訳者である四方田犬彦が畏友中上健次の死で落ち込んでいたときにはじめた仕事。鬱屈と喪失感から逃れるためには、パゾリーニの詩は、よき道連れとなったであろうと思われる。さまざまな闘争のなかで、多くは敗れ、傷つき、孤立し、なんとか回復を期そうと綴られたいくつもの詩篇の、哀愁に満ちた甘美な味わいは、初読を終えて、ぽつぽつと拾い読みしているときのほうが、こころに沁みてくる。街の喧騒から退いて、独り詩を書き、己を鼓舞する姿勢には、荒ぶるこころ、荒んだこころを慰める優しさがある。
さあ、光だ、神の不滅の白さだ。
神は間近で息を吹きかけ、
われわれを濡らした。乱れた海から顕われ、
塩水に濡れ、水の飛沫に恍惚となった
円柱の列の間で、手触りがかくも荒っぽいので、
砕け散る波の響きは弱められた。
(「わが時代の信仰」より)
詩人として、映画監督として、脚本家として、作家として、批評家として、輝かしい活動を送ってきた半面、事件や事故に見舞われることの多い悲劇的な生を送ったパゾリーニの、ひとりの小さな人間としての生の声が聞こえてくるような印象を与えてくれる一冊。
【付箋箇所】
56, 95, 164, 188, 206, 218, 220, 222, 293, 385, 390
ピエル・パオロ・パゾリーニ
1922 - 1975
四方田犬彦
1953 -
中上健次
1946 - 1992