読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ドレの失楽園』(原作:ジョン・ミルトン、翻案:谷口英里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2010)

創造神による独裁的な統治に反乱を企てた革命戦士としての堕天使ルチフェルを描いたミルトンの『失楽園』を更に翻案しドレの挿画とともに谷口英里也が新たな息吹を吹き込んだ作品。原作と翻案作品とのあいだにどれほどの差があるのかは改めて比較してみない…

D・W・ライト編『アメリカ現代詩101人集』(思潮社 2000)『ニューヨーク現代詩36人集』(思潮社 2022)

「ビートの父」として知られる1905年生まれのレクスロスから上海から移住して英語で詩を書く1957年生まれのワン・ピンまで、20世紀のアメリカの特徴的な詩人を集めて、アメリカ現代詩の動向を概観できるようにしたアンソロジー『アメリカ現代詩1…

『ドレの旧約聖書』『ドレの新約聖書』(訳構成:谷口英里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2010)

旧約聖書の挿画が155点、新約聖書の挿画が78点。いずれも精緻な木口木版画作品で、聖書の世界に見るものを引き込まずにはおかない傑作ぞろい。「古典文学の世界を、自らが描いた圧倒的な量の画像で視覚的に物語る」というドレが掲げた一大目標のうちで…

見田宗介『宮沢賢治 ― 存在の祭りの中へ』(岩波書店 20世紀思想家文庫12 1984, 岩波現代文庫 2001)

本当の修羅は修羅でない者にむかってことばを投げつけずにはいられないものなのだろう。 だから、多作が可能であり、際限のない推敲が可能となるのだろう。 50歳を過ぎてようやく納得できたのは、私自身は修羅ではないということ。 その差を確認するための…

ルイーズ・グリュック『野生のアイリス』(原著 1992, 野中美峰訳 KADOKAWA 2021)

2020年のノーベル文学賞受賞作家の第六詩集。本作にてピューリッツァー賞詩部門を受賞、詩人の著作の中では最も読者層に受け入られた詩集でもある。 花咲き実を結ぶ植物と、その植物との出会いの場となる小さな庭園を主要なモチーフに、自身の揺らぎ続け…

監修:宇野邦一+鈴木創士、訳:管啓次郎+大原宣久『アルトー後期集成Ⅱ 手先と責苦』(河出書房新社 2016)

明晰と錯乱の混淆した類いまれな作品。アルトーが生前に構想していた最後の作品は、長期間におよぶ精神病院収用の最後の数年間に書かれた書簡と詩的断章からなるもので、妄想と呪詛が現実世界に対して牙をむいている。全集編者による推奨の短文に「アルトー…

アウグスティヌス『神の国 (三)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1983)

アウグスティヌス『神の国』第三分冊、第11巻から第14巻を収める。 古代の終焉と中世の端緒の時代に多大なる影響力を持ったアウグスティヌスの世界観は、21世紀の現代の私たちの感覚とは異なる。異なっているがゆえに、参考になることもおおいにある。…

萬屋健司『ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人』(東京美術 ToBi selection 2020)

19世紀末から20世紀にかけて活動したデンマーク人画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ。本書には、同時代の交流のあった画家たちの作品がわりと沢山紹介されていて、時代の風潮としてほかの画家たちと似かよっているところと、誰にも似ないハマスホイならではの…

ルイーズ・グリュック『アヴェルノ』(原著 2006, 江田孝臣訳 春風社 2022)

2020年度ノーベル文学賞詩人の63歳での第10詩集。『野生のアイリス』に次ぐ二冊目の日本語訳詩集。 一時間たらずで読み通せてしまうので、気になったときに再読するのに適した分量、そして内容。 母娘の世代間に関する齟齬の物語。 押し付けられたの…

管啓次郎『詩集 犬探し/犬のパピルス』(Tombac , インスクリプト 2019)

アントナン・アルトーの翻訳者ということで身構えていたが、読んでみるといたって穏当で建設的。幻想的フィクションを織り交ぜているが、それは世界をよりよく見取り、新たな相を見せるようにするための詩的な戦略で、きわめて実践的なものであることが感じ…

原田マハ+ヤマザキマリ『妄想美術館』(SB新書 2022)

美術を愛する作家二人によるアート談義。両人ともにエピソードが常人離れしているので、短いパッセージのなかに情報と情動が凝縮されていて、読み手は凝視せざるをえない。さらに、編集部の優れた仕事振りが伺える注記と図版による補完体制が質量ともに充実…

佐藤直樹監修『ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画』(平凡社コロナ・ブックス 2020)とリルケの『マルテの手記』

実現するにはいたらなかったがリルケがロダンに次いで作家論を書こうとしていたのが本書で紹介されているデンマーク・コペンハーゲンが生んだ特異な象徴主義の画家ヴィルヘルム・ハマスホイ。「北欧のフェルメール」とも言われるハマスホイであるが、フェル…

中央公論社『日本の詩歌22 三好達治』(中央公論社 1967, 新訂版 1979, 中央文庫 1975)

高見順の異母兄にあたる福井県出身の詩人阪本越郎が、福井に縁の深い三好達治の作品ひとつひとつに的確な鑑賞文をつけて案内してくれる良書。第一詩集『測量船』から最後の詩集『百たびののち』まで、代表作とみられるものがこの一冊で優れた読み手の読解付…

石原八束『三好達治』(筑摩書房 1979)

俳人石原八束はすでに飯田蛇笏主宰の「雲母」の編集に携わっていた1949年30歳の時に詩人三好達治に師事することになり、1960年から詩人の死の年まで三好達治を囲む「一、二句文章会」を自宅にて毎月開催していた。 本書は昭和50年代に各所に発表…

高橋睦郎『永遠まで』(思潮社 2009)

