世界を構成する四元素、地水火風が詩人をいかにつらぬき、いかに造形するかを、実践的にとらえようとする詩的創造の試み。16行のソネット形式の作品を64篇を重ねて一冊とし、4年4冊で完結させた意欲的連作詩集。
Agend'Ars 左右社 2010
島の水、島の火 Agend'Ars2 左右社 2011
海に降る雨 Agend'Ars3 左右社 2012
時制論 Agend'Ars4 左右社 2013
今回読むことができたのは、1冊目から3冊目。言語によって踊るように前進していく様に、躍動感がある。詩人はもっぱら移動の人であ、性質を異にする定住型の私のような読者をも、運動に巻き込むような親しさと力強さを持っている。「水牛のように」という高橋悠治がメインのサイトほかで、いま現在も精力的に詩作をつづけていることも手伝って、生成しつつある日本の現代詩人の姿を、見つめ、辿りなおせることができる貴重な存在であると思う。
詩を構成しているのは、たとえば次のような言葉たち。
けれどもわれわれには沈黙が声として聴こえるのだ
太陽に感謝することをこの土地は長いあいだ忘れている
猿が見るのは、おびただしく飛び交う巨大な蝶
言語的な庭園を、見慣れない菜園を作りたい
生命のはかなさには成長というはなやぎがある
すべての季節が試練であり衝撃だ
新たな風景が流れ込みそれでそれだけ多くの結び目をもつようになる
あらゆる陽の翳りと月の出を超えてわれわれは移住を試みる
立体視が幽霊を求めている
横たわる想像力がみずからを離脱し超越するのだ
ぼくは空を見上げ回想を拒絶した
犬と子供たちがずぶぬれになって笑っている
新たな一歩、新しい出会いが生まれる瞬間を感じることができる言葉たちの数々が存在している。
※管啓次郎を知るには、とりあえず「水牛のように」のサイトで近作を読んでみるのが、一番の近道。2022年11月号からの新シリーズ「図書館詩集」から入ってみるのが連載中の臨場感も感じられて、よいのではないかと思う。
参考:
管啓次郎
1958 -