」ほかに8つのエッセイが収めれているが、それぞれ19世紀西欧の自然主義文学・写実主義文学に偏った見かたに反発するようにして書かれた文章、より懐が深い文学趣味に出会うことができる。複雑で変化があることを喜ぶ感受性から発せられた言葉の数々は、いま読んでもまったく古びていない。

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【付箋箇所】
11, 18, 28, 33, 64, 68, 76, 81, 102, 111, 114, 117, 120, 123, 131, 132, 136, 140, 149, 172, 212

目次:
日本文学史早わかり
香具山から最上川
歌道の盛り
雪の夕ぐれ

趣向について
ある花柳小説
文学事典の項目二つ
夷斎おとしばなし

丸谷才一
1925 - 2012