題名も装丁も青年層向けを意識したもので、中高年が手を出すには気恥ずかしさがある作品ではあるが、シオラン研究者が大学の紀要や哲学討論会での発表の内容をもとにして創りあげられたもので、内容的には手際よくしかも批判的視点を交えながら的確にシオランの思想を伝記的事実とともに紹介していて、過不足のない一冊にまとめられている。
シオランの著作を埋める文章の傾向を整理して、きわめて見通しの良いものにしてくれている著者大谷崇は、シオランよりも頭のいい人なのではないかという気もしてきた。
シオランの著作を直接読むとペシミストの醸す瘴気のようなものに巻き込まれて暗い気分が抜けないケースがまま出てきて、読後も後を引く粘着性があるように感じてきたが、本書を読んでなんだか毒抜きされたような感じになった。ペシミズムの実践での中途半端さや弱さが、逆説的に生を味わい生き延びるための力となっているところを、著者自身の諦念の鈍い光とアイロニーともにくりかえし述べていて、しかも冗長さを感じさせない。350ページという分量が、重くも軽くもない密度でもって充実していた。
人生を呪うことを愛しすぎ、呪いを捨てきれなかった者が、その呪いによってふたたび人生に閉じこめられる。これはなんとも見事な大失敗ではないだろうか。人生を呪うためには生きている必要がある。死んでもだめだし、解脱によって人生の外に出てしまってもだめだ。だからペシミストが人生に固執するのも無理からぬことなのだろう。
(第2部「シオランの失敗と「再生」―生まれないことと解脱」より)
シオランの毒々しさや晦渋さや厄介さをまず感じてみたい人は、明晰な本書に手を出すのはちょっと後回しにした方が無難かもしれない。
【付箋箇所】
4, 8, 24, 29, 33, 36, 41, 50, 51, 91, 92, 94, 105, 109, 118, 131, 139, 149, 150, 153, 158, 228, 234, 237, 242, 263, 267, 279, 328, 334, 335, 336
目次:
第1部 シオランと見る人生と世界
第1章 怠惰と疲労
第2章 自殺
第3章 憎悪と衰弱
第4章 文明と衰退
第5章 人生のむなしさ
第6章 病気と敗北
第2部 シオランの失敗と「再生」―生まれないことと解脱
大谷崇
1987 -
シオラン
1911 - 1995