読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日下力訳注『保元物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫 2015)

勅撰和歌集を『古今和歌集』から読みすすめていくと、第四勅撰集の『後拾遺和歌集』あたりから雰囲気が変わり、下命者であり実作も採られている各帝のことが気になり出してくる。

第四勅撰集『後拾遺和歌集』(1086)、白河天皇
第五勅撰集『金葉和歌集』(1126)、白河院
第六勅撰集『詞花和歌集』(1151)、崇徳院
第七勅撰集『千載和歌集』(1188)、後白河院
第八勅撰集『新古今和歌集』(1205)、後鳥羽院

歌人としての後鳥羽院崇徳院から興味が湧きだした後に、二人ともに政争の敗者として配流になってその地で亡くなったという歴史的な事実についても眼を向けていくと、平安末期から鎌倉初期にかけての動向が気になり出すとともに、戦乱の世を描いた物語にも関心が出てくる。『保元物語』『平治物語』『平家物語』。承久の乱を扱った『承久記』もあるという。

この期間前後の天皇
白河天皇(1072-1086)―堀川天皇(1086-1107)―鳥羽天皇(1107-1123)―崇徳天皇(1123-1141)―近衛天皇(1141-1155)―後白河天皇(1155-1158)―二条天皇(1158-1165)―六条天皇(1165-1168)―高倉天皇(1168-1180)―安徳天皇(1180-1185)―後鳥羽天皇(1183-1198)―土御門天皇(1198-1210)―順徳天皇(1210-1221)―仲恭天皇(1221-1221)―後堀川天皇(1221-1232)

この期間前後の大きな戦乱は
前九年の役(1051-1062)
後三年の役(1083-1087)
保元の乱(1156)
平治の乱(1159)
治承・寿永の乱(1180-1185)
承久の乱(1221)

まずは、崇徳院の怨霊伝説のもとにもなったという『保元物語』が現代語訳付きの文庫本で手に入ったので、その現代語訳を中心に全体を読み通してみた。

解説によると、『保元物語』『平治物語』『平家物語』の三作は、いずれも琵琶法師によって語られていたということで、今回読んだ『保元物語』の強めに脚色された内容も、語り口の滑らかさも、なるほどと納得のいくものがあった。

同時代の海外であれば、叙事詩として作成され、謡詠されもしたであろうものであり、それが日本においては物語となって琵琶の伴奏付きで語られていたのであるから、物語に日本的な詩のリズムを感じ取りながら読むことも必要であろうと思いつつ、原文のほうにもしばしば目を通すこととなった。当たり前のことではあるが、詩として読むなら、現代語訳ではなく、原文のほうが優れている。幾人もの語りの層を通って彫琢された原文の文体のリズムは、そう簡単には現代語訳で追いつけるものではない。

ただ、現代語訳もかなりこなれたもので、内容的なものを追うことに渋滞感はないし、物語の印象的な場面は十分感動的に再現されているので、現代語訳に助けられつつ原文で滞りなく再鑑賞することも可能になっていることも言っておかないと訳注者に対して失礼に当たる。

とくに印象に残る場面は、為朝の弓を使った闘いの場面、為義の五人の幼い子たちの最後とその母の最期の場面、崇徳院が讃岐で生きながら天狗化する経緯など。語りのスピード感と描写の生々しさがあいまって、強烈なイメージとして頭に残ってくる。映像化するのにも向いている作品であると感じ取れたので、今度は保元物語の絵巻も手に取ってみたいと思った。

 

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日下力
1945 -