翁なのか、幼児であるのか、はたまた、生者であるのか、死者であるのか、いずれでもなくいずれでもあるあわいを生きていることはそれぞれの詩が強烈に主張しているけれども、70歳を迎えた身体からくりだされることばは、時間と空間の閾に通路を拓きながら…

三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫 1991, 至文堂 1952)

「初めて現代詩を読もうとする年少の読者のために」書かれた批評家的資質の確かな詩人による現代詩入門書というのが本書の位置づけではあるが、刊行年度が1952年ということもあって、内容的には文語調の近代詩から口語自由詩へ発展し定着していく過程を…

宇野邦一訳 サミュエル・ベケット『どんなふう』(原著 1961, 河出書房新社 2022)+片山昇訳『事の次第』(白水社 2016)

小説としては前期三部作『モロイ』(1951)『マロウンは死ぬ』(1951)『名づけえぬもの』(1961)に次ぐストーリー解体後の後期モノローグ作品の端緒となる最後の長篇といえる作品。もっとも読まれ、もっとも知られてもいるだろう戯曲『ゴドーを待ちながら』(1952…

萩原朔太郎『青猫』(1923)

2023年は『青猫』刊行百周年。ほかには高橋新吉「ダダイスト新吉の詩」百周年であったり、伊藤野枝、大杉栄没後100年だったりするが、中学生での初読以来『青猫』のイメージは強烈で、なじみ深いものともなっている。今でも機会があれば読み返したり…

三好達治『萩原朔太郎』(筑摩書房 1963, 講談社文芸文庫 2006)

萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治の詩人論。『月に吠える』『青猫』で日本の口語自由詩の領域を切り拓いたのち、「郷土望景詩」11篇において詩作の頂点を迎えたと見るのが三好達治の評価で、晩年の『氷島』(1934)における絶唱ならぬ絶叫は、詩の構成からい…

桑原武夫+大槻鉄男選『三好達治詩集』(岩波文庫 1971)

いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャン…

石原八束『駱駝の瘤にまたがって ――三好達治伝――』(新潮社 1987)

生前の三好達治の門下生として親しく交流した俳人石原八束による三好達治の伝記評伝。 散文の表現能力に秀でている石原八束によって再現される三好達治は、生身の三好達治に限りなく近い像を与えてくれていることは疑いようもないことではあるのだが、昭和初…

畠中哲夫『三好達治』(花神社 1979)

越前三国の地で三好達治の門下生であった詩人畠中哲夫による評論。三好達治自身の作品や生前実際にかわされたことばはもちろんのこと、同時代周辺の文学者たちの表現を多くとりこんで、詩人三好達治の存在がいかなるものであったかを、重層的に表現している…

アンドレ・ブルトン+アンドレ・マッソン『マルティニーク島 蛇使いの女』(原著 1948, 松本完治訳 エディション・イレーヌ 2015)

第二次世界大戦下のフランス、1940年6月ナチスドイツの侵攻によりパリが陥落したのち、ナチスの傀儡であるヴィシー政権が成立、危険な無政府主義者たちあるいは退廃芸術家と目されていたシュルレアリストたちは、アメリカへの亡命を余儀なくされた。本…

三好達治『諷詠十二月』(新潮社 1942, 改訂版新潮文庫 1952, 講談社学術文庫 2016)

戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…

アウグスティヌス『神の国 (ニ)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1982)

聖霊と天使の違いは何でしょう? といった問いは、本書が扱うアウグスティヌスの議論にはない論点だが、『神の国』の第6巻-第10巻までの異教徒の哲学への批判を読むに際して事前に知っておいた方がよい情報であると、本書通読後に私は思った。聖霊はキリス…

アウグスティヌス『神の国 (一)』(服部英次郎・藤本雄三訳 岩波文庫 1982)

アウグスティヌスの主著、正式名称『神の国について異教徒を駁する』全22巻のうちローマ陥落をめぐる保守勢力のキリスト教批判への対抗としてローマ帝国に内在していた問題をめぐって書かれた第1巻から第5巻までを収めている。神話の神々とその祭祀、ス…

山本陽子『図像学入門 疑問符で読む日本美術』(勉誠出版 2015)

日本美術を鑑賞するのに役立つ一応学問的な情報を平易かつ仰々しくなく伝えてくれているのだが、ざっくばらんすぎてちょっと有難味にかけるところがある。図像を生み出した社会や文化全体と関連づけて解釈するために発展した研究分野である図像学(イコノロ…

沓掛良彦訳 エラスムス『痴愚神礼讃 ラテン語原典訳』(原著 1511, 中公文庫 2014)

意図することなく宗教改革の火付け役のひとつともなった作品。軽いようでいて、現状回復不能にしてしまう、パロディの掘り崩す力を、沓掛良彦によるラテン語原典からの新しい翻訳ですっきり楽しめる。五百年前の古典作品ではあるが、友人のトーマス・モアの…

山田晶『アウグスティヌス講話』(新地書房 1986, 講談社学術文庫 1995)

京都北白川教会で1973年に行われた講話6篇をベースに編纂されたアウグスティヌスのキリスト教一般信徒向けの研究。第1話は中央公論社「世界の名著」シリーズのアウグスティヌスの解説「教父アウグスティヌスと『告白』」(1968)でも強調されているアウグス…

ジェイムズ・メリル『イーフレイムの書』(原著 1976, 志村正雄訳 書肆山田 2000)

無意識は創造されつづけ変様するのだから、神もまた創造しつづけ変形しつづけるという考え方も許されるのではないか? そんなことを思わせてくれた二十世紀後半のアメリカが生んだ長篇詩の翻訳。 ユングは言う――言わないにしても、言っているに等しい――神と<…