読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

中央公論社 日本の絵巻20『一遍上人絵伝』(1988年刊 編集・解説 小松茂美 )

踊念仏の一遍(1239~1289)没後十年の1299年、弟子の聖戒が師の言行をとどめ置くために詞書を調え、土佐派系統とみられる絵師の法眼円伊に描かせた全12巻におよぶ伝記作品。人が集まる法話の様子や時衆による踊念仏の集団表現や、それらとともに画か…

岩波文庫『伊東静雄詩集』から「八月の石にすがりて」

ここ数年、年に数回『伊東静雄詩集』を読んでいる。心がざわついているときに読むと、どういうものかそのざわつきから距離を置くことができるようになるので、なんとなく手に取る回数が多くなっている。今年は引越しの前後にわりとよく読み、そして先ほど、…

新潮社 日本詩人全集24『金子光晴・草野心平』(新潮社 1967)

戦前戦中戦後を貫いて日本語の詩に身を捧げた草野心平と金子光晴のカップリング。 強烈。 詩作品だけでも強烈なのだが、貧乏ななかで飲み食い生活しているところの人物としての二人の精神状況はさらに強烈。一緒に生活しろと言われたら、かなりつらい人たち…

嶋岡晨編 日本の詩『草野心平』(ほるぷ出版 1975)

青年期の作品から中年期を経て老年期の作品まで万遍なく採られた本詩選集は、詩人の歩みにおいて変わらないものと変っていくものをふたつながらたどり、言葉を書きながら生きることもある人間のひとつの軌跡を描き出している。嶋岡晨の選による暦年形式の詩…

思潮社現代詩文庫『草野心平詩集』(思潮社 1981)

吉原幸子の編集構成になる草野心平詩選集。発行詩集暦年方式とは全く異なる構成をもつので、ほかの詩選集とは一線を画している。そのため、よく取り上げられる代表的詩作品もすこし違った印象が新たに出てくるし、近くに配置されている詩にもより親しみや感…

草野心平 詩集『自問他問』(筑摩書房 1986)

1974年の『凹凸』からはじまった年次詩集第十二作。八十二歳で刊行された本書が生前最後の詩集となった。全31篇。三度の入院生活を送ったなかでのすべて新作の作品集。さすがに一歩一歩の歩みをたしかめながら進まざるをえない詩作の道ではあるが、人々へ…

草野心平 詩集『幻象』(筑摩書房 1982)

草野心平、七十八歳が詠いあげた詩境。 心の動きの必要条件たる身体の状態は惨憺たるものながら、身体条件に屈するわけにはいかない歴史的背景をも持った詩人の精神性が、あるかなきか、たえず惑わせつつある詩的空間に向けて渾身の言葉を放つ。 本書を構成…

入沢康夫編『草野心平詩集』(岩波文庫 1991)

日本近現代詩において視覚詩とフィクション形態の連詩という観点からみると、岩波文庫で草野心平の詩選集の編纂したのが入澤康夫(岩波文庫の表記は新字だけれど旧字の入澤康夫のほうがしっくりくる)だということに大いに納得がいった。宮沢賢治の研究評価…

彌生書房 世界の詩36 田村隆一編『草野心平詩集』(彌生書房 1966)

草野心平の七九歳から八十歳にかけての詩を収めた詩集『玄天』(1984)で何かに撃ちぬかれたような感覚を持ってから、草野心平の詩選集を複数入手して、順次浸っている。本書は一世代後の「荒地」を代表する詩人田村隆一が、1966年という時代において選…

高橋敏『白隠 江戸の変革者』(岩波現代全書 2014) 動中の工夫は静中に勝る事百千億倍

禅画と墨蹟の芸術家白隠でもなく、臨済宗の聖僧たる思索家白隠でもなく、寺院経営と著作出版に機敏に立ち回り独自のこだわりも見せる、世俗に深くかかわりをもった人間くさい側面を中心に紹介がなされた白隠の評伝。禅宗史の芳澤勝弘の業績と美術史の山下裕…

未来社 シリーズ 転換期を読む28『蒲原有明詩抄』(未来社 2021)

日本近代詩黎明期に活躍した象徴派の詩人、蒲原有明。青空文庫でも読めるような明治期の詩人の詩選集が、立派なつくりの紙の新刊本で出ているのを見ると、何ごとかと思う。刊行者がどんな意図をもって仕掛けてきたのかを探ってみたくもなる。このシリーズで…

思潮社現代詩文庫『尾形亀之助詩集』(思潮社 1975)つまづく石でもあれば私はそこでころびたい

「つまづく石でもあれば私はそこでころびたい」は第三詩集の巻頭に置かれた言葉。この時、尾形亀之助三十一歳。生前刊行した最後の詩集で、その後十二年、今現在もつづく日本の代表的詩誌「歴程」の同人になって詩を発表することもあったが、餓死による自殺…

堀内進之助+吉岡直樹『AIアシスタントのコア・コンセプト 人工知能時代の意思決定プロセスデザイン』(ビー・エヌ・エヌ新社 2017)

AIアシスタントというのはスマートスピーカーのようなAIを利用するための仲介役をはたすデバイスやサービスのこと。IT業界に身を置いている立場上、ある程度の情報を入れておかないと話についていけなくなるので、情報収集と動向確認のため本書を手に取…

