読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

久保田淳校註『千載和歌集』(第七勅撰和歌集 後白河院1183年下命、1188年成立 岩波文庫 1986) 【八代集を読む その6】

第七勅撰和歌集編纂の院宣を下したのは後白河院で、後白河院といえば和歌よりも今様とのかかわりがまず頭に浮かぶ。保元・平治の乱ののちの平氏政権の最中に、『梁塵秘抄』を1169年に完成させ(五味文彦『絵巻で歩む宮廷世界の歴史』2021年の情報)、源平の乱を経て院政を再開した後の世の動乱と飢饉などの混迷のなかで、文化芸能を奨励擁護する方針を立て、藤原俊成に『千載和歌集』の編纂を命じた。この編纂には息子の藤原定家も関わり、次の『新古今和歌集』の達成へとつながることとなる。院宣時、俊成は69歳、定家は21歳、和歌の主流が六条家から御子左家に転換していく決定的な事業として『千載和歌集』編纂は位置づけられる。王朝和歌の完成から爛熟と溶解へ、達磨歌とも言われる定家や藤原良経の新傾向の象徴表現を経て、源実朝などの王朝サロンの社交には収まり切れない自我のディスコミュニケーションを孕んだ新時代の歌の誕生へとなだれ込む要素がすでに『千載和歌集』のなかに胎動している。

王朝から武家中心の社会に移り変わっていくことが明白になっていく時代の、没落や行き止まりと境を接したところでの新傾向の出現と、過去作品の再評価に特徴がある。収録数の多い代表的歌人は、源俊頼52首、俊成36首、藤原基俊26首、崇徳院23首など。『詞花和歌集』では争乱のなか勝者が決していないこともあって収録されることの少なかった当代の歌人についても取り上げられるようになり、俊恵・円位法師(西行)・待賢門院堀河・式子内親王が目立って取り上げられている。藤原定家8首、藤原良経7首も存在を主張している。また全20巻、1288首と、構成も収録歌も大きくなったこともあって、前代の王著歌人たちの勅撰集未収録歌が見事に掬い上げられ再生されている。なかでは和泉式部紫式部大江匡房藤原公任などの収録が目立つ。収録歌人一条天皇天皇以降の385人。『万葉集』『古今和歌集』の歌人は採られていないが、『新古今和歌集』につながるオールスター的なラインナップとなっている。

0037 ながむればかすめる空の浮雲とひとつになりぬ帰るかりがね 藤原良経

0430 水鳥を水のうへとやよそに見む我も浮きたる世を過ぐしつゝ 紫式部

0819 数ならぬ身にも心のありがほにひとりも月をながめつるかな 遊女戸々

1004 いかにせむさらで憂き世はなぐさまずたのみし月も涙おちけり 藤原定家

千載和歌集』はこれまでに何回か読んできた詞華集であるのだが、今回はなんだか紫式部の歌がよく目に止まった。

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【付箋歌】
8, 25, 33, 41, 51, 82, 124, 177, 189, 210, 259, 282, 289, 296, 333, 381, 390, 406, 414, 430, 432, 444, 465, 482, 518, 565, 625, 661, 677, 679, 694, 766, 819, 868, 886, 904, 908, 911, 929, 984, 1004, 1008, 1012, 1026, 1028, 1029, 1035, 1054, 1060, 1067, 1069, 1070, 1080, 1092, 1094, 1096, 1112, 1114, 1119, 1123, 1129, 1131, 1133, 1135, s1145, 1151, 1168, 1204, 1223, 1235, 1259, 

目次:
巻第一 春歌 上
巻第二 春歌 下
巻第三 夏歌
巻第四 秋歌 上
巻第五 秋歌 下
巻第六 冬歌
巻第七 離別歌
巻第八 羇旅歌
巻第九 哀傷歌
巻第十 賀歌
巻第十一 恋歌 一
巻第十二 恋歌 二
巻第十三 恋歌 三
巻第十四 恋歌 四
巻第十五 恋歌 五
巻第十六 雑歌 上
巻第十七 雑歌 中
巻第十八 雑歌 下
巻第十九 釈教歌
巻第二十 神祇歌

後白河院
1127 - 1192
崇徳院
1119 - 1164
藤原俊成
1114 - 1204
藤原定家
1162 - 1241