京極派を代表する歌人永福門院は伏見院の中宮で、政治的には南北朝時代に大覚寺統と対立した持明院統を支えた中心的人物。京極派の平明で心に染み入るような歌風を代表する歌人で『玉葉和歌集集』に49首、『風雅集』に69首採られている。激動の時代のただなかにいて、対象を深く捉え見入るような姿勢の、芯のある優美さに、目を惹きつけられるような歌が並ぶ。本書は永福門院の歌に使われている言葉の特徴と新しさを、歌が詠われた状況とともに、クローズアップするように解説してくれているので、淡い感覚で読み過ごしてしまうことを防いでくれてもいる。永福門院入門に適した一冊。
ま萩ちる庭の秋風身にしみて夕日の影ぞ壁に消えゆく
山松の梢の空のしらむままに壁に消えゆく閨の月影
日の光、月の光を「壁に消えゆく」という独自な表現で捉える永福門院の、繊細かつ奥行きの深い感受性を、本文では的確に気づかせてくれるよう導いてくれている。サラッとした解説なのだが、情報量が多く役に立つ。
【付箋箇所】
3, 16, 18, 52, 54, 68, 70, 76, 110
永福門院
1271 - 1342
小林守
1943 -