読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2022-01-01から1年間の記事一覧

三好達治『萩原朔太郎』(筑摩書房 1963, 講談社文芸文庫 2006)

萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治の詩人論。『月に吠える』『青猫』で日本の口語自由詩の領域を切り拓いたのち、「郷土望景詩」11篇において詩作の頂点を迎えたと見るのが三好達治の評価で、晩年の『氷島』(1934)における絶唱ならぬ絶叫は、詩の構成からい…

桑原武夫+大槻鉄男選『三好達治詩集』(岩波文庫 1971)

いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャン…

石原八束『駱駝の瘤にまたがって ――三好達治伝――』(新潮社 1987)

生前の三好達治の門下生として親しく交流した俳人石原八束による三好達治の伝記評伝。 散文の表現能力に秀でている石原八束によって再現される三好達治は、生身の三好達治に限りなく近い像を与えてくれていることは疑いようもないことではあるのだが、昭和初…

畠中哲夫『三好達治』(花神社 1979)

越前三国の地で三好達治の門下生であった詩人畠中哲夫による評論。三好達治自身の作品や生前実際にかわされたことばはもちろんのこと、同時代周辺の文学者たちの表現を多くとりこんで、詩人三好達治の存在がいかなるものであったかを、重層的に表現している…

アンドレ・ブルトン+アンドレ・マッソン『マルティニーク島 蛇使いの女』(原著 1948, 松本完治訳 エディション・イレーヌ 2015)

第二次世界大戦下のフランス、1940年6月ナチスドイツの侵攻によりパリが陥落したのち、ナチスの傀儡であるヴィシー政権が成立、危険な無政府主義者たちあるいは退廃芸術家と目されていたシュルレアリストたちは、アメリカへの亡命を余儀なくされた。本…

三好達治『諷詠十二月』(新潮社 1942, 改訂版新潮文庫 1952, 講談社学術文庫 2016)

戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…

アウグスティヌス『神の国 (ニ)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1982)

聖霊と天使の違いは何でしょう? といった問いは、本書が扱うアウグスティヌスの議論にはない論点だが、『神の国』の第6巻-第10巻までの異教徒の哲学への批判を読むに際して事前に知っておいた方がよい情報であると、本書通読後に私は思った。聖霊はキリス…

アウグスティヌス『神の国 (一)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1982)

アウグスティヌスの主著、正式名称『神の国について異教徒を駁する』全22巻のうちローマ陥落をめぐる保守勢力のキリスト教批判への対抗としてローマ帝国に内在していた問題をめぐって書かれた第1巻から第5巻までを収めている。神話の神々とその祭祀、ス…

山本陽子『図像学入門 疑問符で読む日本美術』(勉誠出版 2015)

日本美術を鑑賞するのに役立つ一応学問的な情報を平易かつ仰々しくなく伝えてくれているのだが、ざっくばらんすぎてちょっと有難味にかけるところがある。図像を生み出した社会や文化全体と関連づけて解釈するために発展した研究分野である図像学(イコノロ…

沓掛良彦訳 エラスムス『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』(原著 1511, 中公文庫 2014)

意図することなく宗教改革の火付け役のひとつともなった作品。軽いようでいて、現状回復不能にしてしまう、パロディの掘り崩す力を、沓掛良彦によるラテン語原典からの新しい翻訳ですっきり楽しめる。五百年前の古典作品ではあるが、友人のトーマス・モアの…

山田晶『アウグスティヌス講話』(新地書房 1986, 講談社学術文庫 1995)

京都北白川教会で1973年に行われた講話6篇をベースに編纂されたアウグスティヌスのキリスト教一般信徒向けの研究。第1話は中央公論社「世界の名著」シリーズのアウグスティヌスの解説「教父アウグスティヌスと『告白』」(1968)でも強調されているアウグス…

ジェイムズ・メリル『イーフレイムの書』(原著 1976, 志村正雄訳 書肆山田 2000)

