読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

工藤重矩校註『詞花和歌集』(第六勅撰和歌集 崇徳院1144年下命、1151年成立 岩波文庫 2020) 【八代集を読む その5】

第五勅撰和歌集金葉和歌集』が1126年に成立してからわずか18年、新たな勅撰和歌集編纂の命が崇徳院により下され藤原顕輔が撰にあたることとなった。1129年に白河院崩御、代わって政治的権限を鳥羽院が握ったのちは、白河院の子とも言われる崇徳天皇との関係は悪化し、1141年に退位、わずか三才の近衛天皇が位についた。退位後の崇徳院は逼塞し、それがために和歌に打ち込み、新たな勅撰和歌集の編纂に向かったようである。撰者藤原顕輔は、『金葉和歌集』から程ない時期での選歌と、宮廷内の対立が深まるなかでの当代歌人の扱いに苦労し、当代歌人の扱いが薄くなるという結果となり、同時代人からの評は厳しいものが多かったようである。

全10巻、451首。『金葉和歌集』が男性的であるとすると、『詞花和歌集』は女性歌人に限らずより女性的な嫋やかな印象の歌が多い詞華集である。主な歌人曾禰好忠17首、和泉式部16首、大江匡房14首など、ほかに赤染衛門、源俊賴、花山天皇などが印象に残る。詞華集としては詞書、とくに第八巻恋下の女性歌人の歌についた詞書の生々しさに驚きがあった。

172の民部内侍の「参議広業、絶えてのち」、173の和泉式部に「道貞、忘れてのち」、246の赤染衛門に「をとこに忘られて嘆きけるに」、265の清少納言の「心変りたるをとこに」、270の相模の「大江公資に忘られてよめる」など、とくに別れた相手の名前まで出している詞書には、物語を更に追及したくなるような誘いもあり、また歌に込められた思いの重さにもより敏感になる。和泉式部については『和泉式部日記』にも手を出してみたいと思わせるような編集の仕方もされているようだった。

詞書は和泉式部の家集と比べてみたところ同一のものではないということが分かっていて、撰者の藤原顕輔がどのような意図で『詞花和歌集』の詞書を付けていたのか興味が湧くところであるが、岩波文庫の解説にはそれらしいものは載っていなかったので、また別の解説者の解説文を待ちたい。

本書は、これまで読んできた後撰、拾遺、後拾遺、金葉の各岩波文庫とは異なり、2020年という、つい最近になって出版されたもので、判組も読みやすく、また、現代語訳と語釈と関連事項が充実していて、ずいぶん鑑賞しやすくなっている。収録数415首と勅撰和歌集のなかではいちばん小さい詞華集ではあるが、岩波文庫版に込められた新しい研究と編集の成果と、先に触れた詞書の濃密さもあって、だいぶ読み応えのある歌集となっている。

www.iwanami.co.jp

【付箋歌】
10, 25, 41, 49, 56, 69, 88, 94, 100, 120, 137, 144, 148, 158, 159, 182, 211, 224, 229, 235, 241, 246, 250, 265, 270, 276, 289, 298, 308, 319, 327, 344, 346, 355, 360, 362, 369, 382, 392, 402, 409, 
【解説付箋箇所】
215, 216,  221, 229, 237

工藤重矩
1946 -