読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ロジェ・カイヨワ『夢の現象学』(原著 1956, 思潮社 1986)

原題は「夢に起因する不確実性」で、こちらのほうが内容をよりよく表しているし、カイヨワの思考の態度をよく表している。幻想的なテーマを好奇心からあつかうというよりも、夢という現象について先行テクストを参照しながらきわめて厳密に合理的に捉えようとしている。強調されるのは、夢の体験の絶対的受動性であり、記憶の現実性へ侵食溶解することで現実に不確実性をもたらす夢の力である。

夢は覚醒状態にある意識のあらゆる能力、あらゆる特権について、きわめて強烈な、きわめて完全な錯覚をもたらすから、意識のさまざまな確実性の上に取り去ることのできぬ疑惑を投げかける。夢が恐るべきものであり、また油断のならないものであるのは、(中略)夢を現実に近づけ、そしてその当然の結果として、ついには現実の上に非現実性という決定的な疑念を立ちのぼらせることにことになる夢の能力と特権によるのである。

いっときシュルレアリスムの運動のさなかにいたカイヨワだが、理性を超えた無意識の探究と表出を目指したグループの関心と創作活動とははじめから相容れない体質であったため、短期間のうちに別れ、その後は主に人間の想像力にかかわる事象をより合理的で散文的に扱った研究執筆活動を行った。本書『夢の現象学』では、夢という確定しがたい現象について、カイヨワの乾いた明晰性がいかにアプローチしていかに整理していったかというところが読みどころである。

【付箋箇所】
16, 23, 38, 46, 49, 81, 108, 114, 130, 138, 146

ロジェ・カイヨワ
1913 -1978
金井裕
1934 -