読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

高橋睦郎句集『十年』(角川書店 2016)

高橋睦郎の第九句集。70代の十年間の集大成となる609句を収める。この十年の間には句作とエッセイからなる『百枕』333句があり、ほかに歌集『高橋睦郎歌集 待たな終末』(短歌研究社 2014)と詩集『何処へ』(書肆山田 2011)ほか多数の詩歌に関する書物を刊行しているのだから、高橋睦郎は常人にはうかがい知れぬ世界を見ているのではないかという思いを持ってしまう。枯れることのない詩心。それは妄執でもあるのだろうが、違う次元を生きているようで、ときに拝みたくなる。私が手にしたのは初版発行後五ヶ月後の第二版。句集で増刷なんていうことはめったにないことだろうから、皆に期待され、尊敬され、且つ畏れらていることが分かる。


『百枕』の感想としてふっと出てきたのは「たまらんねえ、遊び上手」。本書『十年』では「おお、おそるべし」だった。
たとえば第9ページを占める三句のすがた。

瞑れば囀の木となる我か
木となりし我を出で入る百千鳥
春愁の人しやがみ野は曲るなり

すぐれた詩作品のなかでしか見ることのできない凝縮された想像力から生まれる世界がくりひろげられている。
147ページの三句の並びもすごいが、その第三句単独で切り出しても、現実にある異世界が立ち上がってくる。

蛞蝓の雄雌なく互み交みあふ

雄雌のルビは「めを」で、「互み」は自信がないが、読みとしては「なめくじのめをなくたがみつるみあふ」になろうか。
漢字かな交じり表記の日本語の妖しさにも射貫かれる。

 

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高橋睦郎
1937 -