読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マンフレート・ゼリンク『ブリューゲルの世界 目を奪われる快楽と禁欲の世界劇場へようこそ』(原著 2018, 訳:熊澤弘 パイ インターナショナル 2020)

ブリューゲルの代表的作品58点の全図一挙紹介と、8つの観点から作品細部を拡大した図版と組み合わせたブリューゲル専門家の解説から作品世界に分け入っていく構成の、どちらかといえば作品を見ることに重点を置いた作品集。サイズはB5判変型(224×175mm)、全304ページ、フルカラー、本体3300円の商品。少し場所は取るが自分の本棚に置いておきたい著作。

ネット上で多くの作品を拡大しながら鑑賞することも可能になってきた時代ではあるが、高品質の紙の本で細部拡大カラー図版を見ると、まだまだ物質感として優位性を実現しているところや、通覧性やテキストとの表示バランスの快適さを享受できていることを感じる。同一絵画の同一部分を複数視点から編集して複合的に見せてくれる編集の力も感じ取ることもできる。見過ごしてしまうようなところまでも見せるようにしてくれているのは、まだ書籍のほうに専門家的な労働が集約されていることの成果なのだろうと思う。

たとえばブリューゲルが描く人物に後ろ姿が多いのは、描かれた世界に鑑賞者の視点を引き込むようにする効果があるというような指摘は、全作品の連続鑑賞と、繰り返される細部の画像引用と、何度か繰り返される解説との複合作用によって、初心者や中間層にははじめて納得いくようなものなので、ゆっくりと行きつ戻りつしながら鑑賞できる作品集や図録でないとなかなか効果は出てこない。

まだまだ紙の本の存在価値はなくなっていないということを証明した一冊なのではないかと思った。

pie.co.jp

【目次】
ブリューゲルの生涯
家系図
ブリューゲルの作品
 世界を見る
 騒々しい世の中
 美徳と罪
 怪物と魔物
 喜びに満ちた収穫
 目に見える機知
 顔そして感情
 生きる喜び
用語解説
参考文献
役者あとがき

【付箋箇所】
45, 68, 121, 143, 164, 176, 188, 228

ピーテル・ブリューゲル
1525/30 - 1569

ja.wikipedia.org

ゼリンク,マンフレート
1962 - 

熊澤弘
1970 - 

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