読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

セネカ『神慮について』( 原著 64, 岩波文庫 1980 )神々と人間が水平にいる世界観

『神慮について』は茂手木元蔵訳の岩波文庫旧版『怒りについて』に収録されている一篇。東海大学出版会の『道徳論集』にも収められている。 「神慮について」の原題は"De Providentia"。「神慮」は「摂理」とも訳される神学用語。セネカが神を語るときに想定…

【雑記】2021年春、捨てる本を選ぶ その2 捨てているのか捨てられているのかよくわからないが、本を捨てる、

4月に入ってから引越を前提に蔵書の整理をしている。18歳で上京してから6回目の引越になる。 本日4月16日。半月のあいだにカラーボックス3個分くらい捨てた。数年前までよく読んでいたドラッガーなどのマネジメント系書籍も、ドラッガーの教えにした…

【言語練習 横向き詩篇】もじはしらない

もじはあなたによまれていることをしらない もじはあなたにかかれていることをしらない もじはあなたをかいていることをしらない もじはあなたをよんでいることをしらない しらない しらない もじは しらない

的場昭弘+佐藤優『復権するマルクス 戦争と恐慌の時代に』( 角川新書 2016 )

再読。「債務が国家をつくる」という的場昭弘の発言が斬新。 赤字国家を前提にすると、アソシアシオンの概念は吹っ飛びます。(中略)債務者を殺すわけにはいかない。長く生きてもらうしかない。(第一章「変質する国家」より) 理論よりも世俗世界にも通じ…

萩原朔太郎編『昭和詩鈔』( 冨山房百科文庫 1940, 新装版 1977 )空虚さを清く保つ詩の力

昭和十五年に刊行された昭和詩のアンソロジー。伊東静雄、立原道造、中原中也、安西冬衛、北園克衛、中野重治、草野心平、三好達治、宮澤賢治、西脇順三郎、金子光晴、高橋新吉など、現在でも十分こころに響く芸術的美意識を込められた詩のことばを収集して…

落合陽一を読み返す 『魔法の世紀』(2015)『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』(2018)

落合陽一の主著二作を読み返す。圧倒的計算力を基盤にした計算機主導の環境変革のありようが描出されている。言語よりも計算に信を置く立場ながら、言語で書かれた書籍としての完成度は高く、時代の動きに触れられる記念碑的な作品となっていると思う。イン…

【雑記】花冷えの闇に異言語つぶやけり

弱小言語をひそかにまもる。花冷えの闇に異言語つぶやけり 石ころの抱えてしまった業の唯一性に感じいる業。

小林瑞恵『アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術』( 大和書房 2020 )安心を得るための行為の成果

「生(き)の芸術」と訳されている「アール・ブリュット」。正式な美術教育を受けていない製作者たちの美術作品であり、「アウトサイダー・アート」とよばれる場合もある。日本においては精神の病を抱えている人たち、知的障害を持つ人たちの作品を指すこと…

宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』( 講談社選書メチエ 2007, 講談社学術文庫 2019 )社会制度とともに変容する想像力と象徴秩序

『アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼして…

メイ・サートン『独り居の日記』( 原書 1973 武田尚子訳 みすず書房 1991, 新装版 2016 )勇者をはぐくむ繊細な日常

小説家で詩人のメイ・サートン五十八歳のときの一年間の日記。小説上で自身の同性愛を告白したために大学の職を追われて田舎に引きこもった際の日々が率直に記録されていて、力づよい。生活と精神に芯のある人間の飾らないことばは、ときどき読み返したくな…

森政弘『ロボット考学と人間 ―未来のためのロボット工学―』( オーム社 2014 )ロボットと遊びと能動力

森政弘は「ロボットコンテスト」の創始者であり、「不気味の谷現象」の発見者。仏教に関する著作も持ち、たいへん懐が深い。ロボットとの関わり方は非常に日本的な繊細さにあふれており、わき上がる情熱とともに静謐な慈しみのこころが伝わってくる。 日本文…

