読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

竹村牧男『華厳とは何か』(春秋社 2004, 新装版 2017)

Eテレ「こころの時代」2002年度のテキストをもとにした華厳入門書。比較的手に入りやすい華厳思想の入門書のなかでは、もっとも詳しい思想解説と経典読解ではないかと感じた。特に第二部は華厳思想入門から実際の経典への導きとしての道を示していて貴重。華厳宗の立場からの教相判釈の書である法蔵の『五経章』に依りながら、仏教全体の中での華厳の教えの占める位置を明らかにしつつ、華厳が達成した世界観の核心を経典が説くままに再現して展開して見せてくれているところは、非常に見通しが良く、華厳のイメージがかなり鮮明に残ってくれる。事法界・理法界・理事無礙法界・事事無礙法界からなる四法界の説と十玄縁起無礙法門義(十玄)・六相円融義(六相)という関係性の理論体系を概説してくれているため、本書を読むことで、ほかの書物で華厳思想を参照しているような場合についてもより多くの理解を得られることが期待できる。

たとえば空海の即身成仏の密教思想は、空海によって顕教の最高峰としてあげられている華厳の十玄門の第四「因陀羅微細境界門」の帝釈天の宮殿にかかる宝石がちりばめられた網の重々無尽の反映関係の教えと重なるものであり、それは空海の「即身成仏偈」の前半四句にもっともよくあらわれているところである。

六大無礙にして常に瑜伽なり
四種曼荼各々離れず
三密加持すれば速疾に顕わる
重々帝網なるを即身と名づく

すべての一であるものの相即即入の関係性の自覚として即身が出来するという空海の思想が、華厳経の目くるめく世界観をベースにしていることに思いをいたすことで、より鮮明なものとしてこころに刻まれることとなる。

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【付箋箇所】
12, 16, 19, 50, 77, 82, 105, 116, 149, 160, 179, 181, 190, 207, 252, 257, 266, 286, 330, 332

目次:


第1章 華厳の世界へ
第2章 光の荘厳
第3章 心は画家のごとし
第4章 大悲の妙用はてしなく
第5章 自己を求めて


第6章 すべての法門を見わたす
第7章 松は竹、竹は松
第8章 響き合い無限
第9章 一塵に宿る宇宙
第10s章 速やかな成仏の道


第11章 華厳思想と日本仏教
第12章 いま華厳思想を考える


竹村牧男
1948 -