読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

松長有慶『訳注 声字実相義』(春秋社 2020)

『訳注 即身成仏義』についで刊行された空海訳注シリーズの第4弾。
大日如来が現実化したものとして現われ出ている現実世界をかたちづくるものすべては塵すべては文字いう空海密教思想を説いた『声字実相義』の解釈本で、平易な表現にもかかわらず、古くからの研究の蓄積をも教えてくれるところが初心者にもありがたい一冊。法すらも塵として分類する仏教の慣習にははじめたじろぐが、執着の対象となりうるものを塵と呼んでいることを踏まえて読むと用語にとらわれ過ぎずに理解できるようになる。

眼耳鼻舌身意の六つの感覚器官(六根)のそれぞれの対象となる色声香味触法(六境もしくは六塵)の特定のものに囚われることなくあるがままを聞き取りあるがままを読み取ることで真実に通じることができるというのが空海の主張で、執着なく真実を見るための修行が密教の行であるという。

五大に皆響き有り。十界に言語を具す。六塵は悉く文字なり。法身は是れ実相なり。

能生は則ち五大五色、所生は則ち三種世間なり。此れ是の三種世間に無辺の差別(しゃべつ)有り。是を法然隨縁の文字(もんじ)と名づく。

大日如来と一体化するために世界の響きを聞き世界の文字を読む。ただし漫然と聞いたり読んだりしたりするだけではダメで、曼荼羅のような遺漏のない体系立った世界観のもとに読みまた聞くことが必要なのであろう。生成と消滅をくりかえしている表層の姿に惑わされることなく、本来的であるがままの不生の全一感に融合していくことが望まれているようである。生み出すものである「能生」と生み出されるものである「所生」を同時にまるごと真実として了解していくことが求められている。

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【付箋箇所】
18, 26, 27, 32, 34, 47, 55, 65, 71, 74, 80, 85, 93, 97, 105, 110, 119, 129, 134, 157, 162, 165

目次:

『声字実相義』の全体像

声字実相義 本論

一 序説
 1 内容の区分け
 2 主題の提示

二 本論
 1 本論の区分け
 2 題名の解釈
 3 内容の解説
 4 声字実相の内容
 5 色塵の文字 
 6 ものの存在について
 7 仏身と国土


空海
774 - 835
松長有慶
1929 -