読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

モーリス・ブランショ『マラルメ論』(粟津則雄・清水徹訳 筑摩叢書 1977)

ブランショのマラルメ論考を集めた日本独自の書籍。翻訳も各論考もなされた時代にかなりの幅があり、出典も異なっているため、一冊の本として筋の通った展開があるわけではないが、各論考でくりかえしとりあげられるマラルメの言語に対する姿勢が、すこし差…

ジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(原書 第1巻 1949, 第2巻「内的距離」1952, 筑摩叢書 第1巻 1969, 第2巻 1977 )

日本ではなんでも翻訳されているということはよく言われていることではあるのだが、そんなことはない、ということを知らせてくれる貴重な書物。ヌーヴェル・クリティックの代表的な作品であるジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(全4巻、1949‐1968)も、…

馬場あき子『式子内親王』(紀伊国屋書店 1969, ちくま学芸文庫 1992 )「式子内親王集」を読む ③

深く激しい表現の発露のもとにあるものを、ノイローゼという言葉で表現しているところに、本書が書かれた時代の空気感と馬場あき子40代の激しさのようなものがすこし感じられ、ほんのすこしだけたじろいだりもするのだが、多くは式子内親王の歌を読み込み…

ジャック・デリダ『哲学のナショナリズム 性、人種、ヒューマニティ』(パリ社会科学高等研究院での原セミネール 1984/85, 原書 2018, 藤本一勇訳 岩波書店 2021)

ハイデガーのトラークル論をデリダが脱構築的に読み直し論じた講義録。単純に詩人トラークルが好きだからということで手に取って読んだとすると、ハイデガーもデリダもなに言ってんのということになりかねないし、トラークルの詩の印象からはかなり隔たって…

カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(原書 1942, 中山元訳 日経BPクラシックス 2018)

21世紀の世にあって地政学の古典となった一冊。シュミットの政治学的思想の核となる「友-敵理論」にも言及されていて、なかなか興味深い。 ナチスへの理論的協力を経て、思想的齟齬失脚の後に出版されたシュミット40代半ばの著作。娘のアニマに語りかけ…

竹西寛子「式子内親王」(筑摩書房 日本詩人選14『式子内親王・永福門院』1972, 講談社文芸文庫 2018)「式子内親王集」を読む ②

式子内親王の形而上性、具体性をともなわない観念に傾いた歌にまず魅かれるという竹西寛子の評論。 病がちであったこともあり、人との交流には向かわず、家に引きこもり歌を歌った後白河院第三皇女式子内親王。私歌集と勅撰集に残された400首足らずの歌を…

谷川俊太郎『どこからか言葉が』(朝日新聞出版 2021, 初出:朝日新聞 2016.09.28~2020.12.02)

八十九歳での新詩集刊行。枯れない、ブレない、色褪せない。未生の心と感性を呼び寄せる憑代としての言葉を紡ぎつづけられる稀有な詩人。地上にいながらどこか別の場所で時空をこき混ぜ合わせながら呼吸をしているような人。仙人か天使か、あるいは胎児とし…

アンナ・アフマートヴァ詩集『レクイエム』(木下晴世編訳 群像者ライブラリー 2017)

スターリン圧政下で多くの詩人仲間を失い、夫と息子も逮捕拘禁され、執筆活動も禁止されているなか、ひそかに作られ、監視者に見つからないようにと紙には残さず暗記することで、後にまとめあげられた詩集二作。『葦 1924-1940』と『レクイエム 1935-1940』…

ロビンドロナト・タゴール詩集『螢』(原書 Fireflies 1928 ロンドン, 川名澄訳 風媒社 2010)

タゴールの詩は「すべてのものであるひとつのもの」としての神とともにあることうを詠う詩である。インド、ベンガル州生まれのタゴールの神はブラフマンを感じさせる。彼の詩で謳われる神は、裁く神ではなく、共にあり、創造し生成する神で、その汎神論的で…

ジャック・デリダ『最後のユダヤ人』(原講演 1998, 2000, 原書 2014, 渡名喜庸哲訳 未来社 2016)

フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人という自らの出自に正面から向き合い語られた講演二本。 主に学校という公共空間をとおして、ユダヤ人という符牒のもとに疎外されることに恐怖のようなものを感じ、且つ、疎外されたものたち同士が保身のため…

