読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アウグスティヌス『神の国 (一)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1982)

アウグスティヌスの主著、正式名称『神の国について異教徒を駁する』全22巻のうちローマ陥落をめぐる保守勢力のキリスト教批判への対抗としてローマ帝国に内在していた問題をめぐって書かれた第1巻から第5巻までを収めている。神話の神々とその祭祀、ストア派の哲学とそのもとになされた政治が持つ限界を、キリスト教神の国の総合的視点から指摘しつつ、ローマの没落の原因を人間の弱さと愚かさにあったことを解き明かしていく。ラテン語教育で古典文芸に触れ、マニ教に熱狂した時期を経て、新プラトン主義に多くを学んだ時期を持った経歴のアウグスティヌスならではの広範で詳細な知識からなされる異教徒論駁は、敵側の素性をよく分析しているために、キリスト教国教化以前のローマについておおいに参考になる情報が含まれていて、いま読んでもなかなか面白く役に立つ。

神の国』全22巻は、西暦413年アウグスティヌス60歳から書きはじめられ、完結したのは426年の73歳の時、14年にわたる渾身の大作。敵をよく知り、十分に論じていく構えのゆるぎなさが感じとれたのがこの冒頭の5巻。老年に入ってからも腰を落ち着かせてじっくりひとつひとつ論考を積みあげていく姿勢は、驚異的で、尊敬に値する。読者側も変にあわてることなく、じっくり付き合っていけばいいのだと言外に言われているような気もした。

なお、岩波文庫第一分冊の解説は全22巻すべてを見通せるよう書かれているので、先入観なしに原典に当たりたい向きは、全巻通読後に振り返るようにして読んだ方がよい。

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【付箋箇所】
68, 78, 87, 93, 114, 117, 152, 273, 328, 373, 389, 398, 407, 433, 440, 456, 457, 467

アウグスティヌス
354 - 430 
服部英次郎
1905 - 1986
藤本雄三
1936 -