読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ヘーゲル『小論理学』(「エンチクロペディ―」第3版原書 1839 岩波文庫 1951/52 全二冊 )

思惟と認識の無限を語るヘーゲルの論理学はなんだか心強さを与えてくれる。 モーゼの伝説には、神は人間をエデンの園から追放し、もって人間が生命の木の実をも食べないようにした、と言われているが、この意味は、人間は自然的側面からすれば、有限で死すべ…

小田部胤久『西洋美学史』(東京大学出版会 2009)

先の連休中に読んで感銘を受けた優れた教科書、導入書。特に簡明を絵にかいたような黒板書きみたいな掲載図には心打たれるものがある。実際の大学の授業で説明の言葉とともに掲載図と同質の黒板書きに出会ったら、より深くお教えを乞いたいと思わずにはいら…

中島隆博『ヒューマニティーズ 哲学』(岩波書店 2009 )

中島隆博は千葉雅也の師であり松浦寿輝の弟子の位置にいる変わった感じの優秀な哲学者。東洋哲学、特に中国哲学を専門としている。老子とヘーゲルの組み合わせに憩っている感じのある2021年夏の私には、荘子とドゥルーズという組み合せや、孔子とドゥル…

【4連休なのでユリシーズと美学の本を読んでみる】03 連休4日目、緊急対応案件発生で余暇強制終了(16:00)で、美学系の読書が中途半端で終わる

16時前、思わぬ架電。出て見るとクレームの通知。身に覚えはないが、自分自身以外の共同行動者の振舞いを考えてみると該当者と問題行動がほんのり浮かび上がってくる。確認のため、こちらから連絡。先方の守秘義務以外の苦情に関わる情報をなるべくお聞か…

【4連休なのでユリシーズと美学の本を読んでみる】02 連休3日目通読完了:丸谷才一ほか訳『ユリシーズ』後半(13から18章)読了後の虚脱と祝杯のなかブログを書く

変則的な訳者訳書構成ではあるがジョイスの『ユリシーズ』の通読完了。ひさびさに「全体小説」©ジャン=ポール・サルトルということばが思い浮かんできた。「全体小説」は、サルトルがジョイスの『ユリシーズ』などの先行作品を想定して作り上げた概念(自作…

【4連休なのでユリシーズと美学の本を読んでみる】01 連休初日:柳瀬尚紀の最後の仕事に一日向き合う

本読みは本を読みながらその途中で人生を終える。作家は本を読み本を書きながらその途中で人生を終える。翻訳家は本を読み翻訳をしながらその途中で人生を終える。区切りのよいところで人生を終えるということは自然の摂理にしたがってる限りそうそうあるも…

【4連休なのでユリシーズと美学の本を読んでみる】00 序奏:企画と準備

昨年の夏の4連休(2020.07.23~2020.07.26)では、柳瀬尚紀訳でジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を読んだ。今年は基本的に柳瀬尚紀訳でジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』を読んでみたい。「基本的に」というのは、訳者柳瀬尚紀が12…

ジェラール・マセ『記憶は闇の中での狩りを好む』(原書 1993, 水声社 2018)

写真と夢と記憶をめぐる散文詩。 輪郭も存在感もあいまいでありながら執拗に再現してはまとわりつく幻影をいくつも長時間にわたって見せられたかのような読後感を残す作品。でも、まあ、それほど悪いものではない。 思考の明暗の中で、世界のイメージはその…

【技術に関する本2冊】フリードリヒ・ゲオルク・ユンガー『技術の完成』(原書 1946, 人文書院 2018)、ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で 破局・技術・民主主義』(原書 2012, 以文社 2012 )

技術に駆り立てられるようにして人間も自然も搾取されながら、破局と破局のあいだを生きる近代以降の人間のありようが描かれている二冊。「積み重ねられ、彷徨する七〇億の存在」(ジャン=リュック・ナンシー)が、技術の集積を使い、純粋な自然からの贈与で…

イマヌエル・カント『美と崇高との感情性に関する観察』(原書 1764, 岩波文庫 1948)

批判哲学以前のカントの小品。観察、分類、列挙からなるエッセイ風の砕けた文章で、『判断力批判』の崇高論のようなものを期待すると肩透かしをくらう。 男性が崇高で、女性が美。 イタリア、フランスが美で、イギリス、スペイン、ドイツが崇高。 翻訳ははじ…

【20世紀のチリの詩人 パブロ・ネルーダ(1904-1973)2冊】『大いなる歌』(原書 1950, 現代企画室 2018)、『ノーベル賞文学全集 25』(主婦の友社 1974)

