読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

沓掛良彦訳 エラスムス『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』(原著 1511, 中公文庫 2014)

意図することなく宗教改革の火付け役のひとつともなった作品。軽いようでいて、現状回復不能にしてしまう、パロディの掘り崩す力を、沓掛良彦によるラテン語原典からの新しい翻訳ですっきり楽しめる。五百年前の古典作品ではあるが、友人のトーマス・モアの『ユートピア』と同様、文芸作品としていまでも普通に読める。歴史的文書として研究の対象であるにとどまらず、一般読者層にも開かれた現役の風刺作品。痴愚の女神は万人に受け入れられているという皮肉が、まあそういうものだよねと痛みもなく受容できてしまう現在地は、問題といえば問題かもしれない。

『大使たち』で有名な画家ハンス・ホルバインの挿画と、100ページに迫る豊富な訳注も作品の味わいを深めてくれている。特に訳注は博覧強記のエラスムスが自作に取り込んだ古典作品への丁寧な案内にもなっていて、深掘りしたい人にも対応できている。

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デシデリウス・エラスムス
1466 - 1536
沓掛良彦
1941 -