読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】18. 芸術 強張っているものをほぐす熱のあるもの

芸術はマッサージみたいなものか。凝った体がなければ別に不要なものだろう。あと、揉み返しにはかなり注意が必要。芸術の適量はたぶん自分しかわからない。たぶん、精神科医でもうまい処方は出て来ない。 《渾沌》の概念 芸術とは何か。それは《咲き匂う身…

ウンベルト・エーコ 編著『美の歴史』(原書 2004, 訳書 東洋書林 2005)西洋美術と美学に関するかなりすぐれた教科書または副読本

本文に匹敵する分量の各時代の美に関わるテキストの引用が贅沢な一冊。全ページカラーの図版も豪華。全439ページ、値段も本体価格8000円、手元に置いて気になったときに眺めることができれば一番いい商品なのだが、田舎の一軒家で隠居暮らしができる…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】17. 認識 実践的要求によって規定され事後的にあらわれる認識

ハイデッガーは有限性や事後性といった人間の制限に関する感度がかなり高い。そこから歴運とか宿命とか運命にもとづいた決断とかの方向に引っ張っていかれることには第二次世界大戦後の世界を生きる人間としてはかなり抵抗があるけれど、人間の規定にあるも…

テレンス・J・セイノフスキー『ディープラーニング革命』(原書 2018 銅谷賢治 監訳 NEWTON PRESS 2019) 生体と機械のなかのアルゴリズム

ディープラーニング研究のパイオニアである著者が、自身と仲間たちの研究活動のエピソードとともに、ディープラーニングの開発の歴史と現在地を紹介する一冊。神経生理学とコンピューターサイエンスの融合しながらの発展の中心を歩んだ人々の姿に憧れを持ち…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】16. 西欧的 近代西欧以外にも根をもつ人間の生の条件についての言及はなし

一読、またドイツ民族の優位性についての言説かと感じたが、ゆっくり読み返してみれば、今回の読みの対象の講義部分は特定民族の優越という主張の色は薄い。「永遠性」を生の眼目に置く西欧的緊張の世界の話をしているということの確認らしい。今や世界中ど…

筑摩世界文学大系3で読むプラトンのソクラテス対話篇7篇 対話相手と訳者の違いで人物の印象が異なるソクラテス

「ソクラテスの弁明」以外の7篇の簡易読書メモ。いくつかの青年相手の対話篇では、ソクラテスのことばの調子が艶めきを秘めている。ホモセクシャルな雰囲気が標準的な古代ギリシア世界で知的対話を通しての秘かな誘惑の実践が描かれているともいえる。愛を…

マルティン・ハイデッガー「真理の本質について」(原書 1943, 1949, 1954 理想社ハイデッガー選集11 木場深定 訳 1961)真理の本質は自由、非真理と非本質は・・・

人間の常態にあっては、真理の本質が安らっているわけではなく、真理の本質に到らない非本質と非真理が支配している。まず大切なのは常態で無茶苦茶しないこと。そのために常態である非本質と非真理の様相を知る必要がある。 【非本質】通常のものに安住する…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】15. 真理 生の諸条件の表現であるところの真理

ニーチェの生物学主義的思索は、生物学という科学の成果としてみるのではなく、生物を科学する根拠をも問う形而上学的思索として捉えよと、ハイデッガーは指摘している。科学に対する形而上学の優位を強調しながらの1939年のニーチェ講義。見極め切り分…

ひのまどか『ブラームス ――人はみな草のごとく――』(リブリオ出版 1985) 「自由に、だが孤独に」を人生のモットーにしたブラームス64年の生涯

長風呂のお供にブラームスのピアノ曲をよく聴いている。一番聴くのはグレン・グールドの輸入盤2枚組ピアノ曲集「Glenn Gould Plays Brahms - 4 Ballades Op.10, 2 Rhapsodies Op.79, 10 Intermezzi」。最近はハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読んでい…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】14. 世界 存在者の全体としての世界と認識としての力への意志

これより『ニーチェ Ⅱ ヨーロッパのニヒリズム』(原書 1939, 1940, 1961 平凡社ライブラリー 1997) 一 認識としての力への意志 形而上学の完成の思索者としてのニーチェ ニーチェのいわゆる《主著》 新たな価値定立の原理としての力への意志 《世界》と言…

