読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ポール・テヴナン編 アルトー/デリダ『デッサンと肖像』(原著 1986, 松浦寿輝訳 みずず書房 1992)

本書を構成するジャック・デリダのアルトー論「基底材を猛り狂わせる」は、みすず書房から単独出版されていて、こちらの方が本体2400円と値段も安いこともあって、よく流通している。私の所蔵しているのもこちらの版であるが、今回縁あって、本来の造本…

梅津濟美訳『ブレイク全著作』1 (名古屋大学出版会 1989)

ウィリアム・ブレイク(1757 - 1827)というと、日本では『無垢の歌、経験の歌(Songs of Innocence and of Experience, 1789, 1794)』が圧倒的に有名で、次いで比較的短い詩篇『天国と地獄の結婚(The Marriage of Heaven and Hell, 1790-1793)』が多く訳…

フランシス・ポンジュ『物の味方』(原著 1942, 阿部弘一訳 思潮社 1965)

『物の味方』はフランシス・ポンジュの第二詩集。サルトルを感銘させてポンジュ論「人間ともの」(『シュチュアシオンⅠ』所収)を書かせたところの名詩集。 阿部弘一訳がはじめてポンジュの詩集を外国の言語に翻訳したということも手伝って、日本では谷川俊…

ジャック・デリダ『シニェポンジュ』(フランシス・ポンジュに捧げられた1975年のスリジー・シンポジウムの講演、原著 1984, 梶田裕訳 法政大学出版局 2008)

ジャック・デリダの脱構築的テクストを読んで、読みの対象となっている詩人の作品を読みはじめるということは確かにある。私の場合、エドモン・ジャベスがそのケースに当てはまる。詩作品が翻訳されていてもすぐに手に入らない状況になってしまい、批評家や…

堀田三郎訳『ウォレス・スティーヴンズ詩集』(英宝社 2022)

ウォレス・スティーヴンズはアメリカのモダニズムの詩人。世界的には著名で研究も多くなされていながら、日本ではなかなか紹介されることの少ない詩人の一人。現状もっとも手に入りやすいのは岩波文庫の『アメリカ名詩選』で、代表作のひとつ「アイスクリー…

企画・編集 小柳玲子『夢人館8 リチャード・ダット』(岩崎美術社 1993)

1842年、雇われ画家として中東を旅行していた25歳のリチャード・ダットは、猛暑の中で仕事をし過ぎて日射病となるとともに、その後殺人をおこすまでになる精神病に囚われはじめた。自分はエジプトの神、オシリスの使者であり、悪魔に常に付け狙われて…

永田耕衣『永田耕衣俳句集成 而今・只今』(沖積舎 2013)

1934年(昭和9年)刊行の処女句集『加古』の「日のさして今おろかなる寝釈迦かな」から1996年(平成8年)齢97歳で主宰する琴坐俳句会を閉じるにあたって最終掲載された自筆最終俳句「枯草の大孤独居士ここに居る」までの約5000句を収めた永…

西脇順三郎の日本語の詩を通しで全部読んでみる(一回目)

生前刊行された15冊分の詩集と未刊詩篇、拾遺詩篇、依頼によって書かれた校歌、自作の欧文詩篇の本人による訳詩まで、完成している日本語作品をはじめてとおして読んでみた。軽い仕上がりで、スピード感をもって読みすすめることができるのは、西脇順三郎…

リチャード・ダッドのウィキペディアの記事からクィーンの「フェリー・フェラーの神技」のミュージックビデオを見てびっくりしたことの記録 オクタビオパスの『大いなる文法学者の猿』をきっかけに

エンドレス・リピートできるヤバいミュージックビデオ。 再生一回2分47秒(167秒)に込められたヨーロッパ文化の精髄。 フレディ・マーキュリーの天才が発掘し変奏させたイギリスの文化の奥深さに圧倒される。 www.youtube.com 受容の衝撃の度合いから…

コレクション日本歌人選 049 小林一彦『鴨長明と寂蓮』(笠間書院 2012)

鴨長明と寂蓮。ネームバリューで『方丈記』の鴨長明が優り、歌人としての優劣では寂蓮が圧倒している。本書は著者小林一彦の専門が鴨長明であることもあって、鴨長明の歌28首、寂蓮の歌22首という内訳となっているが、収録歌と収録歌鑑賞の方向性から歌…

馬場あき子+松田修『『方丈記』を読む』(講談社学術文庫 1987, エッソ・スタンダード株式会社広報部 1979)

鴨長明が残した散文作品と和歌と同時代の「家長日記」などを語りながら、鴨長明の人間像についてざっくばらんに語り合った対談録。長明の非徹底的な側面を比較的冷たくあしらうように語る日本文学者松田修と、不完全で弱さに徹底してまみれた長明を文学者の…

五味文彦『鴨長明伝』(山川出版社 2013)

歴史学者が鴨長明の三作品『無名抄』『方丈記』『発心集』と残された和歌、そして関連作品・関連資料を綿密に読み込んだうえで提示した信憑性の高い鴨長明の伝記作品。散文三作品が書かれた順番やおおよその時期を確定し、また鴨長明の生年と残されたエピソ…

鈴木貞美『鴨長明 ――自由のこころ』(ちくま新書 2016)

最新の研究を参照しながら新たな鴨長明像を提示しようとした野心的な著作。新書であるにもかかわらず研究書あるいは批判的な考察の多い批評といった印象が強く、鴨長明をある程度読んでいない人にとってはとっつきにくい作品であると思う。少なくとも鴨長明…

水木しげる『マンガ古典文学 方丈記』(小学館 2013, 講談社水木しげる漫画大全集092 2018)

水木しげる91歳での作品。画力も、構成も、調査も、どこにも衰えの見えないところに唖然とさせられる。 混迷を深める21世紀の世界情勢と、東日本大震災の痛みが生々しく残るなか書き下ろされた作品で、平安末期から鎌倉初期にかけての激動の時代を生き、…

『ヴァレリー詩集 コロナ/コロニラ』(松田浩則・中井久夫 共訳 みすず書房 2022)

ポール・ヴァレリー最晩年の8年間に、愛人ジャンヌ・ロヴィトンの要請により書かれた、愛の詩の集成。日本語版訳書には、詩集刊行が目指されていた「コロナ」全23篇と、姉妹篇となる予定であった「コロニラ」の詩篇133篇のなかから21篇が選ばれ訳出…

管啓次郎の連作詩集 アジャンダルスを三冊

世界を構成する四元素、地水火風が詩人をいかにつらぬき、いかに造形するかを、実践的にとらえようとする詩的創造の試み。16行のソネット形式の作品を64篇を重ねて一冊とし、4年4冊で完結させた意欲的連作詩集。 Agend'Ars 左右社 2010島の水、島の火 …

【雑記】引越し期間中に読んでいた本とGW連休中に購入した本

現代の後期資本主義的情報社会のなかでアラフィフと呼ばれる年代において、 芸能や経済などの領域にふかく属していることを自覚しつつ、 その領域において自分が特別秀でていないことを自覚しながら、 無給のうちに独居隠居をして自足するには まだまだ早い…