読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

二コラ・フルリー『現実界に向かって ジャック=アラン・ミレール入門』(原著 2010, 訳:松本卓也 人文書院 2020)

日本でもラカン派の精神分析学者による著作は数多く出版されているが、バロック的といわれ容易に読解を許さないラカンの著述や講義を体系化し一般化し世界的に普及させた功績は、ジャック・ラカンの弟子であり娘婿でもあるジャック=アラン・ミレールにある。ラカンの著作や講義録は継続的に出版翻訳されている状況にあるにもかかわらず、その第一の継承者であり、独自の思想家でもあるジャック=アラン・ミレールの著作は翻訳も紹介もされていない。本訳書はそのような状況を補完しようとして出版されたようだ。

学生時代にサルトルから多大な影響を受け、学問的にはアルチュセールの弟子であり、バルト、カンギレム、デリダフーコーの弟子でもあったジャック=アラン・ミレールが、ラカンに出会うことによってどのように哲学の世界から精神分析の世界へ移り、ラカンの思想を受容しつついかに自分独自の思想を展開していったかを跡づけていこうとする本書。言語に関しての知的追及の果てに、万人に通用する哲学的真理の世界ではなく、各主体に固有な欲動と享楽の世界を扱う精神分析へと移行していき、さらにはフロイトラカンの思想を整理しつつ、分析の実践的方向性としては、精神の健康(メンタルヘルス)を一元的に画一化し管理可能な状態にしていこうとする動向に抵抗し、個々人の特異性や独創性を廃棄させずに現実界と上手く調停させることを明確に打ち出しているところに特徴があるとしている。

本訳書として200ページ、軽めの新書レベルの分量のためもあってか、本書でジャック=アラン・ミレールの本質的な思想を理解しその独自性に撃たれるということはなかなかないような感触を持ったのだが、ラカン派理解への入口としては簡潔で要を得ているような感じもした。

www.jimbunshoin.co.jp

【目次】

第一章 哲学から精神分析
第二章 精神分析臨床
第三章 ラカン的政治
第四章 現実界に向かって
訳者解説
ミレールの著作目録

【付箋箇所】
10, 11, 28, 30, 32, 41, 50, 54, 61, 62, 70, 82, 88, 93, 97, 120, 128, 132, 133, 144, 145, 146, 158, 166, 174, 186, 190, 192, 196, 198

ジークムント・フロイト
1856 - 1939

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ジャック・ラカン
1901 - 1981

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ジャック=アラン・ミレール
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二コラ・フルリー
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1983 - 

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