読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

樋口一貴『もっと知りたい円山応挙 生涯と作品 改訂版』(東京美術 2022)

安永天明期(1772-1789)の京都画壇で若冲池大雅を抑えて最も人気の高かった円山応挙の画業の質の高さと幅の広さを、時代背景やパトロンの存在などとともに紹介した贅沢な入門書。改訂版では巻頭特集の「七難七福図巻」を増補。応挙の才能を見出した円満院祐常の依頼による初期の大作は、絵巻物のスタイルにおいても、写生を重視した応挙の筆の技術の高さを伝えてくれる。繊細で意志を持ったほそい線で個々の物に命が与えられ絶妙な構成で全体の中に位置づけられている。淡い色合いで着色されているにも関わらず、抑えた陰翳を施されていることで、画面全体から艶と生気が発せられている。応挙ならではの仕事としか言いようのない味わいは、見るたびごとに新鮮さを増してくる不思議さも持っている。
本書は玩具店での奉公からはじまり、年代を追って技術と共に名声が高まり、京都随一の絵画工房の主として最晩年まで旺盛に活動していた様子を、年代順に紹介している。子犬を筆頭に人気のある小動物の絵の数はわりと抑え気味で、屏風絵、襖絵、掛幅の大作を多く紹介しているのが特徴であろう。
色彩と運動があふれる『百蝶図』と、抽象絵画やミニマルアートを彷彿させる墨画『氷図屏風』が、一冊に収められていることで、応挙の驚くべき多彩さを感じとることもできる。

www.tokyo-bijutsu.co.jp


目次:
巻頭特集 「七難七福図巻」の世界
序 章 おいたち―都で才能を開花させた「京師ノ人」
第1章 初期―絵師「応挙」ができるまで
第2章 画風確立期―応挙の才能を見出した円満院祐常
第3章 黄金期―三井家の庇護のもとで
第4章 円熟期―応挙工房による障壁画の制作
第5章 晩期―やり残した仕事を完遂

円山応挙
1733 -1795
樋口一貴
1969 - 
    
※2004年に開催された応挙の展覧会に合わせて行われた「ほぼ日」での江戸東京博物館学芸員江里口友子氏へのインタビュー記事も併せて閲覧すると、より充実感を得られること間違いなしである。『氷図屏風』含めて応挙作品の画像にもたくさん出会える。

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