本間邦雄『時間とヴァーチャリティー ポール・ヴィリリオと現代のテクノロジー・身体・環境』(書肆心水 2019)

資本主義経済が光速の電磁波活動圏を手にしてから後の世界で、生身の人間がどう対応したらよいのか。まずは現状を確認するためにも、速度の思想家ポール・ヴィリリオに尋ねてみるのが適当だ。本書はヴィリリオ『電脳世界』の訳者でもある著者のヴィリリオ論…

西垣通『新 基礎情報学 機械をこえる生命』(NTT出版 2021)

人間をこえる人工知能という、一神教的世界観を引きずったトランス・ヒューマニズム(超人間主義)の思想に根をもつ近未来の世界像に異を唱える西垣通の基礎情報学の3冊目のテキスト。最新の学問動向に反応しながら、ネオ・サイバネティクスのひとつの流派…

大橋俊雄校注『一遍上人語録 ― 付 播州法語集 ―』(岩波文庫 1985)

遊行の捨聖、一遍智真。 「南無阿弥陀仏 決定往生六十万人」の念仏札を配り歩き、踊念仏を興した鎌倉時代の僧。 輪廻も極楽浄土も信じられない人間であっても、遍満する仏や本来無一物や他力の仏教思想には慰められることがけっこう多い。年をとってきて、自…

思潮社現代詩文庫 38『中桐雅夫詩集』(1971)「防御としての生の持続と緊張」のなかから生まれたリリカルでメランコリックな詩

自身の詩集の編集を任せるなど関係の深い長田弘が、本詩選集においても詩と詩論の選定と構成さらには作品論も担当している。また、詩人論は「荒地」同人の鮎川信夫が親愛を込めて綴っており、作品も人物も深く愛された詩人であることが伝わってくる。 年長の…

中桐雅夫 詩集『会社の人事』(晶文社 1979)

80歳の草野心平が詩集『玄天』で年少の詩人の追悼詩を書いていた。中桐雅夫、享年63。日の暮れる前からアルコールを飲んでいたことがうかがわれる内容で、気になって詩集を探して読んでみた。生前最後の詩集になってしまった本書『会社の人事』は、還暦…

鍵谷幸信編 日本の詩『西脇順三郎』(ほるぷ出版 1975)

ほるぷ出版の西脇順三郎詩選集。『ambarvalia』と『旅人かへらず』が全篇収録されているのが特徴。今回は『旅人かへらず』全篇読むことが主眼。日本的シュルレアリスムの詩集『ambarvalia』から後退したと捉える読み手もいる『旅人かへらず』であるが、淋し…

谷川俊太郎『ミライノコドモ』(岩波書店 2013)

谷川俊太郎82歳で刊行された新作詩集。全27篇。 注文を受けずに書いて、未発表のまま本書にはじめて収録された作品が10篇、不詳の作品が2篇と、純粋に能動的に書かれたものが多く収められていて、そのためもあってかどことなく素っ気ないナマ感のすこ…

草野心平 詩集『玄天』(装丁も著者 筑摩書房 1984)

ケルルン クック。 るるるるるるるるるるるる・・・ 蛙の詩人、草野心平の七九歳から八十歳にかけての詩を収めた詩集。 朝の血達磨は太平洋の水平線から。スルリせりあがり。不盡山巓の雪は。淡いバラ色。(「不盡の衣裳」部分) モダンかつ幻妖な詩句。旧字…

松岡正剛+ドミニク・チェン『謎床 思考が発酵する編集術』(晶文社 2017)

謎床、なぞどこ。 謎を生み出すための苗床や寝床のような安らいつつ生気を育む場という意味でつけられたタイトル。 ぬか床で漬物をつけているという情報工学が専門のドミニク・チェンが、正解を導くために必要とされるある謎を生む必要があり、謎を触発した…

西垣通『集合知とは何か ネット時代の「知のゆくえ」』(中公新書 2013)

資本主義経済下で実学志向の御用学問としての色合いをますます強めていっている専門家による専門知の凋落傾向と、スポンサー重視の情報発信がもたらす弊害を、より強く感じるようになった二十一世紀の社会。あわせて、インターネットという情報インフラの進…

富士川英郎編訳『世界詩人全集 13 リルケ詩集』(新潮社 1968)

『ドゥイノの悲歌』全十歌をメインに構成された富士川英郎単独訳のリルケ翻訳詩集。『ドゥイノの悲歌』のほかには、『時禱集』から21篇、『形象集』から19篇、『新詩集』から43篇、『オルフォイスへのソネット』から15篇、『拾遺詩篇』として42篇…

古井由吉『詩への小路 ドゥイノの悲歌』(初出「るしおる」1997-2005, 書肆山田 2005, 講談社文芸文庫 2020)

内向の世代の代表的小説家、古井由吉の六〇歳代の九年間にわたって詩誌「るしおる」に連載されていた、本人による訳詩を含む詩に関するエッセイ二十五回分の集成。ドイツ語、ドイツ文学の大学教師をやめて執筆活動に専念した古井由吉が、詩人たちの「晩年の…