読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

大木実『現代詩文庫1041 大木実詩集』(思潮社 1989)

大木実(1923 - 2009)は大正生まれで太平洋戦争期に招集を受け帰還した後も詩を書き続けた詩人。思潮社の選集の巻末エッセイには、尾崎一雄三好達治高村光太郎丸山薫川崎洋といった錚々たる面々の讚が集められていることからも、ただごとではない詩語が展開されていることは想像がつく。
だが、大木実という詩人の名前は、残念ながらそれほど広まってはいない。
散文詩的方向に嗜好が向いたために、詩趣が飛翔に向かわないという方向性のためでもあるだろう。
また、詩の向かうところが、卑近な生活の観察にとどまってしまう傾向があったためでもあるだろう。
ただ、本書『現代詩文庫1041 大木実詩集』を読むに、望みもしない時代の流れに巻き込まれ、希望もなく戦期をくぐり抜け、戦後は生活に困窮しながら生きるなかで、一人の人として生まれ、生き続けることのできる様相を言葉に定着している日々の営為には、感心させられるものがある。
アインシュタインの言葉「死ぬということことは/モーツァルトを聴けなくなるということだ」を詩に引用した大木実が、最も好んだ曲というのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲というのにも心惹かれるものがある。私自身も繰り返し聞く一枚。

老いはみにくいか
――ノン
老いて美しく
静かに死んでゆかねばならぬ
葉を落として輝くあの裸木のように


目次:
詩集〈場末の子〉から
詩集〈屋根〉から
詩集〈故郷〉から
詩集〈遠雷〉から
詩集〈初雪〉から
詩集〈夢の跡〉から
詩集〈路地の井戸〉から
詩集〈天の川〉から
詩集〈月夜の町〉から
詩集〈冬の仕度〉から
詩集〈夜半の声〉から
詩集〈蝉〉から
詩集〈七十の夏〉から
自伝・エッセイ

大木実
1923 - 2009