読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ドレの神曲』(原作:ダンテ、訳構成:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2009)

視覚芸術において革命的なメディアとして十九世紀に登場した挿画本で活躍し、その初期において技術的な完成度としてひとつの頂点に達していたギュスターヴ・ドレ。本書はダンテ『神曲』のために作成された140点近い版画作品をすべて刊行当時のオリジナル版より収録し、作家、詩人、ヴィジョンアーキテクトである谷口江里也が縮約版として翻訳再構成し注釈も添付した作品。ドレによる鮮烈なビジュアルイメージとダンテの詩句をベースにした『神曲』の遍歴譚のエッセンスを比較的短い時間で堪能することができるすぐれものの一冊。宝島社版の『ドレの神曲』は、1989年のJICC出版局、1996年のアルケミア出版に次ぐ三度目の新装版として出版されたもので、時代を超えて長く愛され続けていることが分かる。
特徴的なのは『神曲』を構成する地獄篇、煉獄篇、天国篇の分量。ダンテの『神曲』では序歌1につづいてそれぞれ33歌の同一ボリュームで構成されているが、本書ではドレの挿画も谷口江里也の超訳と注釈も地獄篇が圧倒的に多く、煉獄篇、天国篇と進むにしたがってどんどん少なくなっている。地獄篇が162ページ、煉獄篇が82ページ、天国篇40ページという配分。これは物質的なものから精神的なものにステージが進んでいくにしたがって視覚イメージの対象が少なくなり、詩句の内容も抽象的なものが増えていくために必然的に落ち着いていった分量配分なのだろう。したがって、『神曲』そのものにいちばん近いのが地獄篇であり、順に煉獄篇、天国篇と情報量が落ちている。逆に、この『ドレの神曲』をひとつの導きとして『神曲』原典に当たっていくと、煉獄篇、天国篇でダンテが行った詩作の特徴というものが浮かび上がってくるような気もしてくる。勢いがついたところで、今度は『神曲』原典のほうにも手を伸ばしてみたい。

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ダンテ・アリギエリ
1265 - 1321
谷口江里也
1948 - 
ギュスターヴ・ドレ
1832 - 1883