無意識は創造されつづけ変様するのだから、神もまた創造しつづけ変形しつづけるという考え方も許されるのではないか? そんなことを思わせてくれた二十世紀後半のアメリカが生んだ長篇詩の翻訳。
ユングは言う――言わないにしても、言っているに等しい――
神と<無意識>は一つであると。ふむ。
僕たちに切り抜けさせ、こっちへ、あっちへと行かせる過失。
故郷から離しておいて故郷へ帰す潮の流れ。
ユングに関してのこの詩句の訳注には、ユング『ヨブへの答え』のなかの次の句への参照が示されている。「神と無意識が二つの異なる存在であるかどうか、見分けられない」。集合無意識なのか個人の無意識なのかはこれだけでは不明だが、神と無意識との比較に目を向けさせるきっかけを与えてくれているだけでも本書の日本語訳の存在価値はある。
詩の構成としては、日本でいえばコックリさんにあたる霊界との交信手段を用いて得られた記録とその交信を取り巻く数か月間の詩的考察と生活の記録からなる。モーツァルトが転生して黒人ロックスターになっているなど、詩を彩る挿話はいろいろあって、翻訳本で200項を超える長詩の内容は豊富で飽きさせない。真偽を追求するよりも、詩にあらわれる出来事とことばの姿から読み手としての自分がどのような刺激を受けたかを振り返るようにしたほうが、読み方としては良いような気がしている。
なお、英詩としての評価としては、ニュー・クリティシズム以降の代表的な批評家であるハロルド・ブルームが振り返し読んだうえで熱烈に称揚していることが訳者によって紹介されている。また訳者自身も本書をもってジェイムズ・メリルがジョン・アッシュベリーと並ぶアメリカ現代詩の最高峰であることを確信している。
一読の価値ある作品。現代海外詩の紹介が少なくなっている現状では訳書があるだけでも貴重。
ジェイムズ・メリル
1926 - 1995
志村正雄
1929 - 2022