読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

新倉俊一編 西脇順三郎コレクションⅢ『翻訳詩集 ヂオイス詩集(ヂオイス)/荒地/四つの四重奏曲(エリオット)/詩集(マラルメ)』(慶応義塾大学出版会 2007)

語学の天才という評価を誰も否定できない井筒俊彦の語学の先生が西脇順三郎

専門は英文学だけれど、世界を相手にしたモダニズムダダイスムシュルレアリスム運動の中心人物・かけがえのない詩人という側面もあって、19世紀フランス象徴派の代表的詩人というよりも詩人としての最高峰のマラルメの詩の訳を数多く残していることも、なんとなく納得がいく。

訳の特徴としてしては、原詩の逐語訳にこだわらず、行をまたぐ語句の入れ替えを無理なく行って、主意を損ねることなく日本語訳独自の世界観を構築しているところが挙げられる。光量が大きいのに熱くない訳文は、原詩に潜み翻訳ではより増大される可能性が高い秘教的な神秘性を脱色している。陰翳をことさら強調せず、見えるものを有りうべき自然の姿で見せるような、軽さの配慮がほどこされているような印象を受ける。日本的偏光のなかの大いなる正午のもとにいる西脇順三郎が見る世界がこの翻訳詩集には集められているようなのだ。訳詩がまとう陰翳の薄さゆえ、マラルメソネットなどの凝縮された詩篇については、他の訳者による翻訳詩の印象によって上書きされてしまう弱さもあるのだが、エリオットの『荒地』『四つの四重奏曲』のような長篇劇詩においては場面ごとの情景の鮮明さが際立ち、詩篇全体の構成もより容易に頭に入ってくる。マラルメ詩篇では「エロディヤード」「牧羊神の午後」がその世界観をより平易により簡明に伝えてくれている。ある種曲芸じみた西脇独自の翻訳作品は、他の翻訳作品や原詩と比較することでより味わいを増すものであるに違いない。これは時間を十分にかけないといけないものであるはずであるが、とりあえず特徴的な西脇順三郎節をひとつピックアップして、後日に繋げることにしたい。

 

THE WASTE LAND 荒地
 Ⅲ.THE FIRE SERMON 火の説法
  277-278行 の船頭の掛け声
   原詩:Weialala leia / Wallala leialala
   福田陸太郎・森山康夫訳:ワイアララ レイア / ワララ レイアララ
   西脇順三郎訳:ウェンヤラホイ / ウェンヤラホイ

 

掛け声にあらわれる音韻さえ自国語に訳すという意図がうかがえて心地よい。異次元の訳業。

 

www.keio-up.co.jp

 

西脇順三郎
1894 - 1982
井筒俊彦
1914 - 1993    
新倉俊一
1930 - 2021

参考:

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com