読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

レーモン・クノー『文体練習』(原著 1947, 1973 水声社 レイモン・クノー・コレクション7 訳:松島征+原野葉子+福田裕大+河田学 2012)

言語遊戯が苦もなく自然にできるような人が作った作品。99種類用意された文体の見本市のようで、描かれた内容のズレがもたらす現実世界からの浮遊感もついてくる。1ページから2ページ程度の短い文章とはいえ、内容的にはほとんど代わりのないものを99回も…

アレックス・マリー『ジョルジョ・アガンベン』(原著 2010, 高桑和巳訳 青土社 シリーズ現代思想ガイドブック 2014)

現代イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの入門書で、イギリスで「ラウトリッジ・クリティカル・シンカーズ」(ラウトリッジ批評的思想家)シリーズとして刊行されているものの日本語訳、というところが少し変わっている。アガンベンと言えば普通はホモ…

レッシング『賢者ナータン』(原著 1779, 光文社古典新訳文庫 丘沢静也訳 2020)

52歳で亡くなったレッシングが50歳の時に刊行した戯曲。論争好きで知られていたレッシングが49歳の時、啓蒙主義の立場からルター派の協会の牧師との宗教論争し、その論争から宗教関係著作の出版禁止になったことへの対抗策としてものしたのが本作であ…

ジャン=ポール・サルトル『イマジネール』(原著 1940, 講談社学術文庫 訳:澤田直+水野浩二 2020)

意識は自由であり、その自由は知覚の現実世界を無化したところにある想像力の非現実世界において実現する。こうまとめてしまうと反動的な思考のようにもとらえられてしまいそうだが、そうではない。カントの『判断力批判』とは異なる視点からの美学、芸術論…

ジャン=ポール・サルトル『サルトル全集23 哲学論文集』(人文書院 1957)

サルトル最初期の論考3篇を収めた一冊。 「想像力 ―デカルトからフッサールまで―」(初出 1936, 訳:平井啓之) 知覚と想像力、現実と非現実、受動的綜合と能動的綜合。知覚を成立させる素材と志向と想像力によって像(イマージュ)を成立させる素材と志向と…

ジョルジョ・アガンベン『イタリア的カテゴリー ―詩学序説―』(原著 1996, 増補版 2010, みすず書房 2010)

実現はしなかったがイタロ・カルヴィーノとクラウディオ・ルガフィオーリとともにイタリア文化のカテゴリー的な諸構造を探求するための雑誌刊行を企画していたことがベースとなって考えられ書きつづけられたエッセイの集成。 そっか、カルヴィーノとアガンベ…

管啓次郎『一週間、その他の小さな旅』(コトニ社 2023)

管啓次郎は現時点で65歳、明治大学大学院教授、ミネソタ大学アジア中東研究学科客員主任教授で詩人。今もっとも生産的で注目されている詩人のひとりであるだろう。文書空間と現実世界、動物や昆虫や樹木がいる自然界と人間界とを、行ったり来たりというか…

柏倉康夫『評伝 梶井基次郎 ―視ること、それはもうなにかなのだ―』(左右社 2010)

マラルメの研究・翻訳で多くの著作を持つ元NHKキャスターで放送大学教授でもあった柏倉康夫が25年の歳月をかけて書き上げた大部の梶井基次郎伝。多彩な人物のライフワークのひとつであろう。こだわりを持っている対象ではあろうが、著者の多才さゆえに…

レッシング『ラオコオン ―絵画と文学との限界について―』(原著 1766、斎藤栄治訳 岩波文庫 1970)

どちらかといえば文章読本的な比較芸術論。空間展開する絵画彫刻作品と時間展開する文芸作品の表現の志向性の違いを説いている。 レッシング自身が劇作家であり詩人でもあるため、ギリシアローマの古典作品を取り上げて技巧を評価しているところがもっとも読…

『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房 2020)

近未来における歴史的変換についての予測が多く当たることで有名なフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド。日本でもっとも注目される学者のひとりであるそのエマニュエル・トッドが,コロナ禍真っ只中の日本で発信した思考指南書。刊行時69歳、自ら…

足立和浩『知への散策 <現代思想入門>』(夏目書房 1993)

先日ジル・ドゥルーズの『ニーチェと哲学』(原著 1962, 国文社 1974)をちょっとした永遠回帰の実践のつもりで足立和浩訳で久方ぶりに読んでみた。現在流通している訳書は河出文庫の江川隆男訳(2008)だが、珍しく学生時代に購入した書籍が残っていて、そ…

ベルトルト・ブレヒトの詩の本2冊 ブレヒトコレクション3『家庭用説教集』(原著 1927, 晶文社 1981 訳:野村修, 長谷川四郎)、大久保寛二『ベルトルト ブレヒト 樹木を歌う』(新読書社 1998)

現代文学において詩というと抒情詩を思い浮かべるのが常ではあるが、しばらく前までは物語詩や叙事詩、劇詩のほうが一般的であったといってよいだろう。ホメロス、ウェルギリウス、ダンテ、シェークスピア、ミルトン。日本でいえば平家物語や世阿弥・金春禅…

三木清論3冊 岸見一郎『100分de名著 三木清 人生論ノート ―孤独は知性である―』(NHK出版 2021)、永野基綱『人と思想 三木清』(清水書院 2009)、唐木順三『三木清』(筑摩叢書 1946, 1966)

三木清(1897-1945)は20世紀前半に活動した京都学派の哲学者。西田幾多郎・ハイデガーに師事。『パスカルに於ける人間の研究』から著作活動がはじまり遺稿の親鸞ノートで終わる思索活動は、一方で宗教的なものに惹かれながら、マルクス主義論者としての活動…

ウォルター・ペイター『ルネサンス』(1873, 1893)ほか 筑摩書房『ウォルター・ペイター全集1』(2002)

150年ほど前に刊行されたウォルター・ペイターの唯美主義の書『ルネサンス』は美術や文芸の世界にスキャンダルを巻き起こし、ペイターの学者としての道や文筆家としての活動に困難さをもたらすことになった著作であるとともに、世紀末芸術を加速させると…

松浦弘明のイタリア・ルネサンス本二冊。『図説 イタリア・ルネサンス美術史』(河出書房新社 ふくろうの本 2015)、『イタリア・ルネサンス美術館』(東京堂出版 2011)

松浦弘明はイタリア中世・ルネサンス美術史を専門とする日本の美術史学者。現在多摩美術大学教授。直近の著作は河出書房新社刊『ラファエロ』(2017)か。イタリア・ルネサンスにどっぷっり浸かりたいと思わせてくれる研究者。現時点ではおそらく世間的に松…