読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ベリー公のいとも美しき時禱書』(原著 1998 解説:フランソワ・ベスフルグ+エバーハルト・ケーニヒ, 翻訳:冨永良子 岩波書店 2002)

中世末期の彩飾写本のなかでもひときわ美しく規模の大きな時禱書を紹介解説している大型本。カラーとモノクロを織り交ぜ、多くの図版を使って全体図と部分を隈なく取り上げている充実の一冊。もともと一冊であったものが歴史の中で三分割され、そのうちのひとつである『トリノの祈禱書』は1904年の火災で焼失してしまったためにそれ以前に撮影されたモノクロ写真であるのは大変残念なことだが、それでも近代の絵画につながる図像のスタイルが、彩飾画作成に参加した中世末の多くの画家のそれぞれ異なる作風から感じ取れるところが素晴らしい。特に油彩技法の確立者であるヤン・ファン・エイクの写本での作品がほかの作家たちのなかに置かれながら鑑賞できるところは、彼の個性が突出していたことを知るよい機会となってくれている。

彩飾画ごとに付けられた解説文は、題材がどこからとられ、どのように画かれているかを中心に書かれていて、一般読者層にも読めるものとはなっているが、比較的専門性が強い文章で、しかも時禱書のページごとのぶつ切りの解説になっているために、有機的な読み物としてこの時禱書とそこに収められた彩飾画の全体像を一度で無理なくイメージできるようにまではなっていない。この点は繰り返し接していくことで解消するほかないものだろうと思う。ただ、図版だけ見ていても十分に満足できるところもあるので、色彩と形の見事さや愛らしさや変化の多さを享受しながら、時間をかけて自然に親しんでいくのがよいのだろうと思う。

 

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【目次】
まえがき

『いとも美しき聖母時禱書』
 聖母の聖務日課
 悔悛詩篇と死者の聖務日課
 受難の祈禱
 聖霊の聖務日課
 受難の聖務日課
 三位一体への祈禱と天使たちへの祈禱

トリノの祈禱書』(焼失した写本)と『ルーヴルの断片葉』
 『トリノの祈禱書』と1904年の火災
 月暦
 全能の神への3つの祈禱
 聖母の嘆きの聖務日課
 ミサ挙行中に誦すべき信徒のための諸祈禱
 聖人たちへの祈禱

トリノ=ミラノのミサ典書』
 テンポラーレ
 サンクトラーレ
 いくつかの随意ミサ

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