神は、人類は、自ら事柄を無の上に据え、自ら以上の何ものの上にも据えはしなかった。ゆえに、私も同じく、私の事柄を私自らの上に据えよう、神と同じく他のすべてを無とする私の上に、私のすべてである私の上に、唯一者である私の上に。(「私の事柄を、無…
鈴木大拙が妙好人とともに生涯にわたって深い関心を寄せていた盤珪に関しての主要論考二篇。 「盤珪の不生禅」は昭和14(1939)年の刊行。盤珪の不生禅をより現代的により哲学的に捉えて読者に提供している。 笑うことが人間のみに許されて、動物にも天人に…
不生不滅の不生の語ひとつで禅仏教をひろく民衆層にまで説いた不生禅の盤珪和尚の法語・説法録。公案や経典を用いることはほとんどなく、当時の日常的な言語で仏教の核心を説いているところは驚きであり、またたいへん有難いことでもある。 元来妄想は、実体…
『久松真一著作集 第5巻 禅と芸術』でも論じられていた東洋文化の七つの性格を、茶道の世界について説いた論考集。 1.不均斉 ASYMMETRY2.簡素 SIMPLICITY3.枯高 WIZENED AUSTERITY4.自然 NATURALNESS5.幽玄 PROFOUND SUBTLETY6.脱俗 NON-ATTACHM…
世界を拓く私の存在の不思議さにロジカルに厳密に迫ろうとする平易な言葉で書かれた哲学対話篇。哲学者の哲おじさんと悩める学生学くんと禅者の悟じいさんが登場する。学くんは哲おじさんの話をきわめてよく理解する存在であるにもかかわらず、最終的には真…
オーデンの代表作。特に「聖務日課の祈り」は読み応えあり。訳者解説ではリルケやキルケゴールなどとの関係性に触れられていたが、エリオットと比較しても面白そうだ。 また、わたしたちがこうして夢に彷徨う間にも、わたしたち自身の 不当な扱いを受けた肉…
ユーモアとアイロニーの効いた現代俳句作家。感覚が地上的で無理がないが窮めて鮮明なところに独自性がある。 『いつしか人に生まれて』(みくに書房 1993) 猫の呼気まじりの空気春の暮虎杖や行くつもりなき丘見ゆるむかし初潮にほっとしたっけ梨の花羽化見…
新興俳句弾圧事件で逮捕されたうちの一人渡辺白泉の全句集。今となっては何が危険思想と見做されたのか分からないくらいの表現なのだが、それがゆえに弾圧に舵を切った時の体制側は怖いということも感じさせる。作風は現代語をわりあい多く使用していること…
ユーモアの精神があって女性受けもよい粋で少し愁いのある俳人の選句集。 情けとは紙人形に紙の雪大根を煮て人柄が出てしまふ湯船とは沈む船なり神の留守 furansudo.ocnk.net 【目次】『花盗人』抄『東京物語』抄『黄金の街』抄『黄金の街』以後・エッセイ諺…
俳句の言葉が切り詰められて片言となり、それが連なって現代詩になっていく過程を記録したような本だ。老いと病いと気鬱とさらには災害があって、俳句が変容している途上なのだろうか。 辛き世の妻のいひなり楽しけれ君知るや 胸傷みつつ批評するを我が家の…
自在の境地で書かれた句の数々。老いてもパートナーを失ってもコロナ禍があっても戦争が起こっていても、毒を吐いても全体としてどこか軽やかで明るい作になる。多くの人の憧れとなっていることがよーく分かる。 凍蝶の自愛の翅のたたみよう多分ヨイショと逆…
『預言者』の詩人のアフォリズム集。 カリール・ジブラーンがわりあい人気があるのは、自己啓発書が売れるのと似たようなものだろうと思っている。 人生に何かしら有効な教えが述べられていて、それが読みやすくて、そのうえ詩的な雰囲気があるとすれば一定…
宇宙霊的産出に関する聖なる結婚と出産の詩といったところ。無垢があり希望を抱く余地がたくさんあった時代に書かれた、哲学的批判考察をふんだんに含んだメルヘン。機知とフモール(諧謔)によって不完全な世を前進し前進させて完成体に近づいていく思索と…
戦後の短詩系文学の批評家として一番に上げられるのが実作者でもある塚本邦雄。本書は人を絶望させるほどの段違いの博識と批評眼と濃密な文章で現代俳句を取り上げた批評書兼アンソロジー。 取り上げられた俳人は69名。かなりアクの強い選で、他の人であっ…
生前に全句集が出るということは稀なことで、俳句史上に残る俳人であり俳句であるのだろう。吉本隆明も評価し批評文を寄せている。ただし、常識的俳句観で作品を読んでみると面食らってしまうだろう。前衛俳句であるので、作者の想像力が時間と場所を超えて…
