読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

桑原武夫+大槻鉄男選『三好達治詩集』(岩波文庫 1971)

いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャンルとして短歌、俳句は取り上げられていて、特に俳句に関しては蕪村好きを公言、明治、大正、昭和の各時代の俳人の作品についても多く語っているところから、資質的には短歌よりも俳句により親和的なものを持っていたと思われる。門下生的な存在で三好達治に関する著作を複数持っている石原八束は、飯田蛇笏が主宰していた「雲母」の俳人で、本書中に収められた句集『路上百句』の編者でもある。三好達治晩年の16年間、頻繁に交流していた石原八束の選は丁寧でかつ的確で、三好達治俳句の傾向をよく示していると思われる。詩作品にも通じるところであるが、実景をそのまま映すというよりは、ある世界を構築する創造性とともに抒情が充填されているところが三好達治の特徴なのではないかと感じさせるものがある。

鸚鵡叫喚日まわりの花ゆるるほど
代謝みなうつくしき枯木立
こすもすや干し竿を青き蜘蛛わたる
水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり
狗悲鳴寒夜の奥にころがりぬ

メルヘンというと言いすぎだが、虚構の世界に足を踏み入れてしまったかのような浮遊感というか幻想性が文字から薫ってくる。

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三好達治
1900 - 1964
桑原武夫
1904 - 1988
大槻鉄男
1930 - 
石原八束
1919 - 1998