2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧
折口信夫による日本初の万葉集現代語訳の第八巻から第十二巻までを収める文庫本。 万葉仮名を現代表記に改め、句読点を付した本文に、口語現代語訳を添えた体裁は、万葉集を読み進める速度を格段に上げ、鑑賞の態度を著しく変えた画期的な業績であるのではな…
まだ無名の30歳を迎える前の貧乏研究家だったころの折口信夫の破天荒な業績。 中学教諭を辞職し、あてもなく上京、教え子とともに共同生活を送るうちに、生活の破綻が本格的に迫ってきたところ、大学時代から折口の抜群の才能を目にしてきた人たちが、救い…
暴力、戦争、政争、闘争。 二〇世紀は異なる立場に立った人たちが、大きな争いの流れに飲み込まれて、争うことのなかで精神的にも肉体的にも目にも見えるような姿でひどく傷ついた時代。社会主義(共産主義)の側も自由主義の側もファシズムの側も近代社会の…
because my life is shaky. それは私の人生が震えているから。 ジョナス・メカス(1922-2019)はリトアニア出身の映像作家で詩人。反ナチス運動を行ない、強制収容所に入れられた後に、アメリカへ亡命、ニューヨーク、ブルックリンを拠点に活動した芸術家。…
ブランショのマラルメ論考を集めた日本独自の書籍。翻訳も各論考もなされた時代にかなりの幅があり、出典も異なっているため、一冊の本として筋の通った展開があるわけではないが、各論考でくりかえしとりあげられるマラルメの言語に対する姿勢が、すこし差…
日本ではなんでも翻訳されているということはよく言われていることではあるのだが、そんなことはない、ということを知らせてくれる貴重な書物。ヌーヴェル・クリティックの代表的な作品であるジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(全4巻、1949‐1968)も、…
深く激しい表現の発露のもとにあるものを、ノイローゼという言葉で表現しているところに、本書が書かれた時代の空気感と馬場あき子40代の激しさのようなものがすこし感じられ、ほんのすこしだけたじろいだりもするのだが、多くは式子内親王の歌を読み込み…
ハイデガーのトラークル論をデリダが脱構築的に読み直し論じた講義録。単純に詩人トラークルが好きだからということで手に取って読んだとすると、ハイデガーもデリダもなに言ってんのということになりかねないし、トラークルの詩の印象からはかなり隔たって…
21世紀の世にあって地政学の古典となった一冊。シュミットの政治学的思想の核となる「友-敵理論」にも言及されていて、なかなか興味深い。 ナチスへの理論的協力を経て、思想的齟齬失脚の後に出版されたシュミット40代半ばの著作。娘のアニマに語りかけ…
式子内親王の形而上性、具体性をともなわない観念に傾いた歌にまず魅かれるという竹西寛子の評論。 病がちであったこともあり、人との交流には向かわず、家に引きこもり歌を歌った後白河院第三皇女式子内親王。私歌集と勅撰集に残された400首足らずの歌を…
八十九歳での新詩集刊行。枯れない、ブレない、色褪せない。未生の心と感性を呼び寄せる憑代としての言葉を紡ぎつづけられる稀有な詩人。地上にいながらどこか別の場所で時空をこき混ぜ合わせながら呼吸をしているような人。仙人か天使か、あるいは胎児とし…
スターリン圧政下で多くの詩人仲間を失い、夫と息子も逮捕拘禁され、執筆活動も禁止されているなか、ひそかに作られ、監視者に見つからないようにと紙には残さず暗記することで、後にまとめあげられた詩集二作。『葦 1924-1940』と『レクイエム 1935-1940』…
タゴールの詩は「すべてのものであるひとつのもの」としての神とともにあることうを詠う詩である。インド、ベンガル州生まれのタゴールの神はブラフマンを感じさせる。彼の詩で謳われる神は、裁く神ではなく、共にあり、創造し生成する神で、その汎神論的で…
フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人という自らの出自に正面から向き合い語られた講演二本。 主に学校という公共空間をとおして、ユダヤ人という符牒のもとに疎外されることに恐怖のようなものを感じ、且つ、疎外されたものたち同士が保身のため…
不遜な作家の不遜な小説。 ロラン・バルトやフランスのヌーヴォー・ロマンに影響を受けつつ、書くことをめぐって書きつづける、日本にあっては稀有なスタイルを持つ小説を生みだしている金井美恵子。『柔らかい土をふんで、』が1997年出版なので、おおよ…
ミシェル・フーコー(1926-1984)が亡くなってから二年後に交流のあったモーリス・ブランショが沈黙を破って書いた追悼の書。ブランショがようやく亡くなったフーコーについて語ったということで、日本でも緊急出版されたあたりが当時の人文系学問界隈の熱を感…
室町から江戸にかけて徐々に精練されていった禅語のアンソロジー『禅林句集』から抽出された全3410句からなる禅語導入書。 修行して悟りを得たいなどという思いはさらさらないのだが、気が軽くなるような気の利いた言葉に、あまり苦労することなく出会い…
近代ドイツ哲学入門解説書なのに、かなり面白い。なにかトリックが埋め込まれているのではないかと疑いを持つくらいに、かろやか。風通しがよい感じ。哲学者ごとに主要著作一冊と押さえておくべきポイントを思い切りよく絞り込んだために出てきた効果なのか…