為政者側の論理を整えるための思想としての儒家に対し、無為自然の優位を説く老荘の思想は、被征服者たちが追いやられた南部の土地で形成されていったという指摘にはじまり、墨子の社会主義的思想や揚朱の個人主義をともども採り入れ老子の哲学的側面を広く文芸的にも展開した荘子の位置を広い視野のもとに説いていく手堅い入門書。仏典の漢語訳に老荘の言葉が利用されるところから中国仏教とりわけ禅に影響を与えている点を指摘しているところや、唐詩や宋詩への思想と表現への影響を取り上げているところに独自性もある。とりわけ仏教への影響は、作者自身も意欲をもって取り組もうとした視点で、読み手としてもたいへん期待をしながら読みすすめてみたところではあったのだが、いかんせんコンパクトな入門書であるために扱える分量が限られていて、物足りなさを感じてしまった。期待をしていただけに残念ではあるが、200ページのなかに荘子のめぼしいエピソードがほとんど取り上げられ解読されていることを考えると、読者としては欲張りすぎなのだろう。
禅と『荘子』の関係は、単にことばの利用だけにあるのではない。内面的な思考構造、論理の進め方において、しきりに『荘子』的発想を利用するのである。そのことを本格的に論ずるのは、実は大問題であって、実証のためには専門的論文をまず作ってゆかなければならないので、いまはおおむねの考えの方向をしるすにとどめておく。
(「禅と『荘子』」結語)
鈴木修次には本格的に禅と荘子の関係性を論じた著作はないようなので、ほかを探してみようかと思う。検索ですぐに出てくるのは、玄侑宗久『荘子と遊ぶ 禅的思考の源流へ』だが、さて、どうだろうか。
【付箋箇所】
4, 15, 25, 37, 47, 50, 92, 137, 149, 166, 169, 178, 180, 198
目次:
はしがき
序論
Ⅰ 荘周と『荘子』
荘周という人物
『荘子』という書物
『荘子』の特色
Ⅱ 『荘子』の思想
認識論
人生論
政治論
儒家批判
『荘子』の思想基盤
Ⅲ 『荘子』の影響
不老不死と道教
清談と『荘子』
禅と『荘子』
文学と『荘子』
あとがき
鈴木修次
1923 - 1989