佐々木中『切りとれ、あの祈る手を 〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』(河出書房新社 2010)

『夜戦と永遠──フーコー・ラカン・ルジャンドル』の佐々木中の五日間十時間ぶんのインタビューを文字起こしした本。インタビューベースの本にしては資料引用などもしっかりしていてよく出来ている。本を読む熱量に翳りが出てきたときに読むと勇気づけられる…

【雑記】2021年春、捨てる本を選ぶ

塚本邦雄:古き砂時計の砂は 祕かなる濕り保ちつつ落つる 未来へ 昨日の夜から捨てる本をより分けるために過去に読んだものの中身をざっくり再確認している。捨てる基準がよくわからなくなったりしながら40冊くらい廃棄候補を選んだ。本は捨てないと溜まる…

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 05. 「余説」

神楽・申楽・猿楽と和歌との切り離せない関係性を記憶にとめながら読み通す。 神楽の家風に於いては、歌道を以て道とす。歌又舞なり。此歌舞、又一心なり。形なき舞は歌、詞なき歌は舞なり。(「序」から) 「序」にある歌と舞の関係性の定義から、最初から…

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 04. 「第四 雑体」

禅竹の生のことばとともに歌論ベースの能楽論を読みすすめる。引用される歌の匂いだけでも景色がすこし変わりはじめる。 ただ、心深く、姿幽玄にして、詞卑しからざらんを、上果の位とす。故に、古歌幷に詩を少々苦吟して、其心を曲体の骨味とし、風姿の品を…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『精神分析の四基本概念』上下巻(原書 1973, 岩波書店 2000, 改訂版岩波文庫 2020 )理性と無意識の関係など

「フロイトに還れ」を旗印に20世紀以降の精神分析学の一大潮流を作ったラカンの20年にもおよぶ講義の11年目の講義録。精神分析の四つの基本概念である「無意識」「反復」「転移」「欲動」について、分析家の養成を目標に置きながら講義がすすめられて…

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 03. 「第三 女体」

世阿弥の「九位」における位に次いで「撫民体」のように「~体」で分類されているその元となる体系は、藤原定家の「定家十体」といわれるもの。定家の著作「毎月抄」には出てこない「遠白体」などが含まれているので、藤原定家作に仮託された歌論書という鵜…

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 02. 「第二 軍体」( + 世阿弥の「九位」と利用資料について )

妙花風をはじめ『歌舞髄脳記』に現われる「~風」の概念は、世阿弥が『九位』の中で説いた芸の位をあらわすことば。上・ 中・下の三つに分けられ、能にたずさわる者が身につけるための稽古の順は「中初・上中・下後」とすべきとされている。芸道の順位として…

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 01.「第一 老体」

金春禅竹という一流の能楽実践者による歌舞論。各曲の姿かたちを、先行する和歌に込められている心と取り合わせるとともにカテゴリー分けして伝えようとしている。『歌舞髄脳記』は、基本的に謡曲一曲につき和歌一首が召喚されることだけが芯にあるシンプル…

中沢新一『精霊の王』(講談社 2003, 講談社学術文庫 2018 )神楽、申楽、猿楽の翁という日本的精霊、後戸の神の振舞いに感応する精神と身体

『精霊の王』は、著作の位置としては『日本文学の大地』『フィロソフィア・ヤポニカ』のあと、カイエ・ソバージュシリーズの執筆を行なっていた時期の作品。この後、『アースダイバー』『芸術人類学』とつづいている。『日本文学の大地』で能の理論家として…

オリヴィエ・コーリー『キルケゴール』(白水社文庫クセジュ 1994)異質な世界を観ている人の世界観への案内

歴史に残る偉人というものは、凡人からみればみな変態で、消化しきれないところがあるからこそ意味がある。異物感、異質感。複雑すぎて味わいきれないニュアンス、踏み入ることのできない単独性を帯びた感受性の領域を持つ人間の観ている世界。おそらく消化…

