読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ『神話の力』(原著 1988, 早川書房 飛田茂雄訳 1992)

『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスが大きな影響を受けたアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルに、ホワイトハウス報道官も務めたことのある先鋭博学のジャーナリストビル・モイヤーズが問いかける、知的興奮に満ちた対談集。生の冷酷な前提条件…

ディディエ・ダヴァン『『無門関』の出世双六 帰化した禅の聖典』(平凡社 ブックレット〈書物をひらく〉23 2020)

日本における「無門関」受容の歴史を、残された頼りない資料群を丁寧にたどり、現代にいたるまで描き出そうとしたフランス出身の在日仏教研究者ディディエ・ダヴァンのコンパクトな著作。『碧巌録』『臨済録』と異なり、中国本土ではほとんど顧みられない『…

ひろさちや『超訳 無門関』(中央公論新社 2018)

題に超訳と付いているが、よくある意訳抜粋本とは趣向が異なる。 本書は、中国南宋時代の無門慧開(1183年-1260年)によって編まれた公案集『無門関』を、現代語訳、読み下し文、解説で紹介したあとに、公案本則についての著者の自由訳である超訳を付け加え…

塚原史+後藤美和子 編訳『ダダ・シュルレアリスム新訳詩集』(思潮社 2016)

チューリッヒ・ダダ100周年、アンドレ・ブルトン没後50年の年に刊行されたダダ・シュルレアリスム新訳新編アンソロジー。上下二段組み、236ページ。詩人32名、199篇という満足感が得られるラインナップであった。刊行の意図としては、美術の世界のダダ・シュ…

エティエンヌ・バリバール『スピノザと政治』(原著 1985 追加論文 1989, 1993, 水声社 叢書言語の政治 17 水嶋一憲訳 2011)

スピノザの主要三著作『神学・政治論』『エチカ』『政治論』(邦訳『国家論』)から、大衆各個人の情動を根底に構成される国家体制について思考する政治論を分析している。ホッブスとの自然権の譲渡と契約をめぐる差異、マルクスとの理論構築においての外的…

浅野俊哉『スピノザ 〈触発の思考〉』(明石書店 2019)

政治哲学・社会思想史を専門とする哲学者浅野俊哉のスピノザ論。主として第二次世界大戦前後にかけてスピノザの思想を語った思想家6名について検討しながら、スピノザの現実的かつ根源的な思考の射程を浮かび上がらせる精緻な論考。20世紀の思想家の政治…

黒木祥子+小林賢章+芹澤剛+福井淳子 編『現代語訳付 説経かるかや』(和泉書院 2015)

中世末から江戸時代初期、下層の庶民階級を相手の芸能としてはやった説経節の代表曲「かるかや(苅萱)」のテキストに校注と現代語訳を付けた一冊。能や浄瑠璃などに比べてより簡素な語り芸であることが想像できる作品。話は信濃善光寺付近に祀られている親…

鈴木大拙『禅八講 鈴木大拙最終講義』(編:常盤義伸、訳:酒井懋 角川選書 2013 )

遺構の中から鈴木大拙晩年の講演用英文タイプ原稿を翻訳編集した一冊。文化の異なるアメリカ聴衆向けに書かれた論考は、仏教文化や仏教的教養から離れたところにいる現代日本人にとっても分かりやすく刺激的な内容にあふれている。そこに的確な訳注と編者に…

鈴木大拙+古田紹欽 編著『盤珪禅師説法』(大東出版社 1943, 1990)

不生禅の盤珪の重要性を見出し道元観照禅と臨済看話禅との違いを説いた鈴木大拙の手になる盤珪禅への導入書。先行して出版されている岩波文庫の鈴木大拙編校『盤珪禅師語録』(1941, 1993)をベースに、よりコンパクトにまとまった原典紹介がなされている。1…

柏倉康夫訳 ステファヌ・マラルメ『賽の一振り』( 発表 「コスモポリス」1897年5月号, 月曜社 叢書・エクリチュールの冒険 2022 )

ステファヌ・マラルメの最後の作品「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」の最新日本語訳。柏倉康夫によるマラルメ翻訳は、晦渋さが極力排除された理解しやすくイメージを得やすいものとなっている。さらに、先行する研究や翻訳への目配りが届…