カンタベリのアンセルムス『瞑想』(原書1099 上智大学中世思想研究所 編訳・監修 中世思想原典集成7 前期スコラ学 1996)悪魔について

中世神学の典籍においても悪魔というものがはっきりと出て来るケースは珍しいものではないかと思いながら読んだ。 人間は悪魔に属するものではなく、人間も悪魔も神のものでした。しかも、悪魔は、正義の熱意からではなく、不義の熱意に燃えて、それも神の命…

カンタベリのアンセルムス『プロスロギオン』(原書1078 上智大学中世思想研究所 編訳・監修 中世思想原典集成7 前期スコラ学 1996) 創造主に呼びかける一被造物の位置を考え始めると途方に暮れる

対語録、全二六章。「主なる神よ」「あなたは」という呼びかけによって展開される信仰の言葉。頓呼法で喚起される神はどうしても擬人化され、呼びかけ側と同一の地平に立っていると感覚されるので、ロジックだけ追いかけたいという読書の気分を妨げる。 第二…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】13. 決断と必然 次の瞬間の自分を引受ける正しい自己愛

思惟は基本的には無言語で行われるのではなく、母国語で行われる。私の場合は日本語で、気がついたときからずっと日本語で生きている。 生活の資を得るために各種プログラミング言語とSQL(構造化問い合わせ言語)のお世話にはなっていて、そのコンピュータ…

カンタベリのアンセルムス『モノロギオン』(原書1076 上智大学中世思想研究所 編訳・監修 中世思想原典集成7 前期スコラ学 1996) 創造と無について

聖書を括弧に入れて神について語ったことで画期的な中世の神学書、全八〇章。スピノザの『エチカ』の先行的位置にある作品。ただしこちらで論ぜられているのはキリスト教の神、「三位で一なる神」というところと、散文による自分自身との対話(瞑想、黙想)…

【言語練習 横向き詩片】 は て か も 、、 、  、   、 

はんぱつはいずこにむきてのものなのか てもとのきずにひそむむちにであるかも 、、 、 、 、 は て か も は か っ て も は か っ て も はてかも は て か も 、、 、 、 、 .

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】12. 指帰 次の瞬間への私自身の回帰

永遠回帰は、次の瞬間をおのれのものとすることへうながす思想。 存在者の《人間化》の懸念 回帰説のためのニーチェの証明 証明手続きにおけるいわゆる自然科学的方法 哲学と科学 回帰説の《証明》の性格 信仰としての回帰思想 回帰思想と自由 この思想の趣…

稲垣良典「トマス・アクィナス『神学大全』」(講談社学術文庫 2019 講談社選書メチエ 2009) 存在と悪について

指示対象(表象の対象)として創造主や神といったものを想定してしまうと、途端に胡散臭いものになってくるが、論ずるためには言語で表現していくほかはない。 【存在】 神の創造、三位一体の子、被造物について トマスは「禅の本質側面は自己をおしひろげ、…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】11. 渾沌=カオス 言葉の規定を超えるもの

瞬間の永遠回帰と「存在者全体の脱人間化と脱神格化」のカップリング。 回帰説の第三の伝達 手許に保留された覚え書における回帰思想 一八八一年八月の四つの手記 思想の総括的叙述 生としての、力としての、存在者の全体、渾沌としての世界 《渾沌》という…

マルティン・ハイデッガー「形而上学の存在-神-論的様態」(原書 1957, 理想社ハイデッガー選集10『同一性と差異性』 大江精志郎 訳 1961)二つ以上のものの関係性ではなく、同一のものからの差異化が語られる

ヘーゲルの『論理の学』(『大論理学』)の哲学演習をまとめて講演した際のテキスト。存在と存在するものとが同一なるものにもとづいて差異を分かち合うことを論述している。 存在は顕わしつつ〔隠蔽を取り除きつつ〕ある転移として自らを示す。存在するもの…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】10. 衝突の瞬間 永遠回帰で回帰するものは決断が切り開くという瞬間

瞬間の出来事を一般に向け表明し説明することは難しい。瞬間という観測対象になりがたい瞬間を評価対象に掲げることの難しさが顔をのぞかせている。 《幻影と謎について》 ツァラトゥストゥラの動物たち 《恢復しつつある者》 瞬間に立つ人は二重の方向を向…