スケールが大きすぎて読み終わった後に少し萎えたくらい圧倒的な力量の詩人。40代での代表作『大いなる歌』ではアメリカの南北大陸、国でいえばアメリカからチリ、アルゼンチン、さらに南極まで歌ってしまう大きさ。神話の時代から現代の工場や鉱山での搾…

【脳だけじゃない脳科学 アントニオ・ダマシオ二冊】『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』(原書 1994, 2005 ちくま学芸文庫 2010)、『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』(原書 2003 ダイヤモンド社 2005)

ソマティック・マーカー仮説(somatic marker hypothesis)のアントニオ・ダマシオ。脳だけじゃない脳科学。身体(遺伝子)―情動―感情。科学―哲学―心理学。デカルト、スピノザのほかにウィリアム・ジェームズも大きな存在感を示している。苦が生に対してもつ…

【笠間書院コレクション日本歌人選より4冊】田中登『紀貫之』、村尾誠一『藤原定家』、小山順子『藤原良経』、平井啓子『式子内親王』

『定家八代抄』を読んでいて特に気になった四名の歌人を比較的新しい研究者による注釈と解説とともに読みすすめてみた。歌人ひとり50首弱の小さなアンソロジーだが、導入書としてはちょうどいい分量と選歌になっているような気がする。笠間書院のサイトで…

エルンスト・カッシーラー『人間 シンボルを操るもの』(原書 1944, 岩波文庫 1997, 岩波書店 1953)

カッシーラー生前最後の著作(『国家の神話』は没後出版)。広範囲な文化現象についてこれまでの自身の思索を総括していくように綴られた一冊。人間をanimal symbolicum(シンボルを操る動物)と定義して、シンボル的宇宙を生みそこに生きる人間の姿を描きあ…

【ヘーゲルの本四冊】ヘーゲル『歴史哲学講義』(岩波文庫全二冊 1994)、仲正昌樹『ヘーゲルを越えるヘーゲル』(講談社現代新書 2018)、長谷川宏『新しいヘーゲル』(講談社現代新書 1997)

■ヘーゲル『歴史哲学講義』 『歴史哲学講義』はヘーゲル晩年の講義録。アジアにはじまり西欧ゲルマン民族のゲルマン世界にいたる発展史観は『美学講義』とも同じ流れ。二十一世紀に生きるアジアの端の日本人読者としては、すべてをはいそうですかと拝読する…

ペトラルカ『無知について』(原書 1371 岩波文庫 2010 )

イタリア・ルネサンスのキリスト教的ユマニスムの主唱者ペトラルカが、同時代のスコラ文化圏のアリストテレス派知識人から受けた「善良だが無知」という批判に対する論駁の書。アリストテレスの自然哲学思想にも通じているペトラルカ自身の学識もやんわりと…

【カール・ヤスパース二冊】『哲学的信仰』(原書 1948, 理想社 1998)と『哲学入門』(原書 1949 新潮文庫 1954)

ヤスパースの講演録とラジオ講演録。宗教で説かれてきた神と区別するために、主観‐客観の分裂を超えた存在として「包括者」という概念をヤスパースは用いて存在を根底付けようとしているが、「超越者」、「神」といった言い換えも多く、特に『哲学入門』では…

【日本近代の代表的詩人 三人三冊】堀口大學『消えがての虹』(1978, 86歳)、西脇順三郎『人類』(1979, 85歳)、『村山槐多詩集』(彌生書房 1974, 1919 享年24) 同年代生まれの八〇台の詩人と二〇台詩人を同時に読む。

他言語に訳されて日本の20世紀詩人にこういった人がいましたよと読んでもらいたいところまではいかないけれども、日本人であるならばちょっとは気にしておいてもいい詩人三名の三冊。 堀口大學は1925年出版の訳詩集『月下の一群』が何より重要。この訳詩集…

樋口芳麻呂・後藤重郎校注『定家八代抄』(岩波文庫 全二冊)と村山修一『人物叢書 藤原定家』(吉川弘文館 1962)

『定家八代抄』は、定家54歳の時、1215年から翌1216年にかけて選歌編纂された『二四代和歌集』の収録歌に、訳と注をつけて文庫化した手頃な王朝秀歌アンソロジー。全1809首。『百人秀歌』(1235)、『百人一首』を生むにいたる前になされた、定家の批…