秋月龍珉『禅門の異流 盤珪・正三・良寛・一休』(筑摩書房 1967, 筑摩叢書 1992) 抵抗者の真っ当かつ奇っ怪な姿

曹洞宗の黙照禅、臨済宗の看話禅、臨済系の寺から出た盤珪の不生禅、武士から曹洞宗の僧侶となった鈴木正三の二王禅、日本の禅の主だったところの流派の孤峰をたどることができる一冊。禅の「大死一番、絶後蘇生」の悟りとその後の生き様の四者四様を、多く…

有馬賴底『『臨済録』を読む』(聞き手:エディシオン・アルシーヴ 西川照子 講談社現代新書 2015)

臨済宗相国寺派管長に聞く禅語録『臨済録』の世界への参入の仕方。岩波文庫の『臨済録』を素人が読むと、問答に分別知が紛れ込む余地がでたら瞬時に否定されるという枠組みぐらいしか感じ取ることができないので、実際のところ何をめぐって対話がなされてい…

紀野一義『名僧列伝(二) 良寛・盤珪・鈴木正三・白隠』(文芸春秋 1975, 講談社学術文庫 1999)

著者の好みが鮮明に打ち出されている名僧案内。江戸期の四名の禅僧が著者ならではの視点から描かれているために、各僧のあまり触れられない新鮮な情報も含まれていて、ほかの書物と比べながら多角的に各人物を捉えるきっかけを与えてくれるような、記憶にも…

竹村牧男『唯識・華厳・空海・西田 東洋哲学の精華を読み解く』(青土社 2021)

現在のグローバリゼーションの時代において、異質な他者との共存を考えるための知恵として、古代から営まれてきた東洋哲学の清華を見直していこうという意図をもって書かれた著作。大乗仏教の根幹をなす唯識思想から、華厳の事事無礙法界を経て、空海の曼荼…

加藤精一 編『空海「般若心経秘鍵」』(原著 834, ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2011)

空海の最晩年、入定前年61歳の時の著作。主著『秘密曼荼羅十住心論』や『秘蔵宝鑰』で展開された顕教から密教へと至る仏の教えの階梯を、「般若心経」270字のなかに読み解く、空海の天才的思考が凝集された見事な果実。加藤精一による現代語訳と解説に…

訳: 加藤精一『空海「弁顕密二教論」』(ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2014)

顕教と密教の違いを説く空海の書。仏陀を法身、応身、化身の三身に分けたときに、法身の大日如来が直接説かれた教えを密教、法身大日如来から派生的に現じた応身化身の諸仏が、教える相手によってさまざまに説き分けた教えを顕教とした、空海独自の教論。大…

谷川敏朗『校注 良寛全詩集』(春秋社 2005, 新装版 2014)

谷川敏朗の良寛校注三部作のうちではいちばんの力作。良寛自身も俳句や歌に比べれば、漢詩に傾けた時間やもろもろの思いはもっとも大きいのではないかと考えさせられる一冊。寺子屋や学塾に通った時代から、世俗的世渡りの要求に応えられずに出家したあとの…

谷川敏朗『校注 良寛全歌集』(春秋社 2003, 新装版 2014)

1350首もの歌を残した良寛には歌人という意識はなかったものと見える。漢詩においては禅僧の活動としての偈頌が含まれていたり、50歳を過ぎてから10年ごとに遺偈(禅僧としての最後の感懐)を残したりと、かなり形式的なものを踏まえて詩作していた…

谷川敏朗『校注 良寛全句集』(春秋社 2014)

良寛は曹洞宗の僧というよりもやはり歌人であり詩人としての存在が大きい。詩や歌の内容に仏の道が入ることが多くても僧としての偉大さよりも詩人としての輝きが先にきらめく。「法華讃」「法華転」という法華経讃歌の漢詩群はあっても、仏教の教えを説いた…

全国良寛会 監修 竹村牧男 著『良寛「法華讃」』(春秋社 2019)

良寛には法華経を称えた「法華讃」「法華転」と言われる漢詩作品集が四種あり、本書のもとになっているのは原詩102篇と著語(じゃくご)と言われる短い感想を述べたものと溢れる思いから書き添えられた和歌数篇からなる最大のもの。新潟市所蔵の良寛直筆…

田村圓澄『日本を創った人びと 3 空海 真言密教の求道と実践』(平凡社 1978 編集:日本文化の会)

