読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

Mark C. Chu-Carroll『グッド・マス ギークのための数・論理・計算機科学』(2013, 2016)

書店で手に取ったときに、数式が少なく、守備範囲が広そうで、入門書の次くらいのレベルの数学とコンピュータ関連の本という印象があったため購入。文系出身プログラマやSEにお勧め。 集合論は、その従兄弟である一階述語論理(FOPL)と共に、ほぼすべての現…

田中優子『江戸百夢 近世図像学の楽しみ』(2000)

この混雑からくるいかがわしさが「文化」とかいうもので、それが成立するには、あるていどの稠密が必要となる。関連のないものや、対立するものや、無意味な連想でつながっていってしまうものの稠密さだ。(「あとがき」p166) 18世紀の豪奢で朗らでにぎやか…

白洲正子『十一面観音巡礼 愛蔵版』(1975, 2010)

白洲正子は現代の文化的野蛮人たる私にも日本の別世界をすこし見せてくれる貴重な案内者である。 両眼をよせ気味に、一点を凝視する表情には、多分に呪術的な暗さがあり、まったく動きのない姿は窟屈な感じさえする。平安初期の精神とは、正しくこういうもの…

自作を語る画文集『アンリ・ルソー 楽園の夢』(訳編:藤田尊潮 2015)

画家自身の手紙、メモ、インタビューでの発言を絡めながら、アンリ・ルソーの生涯作品二百数十点のうちから代表作を中心に74点、三分の一程度の図版を掲載し、紹介。ジェローム、カバネル、ブグローといった当時のアカデミズムの大家たちを尊敬し、それに…

セルジュ・フォーシュロー『マレーヴィチ』(美術出版社〈現代美術の巨匠〉シリーズ 1995)

20世紀初頭の複数の芸術運動を駆け抜けた感のある作品群を、カラー106点と白黒挿入図版で紹介。自身が切り開いた「シュプレマティスム(絶対主義)」の抽象作品を頂点とした絵画制作を通しての精神の運動を追えるところが興味深い。具象からキュビズムを経て…

松本透 『もっと知りたいカンディンスキー 生涯と作品』(2016)東京美術

寝転がってカンディンスキーの絵を見ることのできる軽い一冊にもかかわらず、中身の情報はかなり充実しているように思う。 マレーヴィチは、1919年に《白の上の白》連作を発表して絵画の終焉を宣言し、タトリンら構成主義の作家たちも、伝統的な「構成(コン…

思潮社 現代詩文庫50 多田智満子詩集

内容:詩集 〈花火〉(1956)から37篇詩集 〈闘技場〉(1960)から16篇詩集 〈薔薇宇宙〉(1964)から11篇詩集 〈鏡の町あるいは眼の森〉(1968)全4篇詩集 〈贋の年代記〉(1971)から25篇評論:「ヴェラスケスの鏡」自伝:「薔薇宇宙の発生」作品論:鷲巣…

山崎昇『人と思想149 良寛』(1997 清水書院)

清水書院の「人と思想」シリーズで詩人が対象となる場合、伝記に実作品がふんだんに取り入れられて、優れたアンソロジーを読んだ気分にさせてくれる。本書の場合も漢詩、俳句、和歌の区別なく取り入れられていて、さらには書の図版も多く、良寛の全体像が見…

前野隆司 『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(2013)

受動意識仮説を人文的・哲学的に展開した著作。中島道義や永井均への批判的な言説も入っている。個人的にはロボットについてや科学的な知見をより多めにしていただいたほうが興奮できたと思う。「幸福を得たければ、達人を目指せ」(p226)というのは、そう…

前野隆司 『錯覚する脳 ─「おいしい」も「痛い」も幻想だった』(2007)

受動意識仮説について二冊目の本。意識がイリュージョンであり、視覚情報が脳の生成物であることを強調した著作。最後は仏教の「空」に科学の知見から近づいていっている。 付箋箇所:30, 46, 57, 69, 88, 103, 130, 134, 201, 214, 215 目の誕生以前の世界…

前野隆司『脳はなぜ心を作ったのか ─「私」の謎を解く受動意識仮説』(2004)

先日のエントリー、清水亮の『よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ』で気になった受動意識仮説の提唱者の著作。私にはわりと受け止めやすい仮説だった。 付箋箇所:21, 27, 36, 42, 46, 57, 65, 83, 88, 93, 108, 114,…

高橋久一郎 『アリストテレス 何が人間の行為を説明するのか?』(2005)

全126ページのなかにしっかり内容がつまった一冊。アリストテレス入門書というか導入書としてかなりいいものではないだろうか。 わたしたちの生きている世界は、足を踏み出すに先立って、そのつど、そこには大地があるかどうかを確認しなければならないよう…

マンデリシュターム 『石』(1913)

1908年から1915年までの詩、81篇。100年以上たって、本日たまたま拾われるのは34篇目、1912年の詩。 落下は―恐怖の変らぬ道連れにして、恐怖とは空虚の感覚なり。(中略)永遠のために生きるものはわずか、だがお前が束の間のことに心をくだくなら―おまえの…

マンデリシュターム 「対話者について」(1913)

パウル・ツェランにも影響を与えた、20世紀ロシア文芸の核を担った感性するどい詩人の代表的評論。詩は誰に向けて書かれるのかという考察。 対話を欠いた抒情詩は存在しない。わたしたちを対話者の抱擁へとおしやる唯一のものは、自分自身の言葉に驚きたい、…

斎藤茂吉の良寛 『斎藤茂吉選集 第十五巻 歌論』

良寛についての歌論二篇を読んだ。 「良寛和歌集私鈔」(大正三年=1914)「良寛和尚の歌」(昭和二十一年=1946) 良寛の歌は総じて平坦単純であるから、左程にも思わない鑑賞者が多いと思ふが、その境地といひ調子といひ、なかなか手に行つたものである。俗…