【金井美恵子を三冊】『岸辺のない海』(中央公論社 1974, 日本文芸社 1995, 河出文庫 2009)、『柔らかい土をふんで、』(河出書房新社 1997, 河出文庫 2009)、現代詩文庫55『金井美恵子詩集』(思潮社 1973)

不遜な作家の不遜な小説。 ロラン・バルトやフランスのヌーヴォー・ロマンに影響を受けつつ、書くことをめぐって書きつづける、日本にあっては稀有なスタイルを持つ小説を生みだしている金井美恵子。『柔らかい土をふんで、』が1997年出版なので、おおよ…

モーリス・ブランショ『ミシェル・フーコー 想いに映るまま』(原書1986, 豊崎光一訳 哲学書房 1986)

ミシェル・フーコー(1926-1984)が亡くなってから二年後に交流のあったモーリス・ブランショが沈黙を破って書いた追悼の書。ブランショがようやく亡くなったフーコーについて語ったということで、日本でも緊急出版されたあたりが当時の人文系学問界隈の熱を感…

足立大進編『禅林句集』(岩波文庫 2009)

室町から江戸にかけて徐々に精練されていった禅語のアンソロジー『禅林句集』から抽出された全3410句からなる禅語導入書。 修行して悟りを得たいなどという思いはさらさらないのだが、気が軽くなるような気の利いた言葉に、あまり苦労することなく出会い…

村岡晋一『ドイツ観念論 カント・フィヒテ・シェリング・ヘーゲル』(講談社選書メチエ 2012)

近代ドイツ哲学入門解説書なのに、かなり面白い。なにかトリックが埋め込まれているのではないかと疑いを持つくらいに、かろやか。風通しがよい感じ。哲学者ごとに主要著作一冊と押さえておくべきポイントを思い切りよく絞り込んだために出てきた効果なのか…

宮下規久朗編『西洋絵画の巨匠⑪ カラヴァッジョ』(小学館 2006)と宮下規久朗『闇の美術史 カラヴァッジョの水脈』(岩波書店 2016)

カラヴァッジョを最初に凄いなと思ったのは、静物画「果物籠」を中学生くらいのときに画集で見たときだったと思う。テーブルの上に置かれた籠は手に取れそうだし、籠の中のブドウは指でつまんですぐに食べられそうなみずみずしさだ。すこし虫に喰われたとこ…

エルヴィン・パノフスキー『<象徴形式>としての遠近法』(原書 1924/25, 哲学書房 1993, ちくま学芸文庫 2009)

哲学者の木田元に、専門分野ではないにもかかわらず自ら翻訳しようとまで思わせた魅力的な研究書。美術史家パノフスキーが近代遠近法の成立過程と意味合いを凝縮された文章で解き明かす。日本語訳本文70ページ弱に対して、原注はその二倍を超えてくる分量…

式子内親王の吐息 「式子内親王集」を読む ① もの思いしつつ、ものをながめているときの、深く長い息づかいに寄り添える歌

日本文芸の表記は漢字かな交じり文であり、使用される文字の種類、漢字の開き具合によって読み手側の印象は異なってくる。 岩波書店古典文学大系80『平安鎌倉私歌集』に収録された「式子内親王集」は、宮内庁書陵部本を底本としたもので、全歌数373首に…

宮下規久朗『聖と俗 分断と架橋の美術史』(岩波書店 2018)

聖と俗、彼岸と此岸の聖別と交流をさまざまな角度から論じた美術論集。アンディ・ウォーホルとキリスト教、シルクスクリーン作品とイコンとの関連を論じた「アンディ・ウォーホル作品における聖と俗」がとりわけ興味深かった。大衆消費社会に流通する代表的…

藤原定家撰『新勅撰和歌集』(1235年完成 久曾神昇+樋口芳麻呂校訂 岩波文庫 1961) 病める華々の消えることのない妖しい形姿と芳香

第9番目の勅撰和歌集。武家社会への移行を決定づけた承久の乱の後の世に、後堀河天皇の命を受け、70歳の重鎮たる定家が時代の推移を踏まえながら単撰した撰集。老年を迎えてからの定家の平淡優艶を好む嗜好性を反映した撰集といわれ、そういわれるのも宜…

ミハイル・レールモントフ『デーモン』(前田和泉訳、ミハイル・ヴルーベリ絵 エクリ 2020)