軽めの内容かと思ったら、本文も掲載図版も文句のつけようがない優れた一般向け専門書的図鑑だった。平凡社刊行だから、別冊太陽もしくはコロナ・ブックスのシリーズを想像していただくと、文章と図版の質と量の水準の高さの程度が知れるかと思う。全82ペ…

秋保亘『スピノザ 力の存在論と生の哲学』(法政大学出版局 2019)

2014年の博士論文「本質と実在 ― スピノザ形而上学の生成とその展開」をベースに編み直された著者初の単著。慶応大学出なのに法政大学出版会というちょっと変わった期待のかけられ方を感じる著者で、あとがきによると、ライプニッツと中世哲学を専門領域とす…

今野健『スピノザ哲学考究 普遍数学の樹立と哲学の終焉』(東銀座出版社 1994)

集合論から読み解くスピノザの哲学。幾何学的秩序に従って論証されるスピノザの『エチカ』の構成を、現代数学の世界からその骨組みを透視して見せた論考。合理のみで突き詰め、削ぎ落していった果てのスピノザ哲学のひとつの姿を見ることができて、なるほど…

ジャック・ラカン『二人であることの病い パラノイアと言語』(朝日出版社 1984, 講談社学術文庫 2011 訳:宮本忠雄+関忠盛)

ラカンの初期のエクリチュール。初期からのフロイトへの傾倒を知るに貴重な資料5篇。講義録ではない書かれたものとしてのテクストの存在感があるけれども、難解といわれる『エクリ』以前の作品なので、論じ方はいたって素直。読みやすく、とくに強調したい…

朝比奈緑+下村信子+武田雅子 編訳『【ミラー版】エミリ・ディキンスン詩集 芸術家を魅了した50篇 [対訳と解説]』(小鳥遊書房 2021)

様々な分野の作家に大きな影響を与えているエミリ・ディキンスンンの詩の世界を、各分野で参照引用されている作品を取り上げながら、原詩と新訳と解説で詳しく多角的にとらえている最新アンソロジー。音楽、アート、絵本、映画、演劇、詩と小説、書評、評論…

岡本裕一朗『ポスト・ヒューマニズム テクノロジー時代の哲学入門』(NHK出版新書 2021)

21世紀の哲学界での思想動向を図式的に手際よくまとめている導入書。思弁的実在論、加速主義、新実在論の代表的論者の思考の枠組みが、資本主義と情報技術、機械と科学と数学で、非自然化していっているような現代世界に、どう伍していくかが見られ問われ…

中林孝雄訳『エミリ・ディキンスン詩集』(松柏社 1986)

ウォルト・ホイットマン(1819-1892)と並び称されるアメリカの国民的詩人エミリ・ディキンスン(1830-1886)の没後100年にあわせて刊行された日本語訳アンソロジー。およそ1800篇残されたディキンスンの詩のなかから154篇を選び、作品番号順(基本的…

会津八一(1881-1956)『會津八一全歌集』(中央公論社 1986) ひらがな表記と語の分かち書きで伝える近代短歌の特異な詩的表現世界

昭和26年(1951年)の生前全歌集の886首に、拾遺作品264首を新たに付加した一冊(全1150首)。文庫本で手に入りやすい『自註鹿鳴集』よりも歌人の活動期間をより広くカバーしている。活動期間のわりに詠まれた歌の数はそう多くなく、一首一首に推…

千葉雅也の小説二冊『デッドライン』(新潮社 2019)『オーバーヒート』(新潮社 2021)

私小説。標準的で規範的なものの抑圧に対するマイノリティ(ホモセクシャル)側からの抵抗と困惑の表明。「仮固定」「偶然性」「意味がない無意味」「無関係性」「分身」「生成変化」など千葉雅也の哲学書で語られている概念が、学生時代(『デッドライン』…

『ポプキンズ詩集』(春秋社 安田章一郎+緒方登摩訳 2014)

一様ではない世界の紋様に敏感に反応し、見悶えた人としてのジェラード・マンリー・ポプキンズ。 まだら模様の幻視者という印象が強い。 中世スコラ神学者のドゥンス・スコトゥスとイエズス会の創立者のイグナチオ・デ・ロヨラに傾倒し、英国国教会からロー…