宇野弘蔵 『資本論』と社会主義 (1958, 1995)

学問と科学の擁護。厳密さをベースに論考しつづける姿勢に頭が下がる。 著者主張: 要するに『資本論』を原理論とし、それから段階論を経て、社会主義的変革の実践活動に役立つような現状分析にいたるという社会科学に特有な方法を明確に認めるということが…

猪木正道『新版 増補 共産主義の系譜』(1949, 1969, 1984, 2018)

トロツキーとスターリンの対比、資本主義と共産主義の対比、宗教と唯物論の対比などが縦横に語られる第六章「スターリンとスターリン主義」は特に読みごたえがあった。 なるほどソヴェト共産主義は基本的人権を蹂躙しているであろう。しかしそれでは西欧民主…

八木雄二『神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流』(2012)

無信仰の研究者が説く中世神学案内。聖から俗まで語りの幅が広く、一般読者にも開かれた書物となっている。 中世の神学者は神をめぐる抽象的な議論にだけ没頭していたのではない。遺産相続、商業利益、所有や貸借や利子など、これまでに紹介したスコトゥスの…

中川純男 編 哲学の歴史 第三巻 神との対話 【中世】信仰と知の調和(2008)

人物ベースで中世の神学を紹介してくれる一冊。各神学者の研究者が解説を担当している。年代を追うことで西欧に近代がどのようにして芽生えてくるかを感得できるつくりになっていると思う。 哲学の歴史 3|全集・その他|中央公論新社 付箋箇所101, 109, 12…

カンディンスキー『点と線から面へ』(1926)

直角は赤、鋭角は黄、鈍角は青。抽象絵画のための理論書。カンディンスキーの抽象画は彼のロジックに従って作成されたものだということまでは理解したが、本書で説かれていることが万人に理解できるものかどうかといえば、かなり人を選ぶと思う。感覚的な表…

清水亮『よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ』(2016)

対談メインの2016年当時最先端の人工知能関連情報。なかには出版後に詐欺罪で逮捕されたひとも含まれるが、それも含めて興味深く読み進めることができる。ほかには図版とNOTE(用語解説)が優れている。パワポ資料を作りなれているASCII編集者の面目躍如とい…

オイゲン・ヘリゲル『日本の弓術』(1936)

ドイツ神秘主義のマイスター・エックハルトが説いた「離繋」(りけ Abgeschiedenheit)の探求のため仏教にも関心の領域を広げていたヘリゲルが、日本の大学に招かれ来日した際に仏教精神を分かち持つ弓道を習い、求道の果てに武士道の精神に到達したということ…

中島道義 『カントの読み方』(2008)

カントの『純粋理性批判』における自我論の読み解き。カント入門に適した分量と語り口。 「魂(私)は実体である」という命題は、客観的認識を表すものではなく、単なる理念を表しているだけだと自覚していれば、まったく正当である、魂とはあたかも永遠不滅…

滝川幸司『菅原道真 学者政治家の栄光と没落』(2019)

菅原道真の官吏としての生涯を漢詩を絡めて解説した書籍。歴史的情報は十分だが、詩人としての魅力がいまひとつ伝わってこないのが惜しい。 筆者は日本文学研究者であり、道真を漢詩人として考えることが多い。しかし、道真が官僚であった以上、道真伝は、そ…

竹内薫『数学×思考=ざっくりと いかにして問題をとくか』(2014)

数学系思考がベースのビジネス書。基本的にゴシック文字を記憶にとめて、あとは実践に向かうようにできているのではないかと考える。知識も必要だけど、現場でどれだけ使えるか、その領域で勘が働いているかが重要。実務にあっては、資格よりも経歴が重要。…

林望『能は生きている』(1997)集英社文庫

原題は『能に就いて考える十二帖』(1995)。古典の知識が豊富で教わるところが多い一冊。 「物狂い」は「演技者・芸能者」の謂いであって、単純に言えば「大道芸人・放浪芸人」というに近い。(中略)そう見ると、この「面白う狂うて見せ候へ」という科白が…

佐藤文香編著『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』(2017)

現代俳句作家のアンソロジー。55名(39句または81句)掲載。俳句の今を一般読者でも通覧できる意味ある書籍。短歌もそうだけど俳句も軟化・小世界化の傾向があると思う。圧倒的な商品経済のなかでの抒情。以下、一読者視点で好みの句を一人一句ピック…

R.P.ファインマン『科学は不確かだ!』

ノーベル賞受賞の二年前の一九六三年に、四四歳のファインマンがシアトル市のワシントン州立大学で、三夜連続で行った一般向け講演を収録したもの(米沢登美子「解説」p187) Ⅰ 科学の不確かさ 研究は応用のためにやるものではありません。ついに真実を突き…

九鬼周造『時間論』1928年パリ近郊ポンティニーでの二講演

九鬼周造40歳での講演であり、最初の著作。粋で瀟洒な雰囲気をもつ九鬼周造だが、実際の著作を読むと意外に熱い魂にふれることができる。原文はフランス語。小浜善信による翻訳。 Ⅰ 時間の観念と東洋における時間の反復 (1928.08.11) 武士道は意志の肯定…

岩波文庫の九鬼周造 メモ

論文の公表時期のメモ(岩波文庫四冊分) 時間論 他二篇 時間論 1928.08 Ⅰ 時間の観念と東洋における時間の反復 1928.08.11 Ⅱ 日本芸術における「無限」の表現 1928.08.17 時間の問題 ベルクソンとハイデッガー 1929.05 文学の形而上学 1941 偶然性の問題 19…