読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫 1991, 至文堂 1952)

「初めて現代詩を読もうとする年少の読者のために」書かれた批評家的資質の確かな詩人による現代詩入門書というのが本書の位置づけではあるが、刊行年度が1952年ということもあって、内容的には文語調の近代詩から口語自由詩へ発展し定着していく過程をたどるという、21世紀の現在においては研究書としても読めるであろう、硬質の論考となっている。新体詩から出てきた島崎藤村の詩を音韻論から読み解きはじめ、次世代の薄田泣菫蒲原有明の文語調のサンボリズムの詩のイメージを使用された語彙に沿ってこまやかに解きほぐしていく。さらに北原白秋、伊良子清白、三木露風を経て本格的な口語自由詩の時代に入っていくことが、各詩人の特徴的な詩作品を読みすすめながら紹介されている。なによりも詩作品そのものを鑑賞することに力点を置いているために、案内なしでは時代的に隔たりを感じてしまうような古典的作品であっても、現代的な鑑賞にも耐えうるような位置に引き上げつつ案内しているところが驚きである。薄田泣菫蒲原有明の作品に使用される象徴が、使用されている言葉が古くてイメージしがたいものから、理解者三好達治によって補助線を引かれることで明確な世界像におさまっていくところなどは、見事としか言いようがない。読み継がれる名著が持ついつまでも新しい力というものがどのようなものか、本書を読むことで体感できると思う。

なお、本書で取りあげられる詩人は登場順に挙げていくなら以下のようになる。

島崎藤村
薄田泣菫
蒲原有明
北原白秋
伊良子清白
三木露風
高村光太郎
山村暮鳥
千家元麿
村山槐多
中川一政
室生犀星
佐藤惣之助
中野重治
大木惇夫
佐藤一英
萩原朔太郎
堀口大学
丸山薫
竹中郁
田中冬二
津村信夫
立原道造
中原中也
伊東静雄
そしてふたたび萩原朔太郎室生犀星堀口大学

いちばん若い詩人が伊東静雄ということで戦中派までの詩人しか扱われていないのが残念といえば残念。そのほか特徴としては女性詩人がいないこと、草野心平宮沢賢治が入っていないことが挙げられるかもしれない。

www.iwanami.co.jp


三好達治
1900 - 1964