2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧
良寛には法華経を称えた「法華讃」「法華転」と言われる漢詩作品集が四種あり、本書のもとになっているのは原詩102篇と著語(じゃくご)と言われる短い感想を述べたものと溢れる思いから書き添えられた和歌数篇からなる最大のもの。新潟市所蔵の良寛直筆…
軽めの内容かと思ったら、本文も掲載図版も文句のつけようがない優れた一般向け専門書的図鑑だった。平凡社刊行だから、別冊太陽もしくはコロナ・ブックスのシリーズを想像していただくと、文章と図版の質と量の水準の高さの程度が知れるかと思う。全82ペ…
2014年の博士論文「本質と実在 ― スピノザ形而上学の生成とその展開」をベースに編み直された著者初の単著。慶応大学出なのに法政大学出版会というちょっと変わった期待のかけられ方を感じる著者で、あとがきによると、ライプニッツと中世哲学を専門領域とす…
集合論から読み解くスピノザの哲学。幾何学的秩序に従って論証されるスピノザの『エチカ』の構成を、現代数学の世界からその骨組みを透視して見せた論考。合理のみで突き詰め、削ぎ落していった果てのスピノザ哲学のひとつの姿を見ることができて、なるほど…
ラカンの初期のエクリチュール。初期からのフロイトへの傾倒を知るに貴重な資料5篇。講義録ではない書かれたものとしてのテクストの存在感があるけれども、難解といわれる『エクリ』以前の作品なので、論じ方はいたって素直。読みやすく、とくに強調したい…
様々な分野の作家に大きな影響を与えているエミリ・ディキンスンンの詩の世界を、各分野で参照引用されている作品を取り上げながら、原詩と新訳と解説で詳しく多角的にとらえている最新アンソロジー。音楽、アート、絵本、映画、演劇、詩と小説、書評、評論…
21世紀の哲学界での思想動向を図式的に手際よくまとめている導入書。思弁的実在論、加速主義、新実在論の代表的論者の思考の枠組みが、資本主義と情報技術、機械と科学と数学で、非自然化していっているような現代世界に、どう伍していくかが見られ問われ…
ウォルト・ホイットマン(1819-1892)と並び称されるアメリカの国民的詩人エミリ・ディキンスン(1830-1886)の没後100年にあわせて刊行された日本語訳アンソロジー。およそ1800篇残されたディキンスンの詩のなかから154篇を選び、作品番号順(基本的…
昭和26年(1951年)の生前全歌集の886首に、拾遺作品264首を新たに付加した一冊(全1150首)。文庫本で手に入りやすい『自註鹿鳴集』よりも歌人の活動期間をより広くカバーしている。活動期間のわりに詠まれた歌の数はそう多くなく、一首一首に推…
私小説。標準的で規範的なものの抑圧に対するマイノリティ(ホモセクシャル)側からの抵抗と困惑の表明。「仮固定」「偶然性」「意味がない無意味」「無関係性」「分身」「生成変化」など千葉雅也の哲学書で語られている概念が、学生時代(『デッドライン』…
一様ではない世界の紋様に敏感に反応し、見悶えた人としてのジェラード・マンリー・ポプキンズ。 まだら模様の幻視者という印象が強い。 中世スコラ神学者のドゥンス・スコトゥスとイエズス会の創立者のイグナチオ・デ・ロヨラに傾倒し、英国国教会からロー…
あらゆる中毒、あらゆる傷に、触れては離れる。 残るものは痛み。 甘美なものもあれば、激烈なもの、消えないものもある。 シュルレアリスムに近いところで活動したチリの詩人ロハスの詩には、原子の世界にもどる手前の人間の、受苦と情熱が描き出されている…
良寛自筆詩稿「草堂詩集」235首のうち重複を省いた184首と、岩波文庫版『良寛詩集』から47首を追加した全231首の漢詩に、読み下し文と現代語訳、訳注を施した充実の一冊。良寛も愛読した寒山詩についての仕事(岩波書店刊中國詩人選集5『寒山』 …
19世紀前半のポーランドを代表するロマン派詩人アダム・ミツキェーヴィチの最高傑作とも言われる未完の詩劇『祖霊祭』の関口時正による編集翻訳作品。最後に書かれたという第三部は、政治色が濃く、また分量も突出して大きく、他のテクストからの独立性が…
欲動のもとめる対象「対象a」あるいは「小文字の他者」をめぐる本格的考察が展開されることになる起点となったラカンのセミネール。聴講対象者はラカン派の分析家で、セミナールも10年目となると、前提されている知識が多くてなかなか全体像がつかみにくい…
出版間もないのに非常に評判の高い一冊。買おうかどうか迷ったら、ゴシック体で強調しているところをたどって書店店頭で判断すればよいという徹底して初心者に優しいつくりにもなっている。浅田彰の『構造と力』が天使的軽さを目指しながらまだ大天使の大き…
中国江蘇省蘇州市にある臨済宗の寺、寒山寺に伝わる風狂超俗の伝説の僧、寒山拾得のうちのひとり、寒山。 禅画・水墨画に描かれる異形瘋癲の寒山の姿を想い起す人のほうが多いであろうが、そのイメージとはかなり異なる姿が寒山の詩からは読み取れる。 本書…
日本文学古典注入。 日本漢詩がもっとも栄えた時期は江戸時代だということすら知らないほうが普通というくらいに現代では顧みられることの少ない漢詩の世界だが、明治近代へとつながっていく江戸の詩歌を、俳諧と和歌だけで考えるのは大きな間違いのような気…
キュニコス派(犬儒派)ディオゲネスから説きおこし、ストア派初期のゼノンから後期のマルクス・アウレリウスまでの哲学をたどる概説書。 自分の力ではどうにもならない外的条件に対してどのように振舞うのが良いかに焦点を当て、意志の力で自己統率し運命に…
どことなく宮澤賢治が書きそうな話。キリスト教と法華経の世界の違いはある。 重く冷静な梟と軽く陽気なナイチンゲールが互いに退かずに自分の優位性について言論でもってはりあっているところに面白味がある。 原詩の成立時代は12世紀後半中世であっても…
特定の私企業に知的財産権があるものの運用や保管を任せてしまっていいものか、すべてがデジタル化されてしまっていいものかという懸念を広く取り上げた一冊。市場原理にしたがう私企業が突然の態度変更することへのおそれと、デジタル化した後の紛失や劣化…
パルメニデスやゼノンに連なるエレア派の論理学を学んだであろう「エレアからの客人」を対話の主人に据えたプラトンの後期対話篇2篇。ソクラテスは対話導入部にほんの少し顔を出すだけで、後期プラトンの思想を代弁する「エレアからの客人」が、「分割法(…
感覚を持つ身体を基体として、個体性をもったハビトゥス(習慣)が生まれ、人生がかたちづくられる。ハビトゥスが方向性を生み出しながら、それぞれの生が営まれることを、主に中世の修道院の生活から解き明かしていったエッセイ的論考。中世の精神と生活の…
艶なる日本文学の系譜にある久保田万太郎の俳句集。樋口一葉-泉鏡花-永井荷風-久保田万太郎という流れや、「やつしの美」という視点、あるいは俳人として対極ともいえる四歳年上の飯田蛇笏との対比など、興味深いところを語った編者恩田侑布子による解説…