悲しきデーモン、追放の精霊が罪深き大地の上を飛ぶ なぜに天使は堕ちるのか? それは、能力あるがゆえの過信と傲慢、よかれと思いとった行動が矩を踰えていることに無自覚なため。 冒頭追放されたデーモンがなぜ追放されたかの理由は告げられることはないま…

2021年日本のシルバーウィーク、この三連休は積読本を消化 モーリス・ブランショの中編小説五篇を読む。結果、丸呑みのまま、異物として未消化のまま、作品のたくらみが内部に残る

心地よくはないが、何かただごとではない佇まいで読めと迫る小説の姿をまとったことばの塊。 人文科学の先端領域での研究サンプルとしての、一フィクションとしての対話。精神分析や言語学を吟味するための限界領域での対話セッションのひとつの例のような印…

萩原朔太郎と蟾蜍

萩原朔太郎の詩を読み返したら、ヒキガエルの存在感がすごかったのでメモ。詩人本人はあまり好いていない様子がうかがえるのだけれど、ヒキガエル、朔太郎にとっては一詩神、ミューズみたいな位置づけにいる生物であるような気がした。例: 1.『蝶を夢む』…

福永光司『老子』(朝日選書 1997)

陰気、陽気、冲気。 本書は老荘思想・道教研究の第一人者福永光司による訳解書。老子初読という人であれば、二昔前に出版され、ブームにもなった、加島祥造による英語訳からの重訳『タオ 老子』くらいの軽いものの方がよいかもしれないが、一見素っ気なく書…

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】05. 第二巻第一二章「レーモン・スボンの弁護」(宮下志朗訳 白水社『エセー 4』2010)

モンテーニュ『エセー』のなかでいちばん長い章。白水社版で本文約300ページ。 白水社サイトには「難解な」という形容がつけられているが、訳者や多くの評者が指摘しているように「奇妙な」とか「けったいな」とか「勝手な」という形容がふさわしい叙述の…

堀田善衛『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社 1998 集英社文庫 2005)

小説。 『箴言録』で有名なラ・ロシュフーコーが残した『回想録』の体裁にならって(単行本p398参照)、ラ・ロシュフーコー公爵フランソワ六世が語り手となり、三人称形式と一人称形式を混ぜ合わせながら、ラ・ロシュフーコー家の歴史と十七世紀フランスを中…

ロルフ・ヴィガースハウス『アドルノ入門』(原書 1987 平凡社ライブラリー 1998)

ユルゲン・ハバーマスのもとで哲学の学位取得した著者による辛口のアドルノ入門書。フランクフルト学派全体の研究として評価の高い大冊『フランクフルト学派 ―歴史、理論的発展、政治的意義』(1988)と同時期に書かれたアドルノの業績全般の紹介の書で、コ…

蓮實重彦『増補版 ゴダール マネ フーコー ―思考と感性をめぐる断片的な考察』(青土社 2019)

狂暴、危険。だが愛がある。学識もある。記号の集積にしかすぎないのに生々しい現実感をもって迫り、訴えかけてくる一冊。質量ともに圧倒的で繊細華麗なフィルム体験とテクスト体験に裏打ちされた言説が、粗雑さや非歴史的な抽象性に気づかずにいるものたち…

AIX(人工知能先端研究センター)監修『人工知能と社会 2025年の未来予想』(オーム社 2018)

いまから四年後(出版時からは七年後)、2025年が分水嶺になるよ、ということから人工知能と日本の社会を論じた一冊。 なぜ2025年かというと、日本の激烈な少子高齢化のなかで、きわめて厚い層を占める団塊の世代(1947年~1949年の3年間に生まれた世代)が…

ポール・ヴァレリー『精神の危機 他十五篇』(岩波文庫 2010)

20世紀前半、第一次世界大戦終結からヴァレリー晩年の第二次世界大戦終結期までに発表された講演や式辞、エッセイを集めた一冊。西欧精神の優位と没落を併せ語っているところに機械文明・機械産業膨張期に対しての旧世代最後の抵抗がきこえてくる。抵抗と…

アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン『美学』(原書 1750/58, 玉川大学出版部 1987, 講談社学術文庫 2016)

美学はじまりの書。西欧古典をベースに展開される感性的な領域にかかわる教養についての学問書。美学あるいは感性の学が扱うべき範囲を調査整理しながら、古典作品の具体例を伴った美的領域への導きとなる指導書という感触がある。おもにギリシア、ローマの…