読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

コレクション日本歌人選012 阿尾あすか『伏見院』(笠間書院 2011)

新古今和歌集』以後の停滞していた歌の世界に新風を起こした京極派の代表的歌人で、『玉葉和歌集』の下命者でもある伏見院。後鳥羽院とはまた違ったタイプの天才的歌人であったようだ。

撰者の一人で代表的歌人であった定家と反りが合わなかった後鳥羽院にくらべて、伏見院は撰者京極為兼との関係性もよく、京極派の歌風の完成がだいぶ年齢を重ねた後ということもあって、収録歌を読むと歌を楽しむおおらかさのようなものが伝わってくる。後鳥羽院にも共通する帝王振りといわれる帝ならではの鷹揚さは、字余りで逆に効果を上げている歌の多さからも感じ取れる。また、新傾向の言葉を歌に採り入れるその採り入れ方も、おそれも力みもない直截的なもので、700百年も前の作品とは思えぬみずみずしさがある。

照りくらし土さへ裂くる夏の日の梢ゆるがぬ水無月の空
あけがたの霜の夜がらす声さえて木末のおくに月落ちにけり
小夜ふけて宿もる犬の声高し村しづかなる月の遠方

干上がって裂けた土、夜に鳴くカラスの声、夜吠える飼い犬の声、現代短歌作品と言われても通用しそうな詠いぶりであると思う。

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【付箋箇所】
12, 19, 24, 28, 38, 48, 54, 66, 84, 88, 92, 94

伏見院
1265 - 1318
阿尾あすか
1978 -