無意識は創造されつづけ変様するのだから、神もまた創造しつづけ変形しつづけるという考え方も許されるのではないか? そんなことを思わせてくれた二十世紀後半のアメリカが生んだ長篇詩の翻訳。 ユングは言う――言わないにしても、言っているに等しい――神と<…

山田五郎『へんな西洋絵画』(講談社 2018)

絵が下手がゆえにどうにもへんな画面を創ってしまう画家と、上手すぎるがゆえに恐ろしいまでに緻密で驚異的な画面を創ってしまう画家がいるということをベースにして、時代の技術的要請と感覚的枠組みを交えながら、こころざわつくへんな西洋絵画を解説する…

現代詩文庫1038 清水昶編『三好達治詩集』(思潮社 1989)

谷川俊太郎、高橋睦郎、田村隆一など、詩人として高く評価している人物がいるいっぽう、評価と批判相半ばする者、全面的に否定する者など、生前も死後もよく論じられたというところが、三好達治の存在と詩作品の重要さを感じとらせてくれる。 本書は全面的に…

谷川俊太郎編『三好達治詩集』(彌生書房 1965)

編者谷川俊太郎のこころの柔らかさが感じとれる三好達治の詩選集。散文もふくよかな情感がさらっとまとめられた小文が選ばれていて、三好達治に好感を持ちやすく編集されている。代表作『測量船』にあまりこだわりのない生涯を通しての作品から、谷川俊太郎…

千葉雅也+二村ヒトシ+柴田英里『欲望会議 性とポリコレの哲学』(角川ソフィア文庫 2021)

ゲイであることをカミングアウトしている気鋭の哲学者千葉雅也と、能動的な男優以外の演者を中心に据える斬新な演出を繰り出すAV監督二村ヒトシと、戦闘的フェミニストでSNS上で炎上上等の言論活動を繰り広げてもいる彫刻を中心に活動する現代美術家柴…

新倉俊一編 西脇順三郎コレクションⅢ『翻訳詩集 ヂオイス詩集(ヂオイス)/荒地/四つの四重奏曲(エリオット)/詩集(マラルメ)』(慶応義塾大学出版会 2007)

語学の天才という評価を誰も否定できない井筒俊彦の語学の先生が西脇順三郎。 専門は英文学だけれど、世界を相手にしたモダニズム、ダダイスム、シュルレアリスム運動の中心人物・かけがえのない詩人という側面もあって、19世紀フランス象徴派の代表的詩人…

寿岳文章訳のダンテ『神曲』

ダンテの『神曲』を粟津則雄が推奨していた寿岳文章訳で読んだ。単行本の刊行は1974-76年、この訳業により1976年の読売文学賞研究・翻訳賞を受賞している。私が今回手に取ったのは集英社ギャラリー[世界の文学]1古典文学集。イタリア文学者河島英昭によるダ…

服部英次郎『アウグスティヌス』(勁草書房 1980, 新装版 1997)

岩波文庫のアウグスティヌスの翻訳は『告白』『神の国』ともに服部英次郎の手になるもの。 私は中央文庫の山田晶訳『告白』全三巻を読んでアウグスティヌスに興味を持ち、近くの図書館でいちばん手間のかからない解説書であったという理由で本書を手に取った…

ジャコモ・レオパルディ『断想集』(國司航佑訳 幻戯書房 2020)

本日12月9日は106回目の漱石忌。レオパルディの『断想集』からの引用がある漱石の『虞美人草』の該当箇所である第15話と第17話の抜粋が併録されていたために、はからずも知ることとなった忌日。漱石が亡くなったのは49歳。『虞美人草』は職業作…

入沢康夫『遐い宴楽 とほいうたげ』(書肆山田 2002)

なぜ詩を書くのか? 傍から見ていてどうにも理解がおよばぬ人はいる。 私にとって、入沢康夫はそういう不思議な詩人の一人。 比較的よく読んでいる詩人であるにもかかわらず、相変わらずよくわからない。 業としかいいようのない何かを背負っているらしいこ…

