読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

【雑記】引越当日 こころ平穏、からだは不穏

52歳での賃貸物件引越。 東京都内、北部の区から南部の市へ。 転換期をむかえた家の者の便宜をはかるための転居。 都内移動とはいえ、驚くほど移動感のない引越。 一日目の感想。 調度品が変わらない。最寄りのスーパーマーケットが変わらない。ネットの通信…

久保田淳訳注 鴨長明『無名抄 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫 2013)

思い通りに出世もできず、歌人としても突出できず、老いをむかえて方丈庵に住むようになってからこつこつ散文を書きはじめた鴨長明のことが最近気になり出した。 歌論書『無名抄』は、角川ソフィア文庫で出ているのをブックオフで見かけたということもあって…

オクタビオ・パス『泥の子供たち ロマン主義からアヴァンギャルドへ』(原著 1974, 竹村文彦訳 水声社 1994)

今週末に引越しを控えるなか、荷造りや各種手続きの合間をぬって再読したオクタビオ・パスの詩論集。 『弓と竪琴』につづく本作は、西欧とアメリカとラテンアメリカの近代詩の展開に的を絞って論じている。イギリスとドイツのロマン派の詩人や、フランスの象…

『時を超えるイヴ・クラインの想像力 不確かさと非物質的なるもの』(美術出版社 2022)

金沢21世紀美術館、2022年10月1日~23年3月5日開催の企画展「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」の公式図録。 第二次世界大戦後、核による全世界の滅亡を織り込んだ空虚な時空間に投入された、シンプルだがとても過激なイヴ・…

柳瀬尚紀訳 ロアルド・ダール『脚韻(きゃくいん)ソング』(原著 2005, 評論社 2008)

ロアルド・ダールの物語作品の中にちりばめられた詩や歌を拾い集めた全47篇の韻文アンソロジー。ルビつきで、総勢26人というたくさんの、それぞれ個性的なイラストレーターの挿し絵がついていて、贅沢な絵本作品集を読んでいるような感じにさせてくれる…

『馬場あき子全歌集 作品』(KADOKAWA 2021)

馬場あき子の仕事のなかでは、評論の『式子内親王』(1969年)、『鬼の研究』(1971年)のほか、謡曲に関するいくつかの本など、韻文よりも散文に接することのほうがこれまでは多かったのだが、全歌集というまとまった本を見つたのを機会に、韻文作品をひととお…

ミシェル・ビュトール『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』(原著 1975, 内山憲一訳 朝日出版社 2011)と中原祐介責任編集『現代世界の美術 アート・ギャラリー 19 デルヴォー』(集英社 1986)

ビュトールの『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』は,『夢の物質』の第二巻『地下二階』に収められた「ヴィーナスの夢」の章を抽出して訳出されたもの。全5巻の長大な作品の中でデルヴォーの絵に触発されて綴られた作品の一部が全体のなかでどのような位…

ミシェル・テヴォー『誤解としての芸術 アール・ブリュットと現代アート』(原著 2017, 杉村昌昭訳 ミネルヴァ書房 2019)

ミシェル・テヴォーはジャン・デュビュッフェが1976年にローザンヌに設立したアール・ブリュット・コレクションの初代館長を26年間にわたって務めた人物。ローザンヌ大学を卒業後、フランス社会科学高等学院に学んだ秀才で、本論考にも見られる視野の…

末永照和『評伝ジャン・デュビュッフェ アール・ブリュットの探究者』(青土社 2012)

芸術の使命は創造的壊乱と個性の本来的な独走表現にあるといった信念のもとに生き活動したジャン・デュビュッフェの肖像を活写した日本オリジナルの評伝。シュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンとも正面切って論争し、自分の主張や感情を曲げず傍若無人…

ジャン・デュビュッフェ『文化は人を窒息させる デュビュッフェ式<反文化宣言>』(原著 1968, 杉村昌昭訳 人文書院 2020)

戦後の20世紀を代表するに足るフランスの異端的芸術家による芸術論であり闘争的宣言書。権威筋による既成の価値観に従順な表現は、有用性を付与されるかわりに、特権的ではあるが支配体制に絡め取られ飼い慣らされてしまっている規格化され抑圧的にはたら…

針生一郎責任編集『現代世界の美術 アート・ギャラリー 20 デュビュッフェ』(集英社 1986)

既成の価値観と消費形態に囚われない純粋な表現活動としてのアール・ブリュット(生の芸術)を提唱したデュビュッフェであるが、本人の創作活動はアール・ブリュット系の作品に似ているところはあるものの、スタイルの創造に意識的な職業的芸術家のものであ…

ライアル・ワトソン『ネオフィリア 新しもの好きの生態学』(内田美恵訳 筑摩書房 1988, ちくま文庫 1994)

宇宙の奇妙さ、地球の奇妙さ、生命の奇妙さに科学者的視点から迫ろうとする知的興奮に満ちたエッセイ集。神秘現象と見なされるような事象に対しても、いたずらにタブー視するのでもなく、かといって無闇にまつりあげるのでもなく、実験と観測データから合理…

『D・H・ロレンス全詩集【完全版】』(彩流社 2011)

生命の本来的な活動力を損なう文明の病に徹底して抗議するロレンスのさまざまな文筆活動の最も根本にある詩的精神の純粋な発露である詩作品の集成。生涯書きつづけられた詩作を全篇読み通してみると、ロレンスという作家の大きさがよく分かってくる。100…

アール・ブリュットの作品集二冊

1.アール・ブリュット・コレクション編 サラ・ロンバルディ+エドワード・M・ゴメス責任編集『日本のアール・ブリュット もうひとつの眼差し』(国書刊行会 2018) www.kokusho.co.jp 本書は2018年スイスのローザンヌ市のアール・ブリュット・コレク…

エミリー・シャンプノワ『アール・ブリュット』(原著 2017, 西尾彰康・四元朝子訳 白水社文庫クセジュ 2019)

ラカン派の精神分析家でパリ第八大学の造形美術学科で講義も行っているエミリー・シャンプノワによるコンパクトなアール・ブリュット入門書。アール・ブリュットは20世紀フランスの画家ジャン・デュビュッフェが1945年に提唱した芸術作品の概念で、既…

ジョルジョ・アガンベン『事物のしるし 方法について』(原著 2008, ちくま学芸文庫 2019)

アガンベンの方法序説という趣きの著作。フーコーに倣いながら「パラダイム」「しるし」「考古学(アルケーの学)」に言及し、思考の基盤をかたちづくる骨組みを浮き上がらせようとしている。印象的なのは、記号をはみ出る過剰としてのしるしが、傷のような…

『フランス世紀末文学叢書 13 詞華集』(国書刊行会 1985)

掲載順ではヴェルレーヌからヴァレリーまで、生年順では1842年のマラルメから1877年生まれのオスカル・ミロッシュまで、19世紀末フランスに活躍した34名の詩人の作品を集めたアンソロジー。象徴派の詩人の詩作品の印象が強いが、デカダン派や牧…

フランソワ・ラブレー原作、谷口江里也作、ギュスターヴ・ドレ画『異説ガルガンチュア物語』(原著 1534, 未知谷 2018)

フランス・ルネサンス期のユマニスムを代表する著作、16世紀前半のラブレーの作品『ガルガンチュワ物語』に、19世紀後半の複製芸術が勃興しはじめた時期、ギュスターヴ・ドレは二回にわたって木口木版画の技法で挿絵を描いていた。一度目は1854年、…