読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マーガレット・アトウッド『パワー・ポリティクス』(原著 1971, 彩流社 出口菜摘訳 2022 )

やや人生に疲れの見えだしたところで出会った男女二人のうちの女性側の視点から、互いの固定観念と日常性のなかに埋没していくことへの抵抗感を詠った詩、といったところだろうか。約50年前、著者32歳の時の作品で、五番目の詩集。男性側は左翼政治活動をしている地域のリーダー的存在、女性側は冷めた目を持つ作家というイメージ。どことなく中年層の悲哀のようなものが全編通して漂っている。捉え方を変えれば平凡な幸福の枠内に収まりもしよう関係性ではあるのだが、そこは文芸作品なので不穏な空気がずっと流れている。複数の人間が登場しないと物語は動かないということも確かだが、技巧的に優れているとはいえ、関係性の負の面のコレクションをわざわざ並べ立てられると、独りを選択しながら書くという道はないものかと、批判的に考えもする。それだと『パワー・ポリティクス』という題にふさわしい内容にはならないだろうけれど…

わたしのスーツケースと恐怖心を照らす
あぁ電灯の光よ

(四行略)

この罠からわたしを救い出してください、
この体、あなたのようにしてください。
閉じていて有用なものに

「閉じている」「電灯」に呼びかけているところは新鮮だが、「有用なものに」と願う「罠」の変わらないはたらきが顔を出しているところにも興味は魅かれる。こうした部分を拡げていけるのならば、どういった作品が可能なのだろうかと、探っていきたい気にもさせる。

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目次:

彼はふたたび現われる
彼を避けようと彼女は考える
彼らは外食する
彼は異様な生物学的現象である
彼らの態度は異なる
彼らは空を旅する
些細な戦略 もっと良いやり方がある
彼は東から西へ向かう
彼らは敵国
扉のそとでのためらい
最後に目にした彼

マーガレット・アトウッド
1939 -
出口菜摘
1976 -