坪内稔典の解説から岩波文庫『漱石俳句集』と同一であることが分かる。漱石の俳句を再確認したかったので、蔵書から探すよりも目についた図書館の本を借りてしまったほうが早いと考え、手に取り読んでみた。 坪内稔典が解説で、子規や漱石は俳句に加重な期待…
めずらしい正岡子規の漢詩アンソロジー。全361首。 自費出版であるゆえか凡例等の記載がなく、吟詠用のルビ付き書き下し文の体裁で実作が掲げられているだけなので、テキストとしては少し信頼性に欠けるところがある。 子規全集8巻が漢詩を収録している…
俳句関係の収入だけで暮らしている稀有な現代作家の第一句集。同世代ということもあり興味深く読んだ。題材の幅広さ、手法の幅広さによって、現代社会に生きる者のひとつの独自の世界がつくり上げられていて、多作ということもあり、大変読みごたえがある。…
稲盛和夫などを弟子に持った第31代臨済宗妙心寺派管長西片擔雪による10年におよぶ『碧巌録』の提唱(講義)をまとめたもの。岡本株式会社というところの法人設立60周年記念の出版物で、非売品。図書館には結構置いてあるようで文化事業としてかなり力…
前衛俳句の主要作家のひとり。長く鬱を患い56歳で亡くなってしまったのが残念な才能豊かな俳人だが、節度ある言語とイメージの使用のためか一読個性を捕まえられるようなタイプではなかった。師である永田耕衣が解説で「ユーモアが資質的に欠乏していたの…
50年近くにも及ぶ俳句創作活動の中で書き残されたエッセイはわずか10篇。それ以外に残したものは全部俳句という徹底した実作主義者、しかも50歳を過ぎてから作風を変化させ他の追随を許さない独自の境地を切り拓いていったところには頭が下がるばかり…
「碧巌録」を読もうと思い岩波文庫の『碧巌録』を購入してみたものの早々に断念。読み下し文と訳注だけではハードルは高かった。ひとまず通読するには現代語訳が必要と、本書に助けを求めた。 構成は、原文、現代語訳、訳注。 解説書の類を読んでも禅の公案…
仏教を現代人に向けて有用で開かれた形にするよう改革運動を展開している二人の曹洞宗出自の禅僧の発信に、実践的にも理論的にも禅に関心を持つ現代哲学者が、論理的に明確に分析回答するという方向性で展開している鼎談集。禅の説く世界観と言説の方向性を…
文庫本四百部限定ですでに完売。各都道府県に10冊も無い勘定でさみしいものだが、詩歌の世界の現実はそんなものだろう。だだし中身はかなり濃い。角川ソフィア文庫や筑摩文庫から出ていても全然おかしくないレベルの俳人だ。もし見かけることがあったなら、…
禅宗の基本的な文献「禅宗四部録」のうちの二篇についての提唱録。「信心銘」は6世紀中国禅宗三祖僧璨の作、「証道歌」は六祖慧能の直弟子7世紀から8世紀初頭にかけての僧永嘉玄覚の作とされる。経典の内容は基本的に抽象的なので、教えてくれる人があれ…
禅をベースにした哲学を説いた久松真一の芸術論集。芸術には作り手の境涯が出るというようなことを言っていて、どちらかといえば学問的というよりも批評家的。禅者としての白隠の圧倒的優位を挙げながら、その書と禅画の標準的尺度を超えてしまっている突出…
いまでは芸術家イサム・ノグチの父としてかろうじて知られるくらいだが、一時は国内外で評価の非常に高かった詩人野口米次郎。おもに最初期の詩と国際的詩人として地位を確立するまでの半生を扱った人物伝といったところ。手紙などの一次資料に頼りすぎなの…
平易な語り口だけれども、般若心経・金剛般若経の核心部分をしっかり押さえて教えてくれるところが親切な、講演ベースの著作。 相対的な世界での苦楽の変転と繰り返しを風流と呼んでいるところなどに人柄が現われている。 ほかに、口絵のひとつとして空海筆…
現代の曹洞宗系の禅僧の対談本。 個人の問題解決に実践的に関わることがなくなっていってしまった伝統的仏教を「仏教1.0」、テーラワーダ系の瞑想メソッドやマインドフルネスの手法を説いて人生の活性化に積極的なを「仏教2.0」とし、それでも根本解決には届…
現在40代の俳句実作者の俳句評論。作ることと読むことのバランスがよく、どちらかといえば人をあまり選ばない間口の広い俳句評論集。 自分自身を相対化し、複数視点から世界を重層化してとらえることから生まれる可笑しみを、表現として良しとする俳句の姿勢…