読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マリオ・プラーツ『官能の庭Ⅱ ピクタ・ポエシス ペトラルカからエンブレムへ』(原書 1975, ありな書房 2022)

1993年にありな書房から訳出刊行されたマリオ・プラーツの芸術論集『官能の庭』の分冊版の第二巻。

イタリア・ローマに生まれ、専門とするイギリス文学研究については20世紀の最高峰と言われるとともに、自国の美術と文芸にも深い理解を持ち合わせていたマリオ・プラーツの本格的文芸論。

イタリア文芸からイギリス文芸への影響を代表的詩作品の豊富な引用とともに論じあげているエッセイは、西欧の詩歌享受層を対象に書かれているため、正直なところ、日本語訳でしか対象の詩に接近することのできない読者層にとってはハードルが高く、十分に味わえることが可能かというと、韻律や詩型などについて想像すらできない部分が含まれていることは間違いがない。

古代から連綿とつづく西欧諸国で使用された諸言語を理解しない日本人、共通の文化的遺産と時代的にも地域的にも微妙に異なる展開を知らない東洋の人間が、訳書だけを通してはたして西洋詩を読めるのかという疑問は常にあるものの、圧倒的な文化的蓄積と地域間での影響関係を指摘されていることが分かると、分からないなりに体験して知りたいという気持ちも芽生えてくる。

ダンテの神曲はむろんのこと、各エッセイの表題にも挙げられているペトラルカ、アリオスト、タッソといったイタリア文学の古典に誘われて、読みも理解もしていない状況にうずうずするだけでも、「官能の庭」といわれる領域の日本語環境が存在する価値は大いにある。

イタリア古典文芸需要側の英文芸の巨星たち、エリオット、ダン、ミルトン、スペンサー、シェイクスピアなどにも関心は向いて、一度には収拾がつかない状況になってしまっているが、とりあえず所属自治体の図書館内で取り寄せられる範囲から本書内容と折り合いをつけられるよう手を打った。

未読のタッソ二篇(『エルサレム解放』と『愛神の戯れ』)とスペンサーの『妖精の女王』。

50歳を過ぎて名作の初読(しかも翻訳作品)とは、いささか恥ずかしいが、そこは致し方ない。ひとりの日本語使用者のひとつの現状を、甘んじて受け入れるのみ。

版元ドットコム:マリオ・プラーツ『官能の庭Ⅱ ピクタ・ポエシス ペトラルカからエンブレムへ』

【付箋箇所】
8, 10, 16, 20, 36, 37, 39, 47, 69, 115, 131, 167, 207, 258, 260

目次:
プロローグ マリオ・プラーツの庭 伊藤博
イギリスのバロック
イギリスにおけるペトラルカ
イギリスにおけるアリオスト
イギリスにおけるタッソ
ペトラルカとエンブレム作家たち
イギリスのエンブレム文学
エンブレム、インプレーサ、エピグラム、綺想
エピローグ ピクタ・ポエシス──バロック期のテクストとイメージ  伊藤博


マリオ・プラーツ
1896 - 1982
伊藤博
1955 -

    

参考:

uho360.hatenablog.com