『ドレの神曲』(原作:ダンテ、訳構成:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2009)

視覚芸術において革命的なメディアとして十九世紀に登場した挿画本で活躍し、その初期において技術的な完成度としてひとつの頂点に達していたギュスターヴ・ドレ。本書はダンテ『神曲』のために作成された140点近い版画作品をすべて刊行当時のオリジナル…

高橋睦郎句集『十年』(角川書店 2016)

高橋睦郎の第九句集。70代の十年間の集大成となる609句を収める。この十年の間には句作とエッセイからなる『百枕』333句があり、ほかに歌集『高橋睦郎歌集 待たな終末』(短歌研究社 2014)と詩集『何処へ』(書肆山田 2011)ほか多数の詩歌に関する…

高橋睦郎『百枕』(書肆山田 2010)

百枕はももまくらと読む。2007年7月から30ヶ月にわたって俳句雑誌に連載された三百三十三の句作と、枕の字を含んだ語句をめぐって博覧強記から自在に紡がれる縦横無尽なエッセイで構成された書物。すべての句に枕の文字が入り、エッセイもそれらの句…

福田昇八訳 エドマンド・スペンサー『韻文訳 妖精の女王』(原著 巻1~6 1596, 巻七の無常二篇は死後出版 1609, 九州大学出版会 2016)

古典作品には最初に触れて欲しい年齢層というものは間違いなくあって、本書もできることであれば、十代のうちのどこかで出会っていたほうがよい古典作品に挙げられる。訳者のあとがきにも日本の中高生がスペンサーの詩を気軽に朗誦できるようにしたいという…

粟津則雄『ダンテ地獄篇精読』(筑摩書房 1988)

山川丙三郎の文語訳(1914-1922)ダンテ『神曲』を導きの糸として取り入れていたのは大江健三郎の代表作のひとつ『懐かしい年への手紙』(1987)。本書はその翌年に出版された地獄篇のみの読み解き本で、寿岳文章訳(1974-76)の訳業に大きくインスパイアされてい…

トルクァート・タッソ『愛神の戯れ ――牧歌劇『アミンタ』――』(訳:鷲平京子 岩波文庫 1987, 原著 1573)

困難に向き合うことも多くあった大作『エルサレム解放』の執筆中をぬって書かれた詩人タッソの資質をはばたかせた劇作。これぞ王道というオーソドックスな恋物語。死の際からの生還、愛の行き違いにかかるリスクのとてつもない大きさ、行ったり来たりの展開…

中島隆博『荘子の哲学』(講談社学術文庫 2022, 岩波書店 2009)

『荘子』においてある物が他の物に生成変化することは「物化」と呼ばれていたと中島隆博によって要約されている部分があることが端的に示しているように、荘子の物化をドゥルーズの生成変化に引き付けて解釈し直す刺激的な書物。後半の第二部での独自性の強…

小池澄夫+瀬口昌久「ルクレティウス 『事物の本性について』――愉しや、嵐の海に (書物誕生 あたらしい古典入門)」(岩波書店 2020)

多作の思想家であったというエピクロスの作品が散逸してしまってほとんど残っていないのに対し、エピクロスの思想を展開したルクレティウスの『事物の本性について』全六巻が残ってきたのはなぜなのか? キリスト教の教義から見ればともに異端として退けられ…

トルクァート・タッソ『エルサレム解放』(原著 1575 アルフレード・ジュリアーニ編 1970, 訳:鷲平京子 岩波文庫 2010)

本書はイタリア・バロック文学の古典『エルサレム解放』の本文を交えたダイジェスト版の翻訳で、正確には『エルサレム解放 トルクァート・タッソの原文にアルフレード・ジュリアーニの語りを交えた長篇叙事詩抄』というタイトルの古典再編集作品である。感覚…