読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

塚本邦雄『新古今集新論 二十一世紀に生きる詩歌』(岩波書店 1995)

岩波書店が主催するセミナーの2時間×4回という枠組みで新古今集を正面から扱うことに無理を感じた塚本邦雄が、新古今集成立の周辺を語ることで、新古今集の特徴的な輪郭を炙り出した一冊。

前半部分で新古今風の母体となった六百番歌合と千五百番歌合における六条家と御子左家との対立の様相を拾い上げ、後半は実質的撰者である後鳥羽院の選歌に見られる和歌観を定家との対立と承久の乱での遠流後の隠岐本での収録歌削除から検討し、また新古今集成立年と生年との制約もあって新古今集には採られることのなかった源実朝の歌に新古今集の影響が大なることを示して従来の万葉調ばかりの実朝賛に一石を投じ、さらに新古今随一の女性歌人式子内親王を取り上げ和泉式部や伊勢を超える歌人であると手放しで称揚している。塚本邦雄が定家、良経、後鳥羽院について語るのはほかの書物でもよく目にするが、実朝と式子内親王をまとまった分量でしっかり語るケースはかなり珍しい。

一見すると、新古今集を知るにはバランスが悪いような対象選択ではあるのだが、実際に本書を読み通してみると、新古今集の華麗さがどの辺にあるかということがわりとはっきり見えてくる。特に後鳥羽院隠岐本の削除歌から見てとれる鑑賞眼の変化を批判的に検討し、削除歌にこそ秀歌が多いとはっきり示しているところはキレがある。セミナーをもとにした著作ということもあって、ほかの塚本邦雄の著作よりも厳めしさが少ないところも親しみやすく、人にも薦めやすい一冊なのではないかと思う。

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【付箋箇所】
54, 71, 85, 109, 128, 132, 163, 176, 179

目次:
Ⅰ 六百番歌合
 1 新古今集序の序
 2 六百番歌合
Ⅱ 千五百番歌合
 1 新古今集編纂に向かって
 2 千五百番歌合
Ⅲ 新古今歌人列伝 その一
 1 良経・慈円・俊成・定家等
 2 後鳥羽院と定家の確執
 3 金槐集考
 4 隠岐本考
Ⅳ 新古今歌人列伝 その二
 1 式子内親王
 2 茂吉の定家論
 3 終りに二言
登場人物年齢表

塚本邦雄
1920 - 2005