読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

梅津濟美訳『ブレイク全著作』1 (名古屋大学出版会 1989)

ウィリアム・ブレイク(1757 - 1827)というと、日本では『無垢の歌、経験の歌(Songs of Innocence and of Experience, 1789, 1794)』が圧倒的に有名で、次いで比較的短い詩篇『天国と地獄の結婚(The Marriage of Heaven and Hell, 1790-1793)』が多く訳され、ブレイクの驚愕に値するキリスト教異端の神秘的世界観の一端に触れることができるが、研究書やブレイク自身の版画作品を語るときに取り上げられることが多い長篇の預言的詩作品については簡単に翻訳で読むことはなかなか困難なのが現状である。
そのなかで、名古屋大学出版会から刊行されている梅津濟美による個人訳ブレイク全著作は、草稿やブレイクが所有していた本への書き込みを含めて、すべての作品を日本語で読むことができる貴重な作品として存在している。
東京の自治体でも、半分以下くらいしか図書館で所蔵していない、価格も重量もずっしり重めの著作であるが、ようやく手に取りやすい環境に移ったこともあって通しで読むことにしてみた。今回の記録は全二冊のうち一冊目。1783年のブレイクの初期作品から1800年43歳までの作品を収めている。「預言書」と呼ばれる『四人のゾアたち』『ミルトン』『エルサレム』の三つの作品のうち、『四人のゾアたち』(1797)は本巻で読むことができる。上下二段組みで230ページにも及ぶ長篇作で、草稿のまま残された作品とあって、到底読みやすいといえる代物ではなく、神話的世界観を表現する言葉も不十分で、初読では何を言わんとしているのか読み取るのさえ難しい。さすがに終局に向かっていくときの詩語の勢いには見事に乗せられ、ただならぬ印象を残すものではあるが、全体としては、商品として単独で刊行しようとするのは、当時も今も無理な感じがした。完成品ではないものを取り上げて、日本語の狭いマーケットで翻訳出版までするのはたいへん勇気のいることであろう。『四人のゾアたち』がなぜ翻訳されにくいのか分かったことだけでも本巻を読み通してみた甲斐があった。
二巻目には残りの預言書『ミルトン』『エルサレム』が控えている。どのような作品なのか今からちょっと楽しみである。
※以前目を通した版画のカタログと一緒に読めればよかったのだが、それはまたの機会に譲ることとしよう。

その時大いなる永遠界にいるすべてのものが神の会議に相会した
一人の人間すなわちイエスとしてギレアデとヘルモンの上で
収縮の限界の上で落ちた人間を創造するために
墜ちた人間は死体のように軟泥質の岩の上に長々と横たわっていた
(『四人のゾアたち』「ヴァラ 第八夜」より)

www.unp.or.jp

【付箋箇所(上下二段組み a:上段、b:下段)】
99a, 126b, 130b, 133a, 140a, 155a, 240a, 243a, 250a, 281a, 288b, 295a, 310b, 348b, 350a, 355b, 363b, 396b, 403a, 503b, 525b, 528a, 543b, 551a, 554b, 560a, 568a, 577a, 585a, 606a, 612b, 622b, 624b, 667a, 700a, 709b, 766a


目次:

詩的素描 一七八三年
[七ページ稿本][一七七七年に近い頃]
[月の中の島][一七八四年暮れ近く又はその少し後]
『詩的素描』の一本に書かれた詩[一七八九年『無垢の歌』彫版に近い頃]
ラーヴァターの『人間についての格言』に対する書き込み[一七八八年]
スヴェーデンボリの『天国と地獄』に対する書き込み[一七八八年頃]
すべての宗教は一つである[一七八八年頃]
自然宗教はない[一七八八年頃]
ティリエル[一七八九年頃]
セルの書 一七八九
無垢の及び経験の歌
 無垢の歌 一七八九
 経験の歌 一七九四
スヴェーデンボリの『神の愛と神の知恵』に対する書き込み[一七九〇年]
スヴェーデンボリの『神の摂理』に対する書き込み[一七九〇年頃]
フランス革命 一七九一年
天国と地獄の結婚[一七九〇~一七九三年頃]
[手帖]からの詩と断片[一七九〇~一七九三年頃]
断片「人の妖精が僕の膝の上ではね回った」[一七九三年頃]
アルビオンの娘たちの幻想 一七九三年
アメリカ 一つの予言 一七九三年
公衆に
子供たちのために 楽園の門 一七九三年
ユリゼンの[第一の]書 一七九四年
ヨーロッパ 一つの予言 一七九四年
ロスの歌 一七九五年
ハニアの書 一七九五年
ロスの書 一七九五年
僕は盗人に
四人のゾアたち 一七九七年
ウォトソンの『バイブルの弁護』に対する書き込み[一七九八年]
ベイコンの『随筆集』に対する書き込み[一七九八年頃]
ボイドのダンテへの『歴史的注』に対する書き込み[一八〇〇年頃]
トマス・グレイの詩集のためのブレイクの水彩による挿画に附された詩行[一八〇〇年頃]

 

ウィリアム・ブレイク
1757 - 1827
梅津濟美
1917 - 1996

参考

uho360.hatenablog.com

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