高橋睦郎『私自身のための俳句入門』(新潮選書 1992)俳句界に参入するための心得書

日本の文芸の歴史の中で俳句形式がもつ意味合いを探る一冊。書き方講座というよりも読み方講座として重要性を持っている。 私たちがいま俳句とは何かを考えることは、俳句を生んだわが国文芸、とりわけ和歌の長い歴史、和歌の自覚を生んだ海外先進異国文芸と…

【雑記】花の季節の土台の不具合

2021年3月23日、一部Android端末不具合(メール使えない、ブラウザ使えない)と即時対応(半日かかったけど対応版Chrome更新で私のケースでは復旧)の対象となった人間で、短詩形に少しでも関心を持っている変わり者は、まあ何かしら気の利いた詩句がこの機…

平田オリザ『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書 2016)下り坂の世で「寂しさと向き合う」

語り口は穏やかだが、内容はかなりシビアな状況論。寛容な精神が重要と言っている一方で、付加価値を生みだせる人材を育てていかなければ生き延びるのは困難になってきているという主張が目を引く。成長が当たり前だった時代が過ぎ、停滞から衰退に向かう状…

時枝誠記『国語学原論 ―言語過程説の成立とその展開―』(上・下)(岩波書店 1941, 岩波文庫 2007)見えないもの聞こえないものを掴む思考力、「零記号の陳述」

自然科学的構造分析を用いるソシュール系の言語理論に対して、時枝誠記は言語は主体的な表現活動そのものであるとする「言語過程説」という立場に立つ。発話者と聴取者が必ず出て来るウィトゲンシュタインの言語ゲームの理論とも親和性があるようにも思える…

杉本博司『苔のむすまで』(新潮社 2005)荒ぶる魂の沈思黙考

写真家であり現代美術作家である杉本博司の第一著作。固定したカメラで長時間露光した作品や模造品の写真作品を作成してきた作家のコンセプト部分がうかがえる一冊。写真図版も多く含まれているので杉本博司入門にもなる。 私が写真という装置を使って示そう…

集英社 漢詩体系17 蘇東坡(1037-1101)(訳・解説 近藤光男 1964年一刷発行 )どこに行っても言葉に不自由しない苦吟と無縁の詩人の業績

蘇軾。中国北宋の人。政治家としては守旧派、詩人としてはどの地域のどの主題にも対応できる万能の人。書家、画家としても優れ、音楽も能くする。革新派との政治的な勢力争いの中で、左遷と地位回復を繰り返した人生の中での詩作。66年の生涯で、2714…

金子信久『鳥獣戯画の国 たのしい日本美術』(講談社 2020)遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん

鳥獣戯画を中心に、伊藤若冲、歌川国芳、河鍋暁齋、曽我蕭白、森狙仙など、小さな動物や虫たちが躍動する日本画の世界に案内してくれる一冊。優美で瀟洒な線と淡くて品の良い彩色が心を和ませてくれる。兔と蛙と雀と金魚。猫と鼠と猿と亀。祭りと遊興に励む…

ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分 ―普遍経済学の試み』(原書 1949, 二見書房ジョルジュ・バタイユ著作集第六巻 生田耕作訳1973)余分なものの活用のしかたについての考察

普遍経済学三部作の第一作。断片的エッセイが多いバタイユの作品にあって、珍しく体系的な構造をもった作品。前日の見田宗介『現代社会の理論』や、ロジェ・カイヨワ『聖なるものの社会学』など、生産と消費のサイクルについて論じられる場合によく参照引用…

見田宗介『現代社会の理論 ―情報化・消費化社会の現在と未来―』(岩波新書 1996)バタイユの普遍経済学との共闘

『自我の起源』(1993年)につづく仕事。未来に残したいと著者が願っている七作品のうちの一作。見田宗介(真木悠介)は人に何と言われようとつねに希望のある書物を書こうとしていると決めているところがあるのだなと、複数作品を読みすすめるうちに感じる…