読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

浅野秀剛『ARTBOX 鈴木春信』(講談社 2017)

浮世絵師鈴木春信の活動期間は1760年の数え36歳から1770年に46歳で亡くなるまでの約10年間で制作点数は1000点を超える。本書にはそのなかから116点の浮世絵がカラー図版で収められている。書籍のサイズがA24取(140×148)と小さめのため、「空摺」や「きめ出し」などの擦りの技巧が見えづらいところがあるが、コンパクトなわりには多くの作品が収められ、それに正確かつ著者の鑑賞眼がにじんだ解説文がしっかりと添えられているので、鈴木春信の作品の見どころや味わい方がよくわかる優れた入門書になっている。古典の題材を踏まえた「やつし絵」や「見立絵」についてもサラッとした指摘になっているのが本書の味。たとえば第42図「頭巾をつかむ女」の解説文前半はこんな感じ。

男がこっそり恋文を読んでいるのを見つけて女が怒っているようにみえますねえ。女が長菷を勇ましく構えているのは、これが『平家物語』を踏まえた情景だから。

敷居の外がすぐに海になっている構図は単に見ただけでは不思議なだけで、古典作品の参照があることは説明してもらわないとなかなか気づくことはできない。作品が制作された当時の江戸の富裕層の遊び人たちは、画面に描かれたものだけからその参照先を想像して楽しんでいたというのだから、なかなか高尚な遊びの世界だったのだろう。

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目次:
1章 おかしな状況
2章 恋する風景
3章 かわいい子ども
4章 四季の江戸
5章 美人図鑑

鈴木春信
1725? - 1770
浅野秀剛
1950 -