伝統と革新(というか奔放)、美と戯、聖(というか異)と俗、両極を自在に行き来して自身の描画能力を存分に発揮した日本近世の突出した画家河鍋暁斎。
海外作家と比較するなら、ヒエロニムス・ボス、ブリューゲル父が思い浮かぶ。
ところが似ているところはあるのだけれど、日本近世と西欧中世では大きく違う。
乾いていて極端に軽い。
空間が充実しているのに気持ちよく抜けているところがある。
どちらかといえば縦長の画面構成が多いことも影響しているかもしれない。
どちらも素晴らしい画業を伝えてくれる画集ではあるが、あえて比べるなら、企画編集の点で『暁斎妖怪百景』のほうに優位性があるように思う。
異なる世界をまとまったかたちで集めたところからくる魅力が大きい。
傑作『暁斎百鬼画談』全図を巻頭に据えて、それに呼応する系統の作品をあわせて、細かい表現上の違いから画家の卓越した技術を伝えている。技術ばかりでなく発想の柔軟性も伝えている。
京極夏彦による伝統を受け継いでいる暁斎の位置、土佐光信-鳥山石燕-河鍋暁斎の流れをしっかり伝える解説と、多田克己による的確な巻末作品解説により、図版と解説文を往復して鑑賞することができることが素晴らしい。
河鍋暁斎
1831 - 1889