読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

D・H・ロレンス『無意識の幻想』(原著 1922, 照屋佳男訳 中公文庫 2017)

チャタレイ夫人の恋人』などの小説で有名なD・H・ロレンスの文明批判の書で、生命を阻害する知性を糾弾し、反知性主義を押し出している論考。本人はいたって科学的と主張しながら持論を展開しているのだが、その宇宙論や生命観、性の理論や教育観は、詩人の想像力と現実への不満から生まれた文学作品ととらえたほうがしっくりくる。ガストン・バシュラールが『空と夢 運動の想像力に関する試論』で本書を取り上げる際の態度も、ロレンスの詩人としての発想と表現のめざましさに焦点をあてることに限定されていて、フロイトの理論と比較して学問的な正当性や優位性を指摘するものでは全くなかった。

生は、太陽から引き出されるのではなくて、太陽に養分を補給しているのは、生それ自体からの放射物、すなわち生き生きと生きているすべてのもの、植物、動物からの放射物である。

ここで言われる太陽は、太陽系の中心にある巨大な恒星であるよりも、生命によって感覚され認識されるうえでの太陽といったほうがしっくりくるもので、科学よりも神話の対象として考えた方がよい。人間の原初の意識は脳による知的な働きによるものではなく、母胎とのコミュニケーションを行っている胎児の時から存在する太陽神経叢にあるとする見解も、科学的な正不正から見るよりも、知性偏重の現代社会生活にたいする身体側からの抵抗としての批評ととらえたほうが受け入れやすく展開の余地もひらけてくる。
ロレンスはあくまで作家、あくまで詩人であり、非日常的で希少性のある鍛え上げられた表現をまずは味わうべき人物なのではないかと思う。

※ネット上で調べると5年前に刊行された文庫本が新刊本としてはもう取り扱い対象外となっている。厳しいね。

【付箋箇所】
27, 32, 36, 44, 63, 71, 73, 80, 83, 117, 124, 184, 190, 208, 217, 270, 315, 317, 318, 328, 332, 340, 342, 346, 350, 351, 352, 356, 362, 368, 382

目次:

序文
聖家族
神経節、横隔膜の上下のレベル等
樹木・幼児・パパ・ママ
五感
知性の最初の微光
教育の最初の諸段階
教育・男女の性・子供の性
性の誕生
親の愛
悪循環
連祷風に―強く勧めたいこと
宇宙論
眠りと夢
下半身

D・H・ロレンス
1885 - 1930
照屋佳男
1936 -