藤原定家『拾遺愚草』未収録作を読む モノが整いきらない現実の粗雑さも詠いきる歌の世界

藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首に収まらなかった、定家の詩歌作品1840首を読み継ぐ。 uho360.hatenablog.com 全歌集下巻としてまとめられた本書、自選私家集『拾遺愚草』に収まらなかったところの歌の全体的傾向としての印象は、物質的な抵…

ガブリエル・タルド『摸倣の法則』(原書 1890, 1895 河出書房新社 2007, 2016 )

「摸倣」という武器一本で物理・生命現象から社会現象まで語りきる途方もない著作。データ検証からではなく推論ベースの展開で、ほんとかねと疑いたくなるようなところもままあるのだけど、ドゥルーズが称賛していて、それに乗る形で蓮實重彦も推薦している…

戸谷洋志『ハンス・ヨナスを読む』(堀之内出版 2018)

日本初のハンス・ヨナスの入門書。1988年生まれの若手の研究者が「未来への責任」という哲学的テーゼを、ヨナスの著作からの引用を豊富にちりばめながら、理解しやすく展開してくれた著作。非常に丁寧に、興味を持てるように、目配りをきかせながらヨナ…

エルンスト・カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』(原書 1921, 山本義隆訳 河出書房新社 1976, 1996 )

私は、にわかではあるが、カッシーラーのファンである。今年の正月に『シンボル形式の哲学』を読んで以来、この人は本物だと思っている。相対性理論や量子論の意味を、文系読者にもきちんと伝えてくれる、かけがえのない人物なのではないかと思っている。記…

ジェイムズ・ジョイスの詩 出口泰生訳『室内楽 ジョイス抒情詩集』(白凰社 1972)

ジェイムズ・ジョイスの二つの詩集を完全訳出。かなり無防備な抒情詩作品。刊行時は原詩の分冊と組で販売されていたようだが、近所の図書館で借り出せたのは日本語訳分冊のみ。原詩も掲載しているネット上の紹介サイトを検索して見てみると、『フィネガンズ…

滝口清榮『ヘーゲル哲学入門』(社会評論社 2016)

マルクスの思想にもつながるだろうヘーゲルのことばがちょこちょこ顔を出してきてなかなか楽しい。 「国家は終焉しなければならない」 「コルポラツィオーン(職業団体)」 「ポリツァイ(内務ー福祉行政)」 「中間階級」 「中間身分」 「市民社会」 などな…

【読了本四冊】白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー)、ドニ・ユイスマン『美学』(白水社文庫クセジュ)、斉藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)、鈴木大拙『華厳の研究』(角川ソフィア文庫)

白川静+梅原猛『呪の思想 神と人との間』(平凡社ライブラリー 2011, 平凡社 2002) 日本が誇る変人師弟対談。白川静が師、梅原猛が弟子という、異次元を垣間見させてくれるような組合せ。 独自の思想を抱いてしまった思想家の語りが日常の思考を揺さぶらず…

藤原定家『拾遺愚草』を読む 冷えた光と風のある世界

藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首をちくま文庫の『藤原定家全歌集 上』(2017)ではじめて通読。本文庫が出る前は図書館でもなかなか出会うことが難しかった歌集であったので、ありがたい。久保田淳による注釈、現代語訳ははりとあっさりしている…

ヘーゲル『美学講義』(長谷川宏訳 作品社 全三冊 1996) 複製技術時代以前のゆったりたっぷりの芸術論

ヘーゲルは1770年の生まれ。美学の講義がなされたのは主に1820年代。同年生まれのヘルダーリンやベートーベンへの言及がないことが、読み手としてとても残念に感じられるくらいに充実していて安定感のある魅力的な講義録。序論部分に他の哲学部門と…

古田亮『高橋由一 日本洋画の父』(中公新書 2012)「鮭」の画家であり且つ「洋画道の志士」である人の評伝

明治初期に初めて日本人として本格的に油彩を受容導入した高橋由一についての人物評伝。著者のあとがきから小説風の体裁をとりたかった意向を感じ取ることができる。章立ても第何話というようになっていて、高橋由一の人物像が感覚的によく伝わる。武士の気…

【雑記】BOOKOFFにて『字統』に出会う ヘーゲルと白川静

引越後4週間、はじめての大作、作品社の長谷川宏訳のヘーゲル『美学講義』全三巻を読み終えた。満足感を持った状態で、運動不足解消も兼ねて数駅先のBOOKOFFまではじめて自転車で遠出。店舗滞在時間30分込みで1時間半コース。小型店舗だったのであまり期…