読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アンドレ・ブルトン+アンドレ・マッソン『マルティニーク島 蛇使いの女』(原著 1948, 松本完治訳 エディション・イレーヌ 2015)

第二次世界大戦下のフランス、1940年6月ナチスドイツの侵攻によりパリが陥落したのち、ナチスの傀儡であるヴィシー政権が成立、危険な無政府主義者たちあるいは退廃芸術家と目されていたシュルレアリストたちは、アメリカへの亡命を余儀なくされた。本書はシュルレアリスム法皇といわれたアンドレ・ブルトンと、オートマティスムと幻視的表現で評価の高いアンドレ・マッソンが、ニューヨークへの亡命の途上に立ち寄った、当時はまだフランスの植民地であったカリブ海に浮かぶマルティニーク島で過ごした日々から生まれた、シュルレアリスムのイメージを多角的に捉えたアンソロジーブルトンとマッソンそれぞれの詩と対話、マッソンの挿画とブルトンの滞在記的な散文からなる本篇100ページに満たない小さな書物だが、ブルトンとマッソンそれぞれの特徴がよく出ているのが面白い。マッソンの感覚的芸術観と、ブルトンの思考優位の芸術観の対比は、本書においては衝突するようでいながら相乗効果を上げている。実際にブルトンとマッソンは袂を分かっていた時期も存在しているので、本書は危ういバランスの上に成立した貴重な共同作業の作品ともいえる。ブルトンには狷介なところがあり、対立やグループからの除名処分などのケースが頻繁に発生しているところなどは、いままであまりよく思っていなかった部分があるが、本書で語られるマルティニーク島の詩人エメ・セゼールの出会いとその後のアメリカの地でのエメ・セゼールの紹介活動などを知ると、自身が認めた芸術家に対してのブルトンによる心からの賛美の活動の凄さがいまさらながら分かりはじめた。

訳者松本完治による熱のこもった解説も手伝って、ブルトンにすこしだけ目が開いたような気がする。またマッソンやエメ・セゼールへの関心も出てきたので、火が消えないうちに次の一手を打てるよう準備したいと思った。

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【付箋箇所】
23, 28, 29, 97, 113, 116


アンドレ・ブルトン
1896 - 1966
アンドレ・マッソン
1896 - 1987
エメ・セゼール
1913 - 2008
松本完治
1962 -