仲正昌樹『現代哲学の最前線』(NHK出版新書 2020)具材が多くても味は荒れていない良質なガイド

読むことが職業とはいえ、よく読んでいる。そして基本的に自分を出さず、主要プレイヤーをフラットに紹介することを心がけている点に、教育者としての矜持がうかがえる。扱われている5つのテーマ、テーマごとの多くの理論家すべてに関心をもち、著作を覗い…

マルティン・ハイデッガー「同一性の命題」(原書 1957, 理想社ハイデッガー選集10『同一性と差異性』 大江精志郎 訳 1961)「A=Aという型式は何を言い表しているのであるか?」

同一性の命題、この最上位の思考法則はなにを言い表しているのかという、日常的には浮かび上がっては来ない問いを問い、答えをあたえようとする講演論文。パルメニデスの言葉「同じものは即ち思考であるとともにまた存在である」を軸に、解き明かしが試みら…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】09. 最後の人間 どん詰まりに対峙する

まず「最後の人間」を目指す。「超人」はそのあと。 回帰説の第二の伝達 最後の人間とは《ほどほどの幸福》をめざす人間であり、きわめて抜け目なくすべてを心得、すべてを営んでいるが、そうしながらすべてを無難化し、中位のもの、全面的平凡の中へ持ちこ…

プラトン『ソクラテスの弁明』(田中美知太郎訳) 死刑の宣告を前に死んでもいいかと思っているソクラテス

ソクラテスには神託がある。間違ったことを選択しようとすれば神託が止めに入るということを経験しているので、神託が止めない限り自分は正しい行いをしているという確信を持っている。人と共有できない垂直的な信仰のようなものだ。する行為は正しく、誰よ…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】08. 無 存在と同じくらいにゆらぎをもたらす概念としての無

これより第二期講義、「二 同じものの永遠なる回帰」。 ハイデッガーにとって「存在」はあるということの根源、「無」は「存在」に対立しているもの。「存在」という概念にゆらぎが発生すれば、対立概念の「無」もゆらぐ。光と闇が截然とわかれることがない…

大貫隆 訳・著『グノーシスの神話』(講談社学術文庫 2014, 岩波書店 1999, 2011) 光と闇の二元論

キリスト教正統からの批判対象としてグノーシスが出てくるときに、すぐにイメージが湧いてこない状態にあったので、情報注入のためにグノーシス紹介書籍を一冊通覧。光と闇との二元論。精神あるいは魂が光で善、肉体および物質が闇で悪ととらえる世界観。 否…

マルティン・ハイデッガー『形而上学入門』(原書 1935, 1953 理想社ハイデッガー選集9 川原榮峰 訳 1960) ナチス賛同の痕跡と戦後も考えを変えないハイデッガー

1935年夏フライブルク大学での講義テキストをもとに内容は変えずに文言の体裁に手を入れて1953年に出版。削ることも注記を加えることもできたであろうに、戦時期のドイツの状況とナチスについての発言部分はそのままの状態で残している。アドルノな…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】07. パースペクティヴ スピノザの心身並行論みたいな感じがする部分だけどハイデッガーはライプニッツという

ドイツ民族好きだからか、スピノザの心身並行論みたいな感じがする部分をハイデッガーはライプニッツからプラトニズムを排去しただけのものといって解説する。それとも単なる私の読みのまちがいか・・・ プラトンのパイドロス篇-幸福をもたらす離間における…

ポール・クローデルの詩作とモーリス・ブランショによる詩人論「クローデルと無限」 安息と創造の賞揚

2020年現在、ポール・クローデルの詩を日本語訳で読むのはなかなか難しい。日本とのかかわりも深い元日本大使の詩人の扱いとしていかがなものかと思いはするが、読者がつかないのだろうから資本主義の世の中では致し方がない。あとはクローデル好きの現…

ポール・クローデル『詩法』(原書1900-1904, 齋藤磯雄訳 1960, 1976 )呼吸としての詩、カトリック詩人の濃密な世界観

共鳴器としての人間。豊かな世界の中で出会うもの触れるものに応じて楽音を響かせる。詩の方法、詩の技術というよりも哲学的散文詩といったものに近い。詩を語りながら人間を語っているようで深い。詩の司祭による最高級の教説。呼吸としての詩。 【時間の認…