読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

折口信夫『口訳万葉集』中 (文会堂書店 1917, 岩波現代文庫 2017)

折口信夫による日本初の万葉集現代語訳の第八巻から第十二巻までを収める文庫本。 万葉仮名を現代表記に改め、句読点を付した本文に、口語現代語訳を添えた体裁は、万葉集を読み進める速度を格段に上げ、鑑賞の態度を著しく変えた画期的な業績であるのではな…

折口信夫『口訳万葉集』上 (文会堂書店 1916, 岩波現代文庫 2017)

まだ無名の30歳を迎える前の貧乏研究家だったころの折口信夫の破天荒な業績。 中学教諭を辞職し、あてもなく上京、教え子とともに共同生活を送るうちに、生活の破綻が本格的に迫ってきたところ、大学時代から折口の抜群の才能を目にしてきた人たちが、救い…

フアン・ヘルマン詩集『価値ある痛み』(原書 2001, 寺尾隆吉訳 現代企画室 2010)

暴力、戦争、政争、闘争。 二〇世紀は異なる立場に立った人たちが、大きな争いの流れに飲み込まれて、争うことのなかで精神的にも肉体的にも目にも見えるような姿でひどく傷ついた時代。社会主義(共産主義)の側も自由主義の側もファシズムの側も近代社会の…

村田郁夫訳『ジョナス・メカス詩集』(書肆山田 2019)

because my life is shaky. それは私の人生が震えているから。 ジョナス・メカス(1922-2019)はリトアニア出身の映像作家で詩人。反ナチス運動を行ない、強制収容所に入れられた後に、アメリカへ亡命、ニューヨーク、ブルックリンを拠点に活動した芸術家。…

モーリス・ブランショ『マラルメ論』(粟津則雄・清水徹訳 筑摩叢書 1977)

ブランショのマラルメ論考を集めた日本独自の書籍。翻訳も各論考もなされた時代にかなりの幅があり、出典も異なっているため、一冊の本として筋の通った展開があるわけではないが、各論考でくりかえしとりあげられるマラルメの言語に対する姿勢が、すこし差…

ジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(原書 第1巻 1949, 第2巻「内的距離」1952, 筑摩叢書 第1巻 1969, 第2巻 1977 )

日本ではなんでも翻訳されているということはよく言われていることではあるのだが、そんなことはない、ということを知らせてくれる貴重な書物。ヌーヴェル・クリティックの代表的な作品であるジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(全4巻、1949‐1968)も、…

馬場あき子『式子内親王』(紀伊国屋書店 1969, ちくま学芸文庫 1992 )「式子内親王集」を読む ③

深く激しい表現の発露のもとにあるものを、ノイローゼという言葉で表現しているところに、本書が書かれた時代の空気感と馬場あき子40代の激しさのようなものがすこし感じられ、ほんのすこしだけたじろいだりもするのだが、多くは式子内親王の歌を読み込み…

ジャック・デリダ『哲学のナショナリズム 性、人種、ヒューマニティ』(パリ社会科学高等研究院での原セミネール 1984/85, 原書 2018, 藤本一勇訳 岩波書店 2021)

ハイデガーのトラークル論をデリダが脱構築的に読み直し論じた講義録。単純に詩人トラークルが好きだからということで手に取って読んだとすると、ハイデガーもデリダもなに言ってんのということになりかねないし、トラークルの詩の印象からはかなり隔たって…

カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(原書 1942, 中山元訳 日経BPクラシックス 2018)

21世紀の世にあって地政学の古典となった一冊。シュミットの政治学的思想の核となる「友-敵理論」にも言及されていて、なかなか興味深い。 ナチスへの理論的協力を経て、思想的齟齬失脚の後に出版されたシュミット40代半ばの著作。娘のアニマに語りかけ…

竹西寛子「式子内親王」(筑摩書房 日本詩人選14『式子内親王・永福門院』1972, 講談社文芸文庫 2018)「式子内親王集」を読む ②

式子内親王の形而上性、具体性をともなわない観念に傾いた歌にまず魅かれるという竹西寛子の評論。 病がちであったこともあり、人との交流には向かわず、家に引きこもり歌を歌った後白河院第三皇女式子内親王。私歌集と勅撰集に残された400首足らずの歌を…

谷川俊太郎『どこからか言葉が』(朝日新聞出版 2021, 初出:朝日新聞 2016.09.28~2020.12.02)

八十九歳での新詩集刊行。枯れない、ブレない、色褪せない。未生の心と感性を呼び寄せる憑代としての言葉を紡ぎつづけられる稀有な詩人。地上にいながらどこか別の場所で時空をこき混ぜ合わせながら呼吸をしているような人。仙人か天使か、あるいは胎児とし…

アンナ・アフマートヴァ詩集『レクイエム』(木下晴世編訳 群像者ライブラリー 2017)

スターリン圧政下で多くの詩人仲間を失い、夫と息子も逮捕拘禁され、執筆活動も禁止されているなか、ひそかに作られ、監視者に見つからないようにと紙には残さず暗記することで、後にまとめあげられた詩集二作。『葦 1924-1940』と『レクイエム 1935-1940』…

ロビンドロナト・タゴール詩集『螢』(原書 Fireflies 1928 ロンドン, 川名澄訳 風媒社 2010)

タゴールの詩は「すべてのものであるひとつのもの」としての神とともにあることうを詠う詩である。インド、ベンガル州生まれのタゴールの神はブラフマンを感じさせる。彼の詩で謳われる神は、裁く神ではなく、共にあり、創造し生成する神で、その汎神論的で…

ジャック・デリダ『最後のユダヤ人』(原講演 1998, 2000, 原書 2014, 渡名喜庸哲訳 未来社 2016)

フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人という自らの出自に正面から向き合い語られた講演二本。 主に学校という公共空間をとおして、ユダヤ人という符牒のもとに疎外されることに恐怖のようなものを感じ、且つ、疎外されたものたち同士が保身のため…

【金井美恵子を三冊】『岸辺のない海』(中央公論社 1974, 日本文芸社 1995, 河出文庫 2009)、『柔らかい土をふんで、』(河出書房新社 1997, 河出文庫 2009)、現代詩文庫55『金井美恵子詩集』(思潮社 1973)

不遜な作家の不遜な小説。 ロラン・バルトやフランスのヌーヴォー・ロマンに影響を受けつつ、書くことをめぐって書きつづける、日本にあっては稀有なスタイルを持つ小説を生みだしている金井美恵子。『柔らかい土をふんで、』が1997年出版なので、おおよ…

モーリス・ブランショ『ミシェル・フーコー 想いに映るまま』(原書1986, 豊崎光一訳 哲学書房 1986)

ミシェル・フーコー(1926-1984)が亡くなってから二年後に交流のあったモーリス・ブランショが沈黙を破って書いた追悼の書。ブランショがようやく亡くなったフーコーについて語ったということで、日本でも緊急出版されたあたりが当時の人文系学問界隈の熱を感…

足立大進編『禅林句集』(岩波文庫 2009)

室町から江戸にかけて徐々に精練されていった禅語のアンソロジー『禅林句集』から抽出された全3410句からなる禅語導入書。 修行して悟りを得たいなどという思いはさらさらないのだが、気が軽くなるような気の利いた言葉に、あまり苦労することなく出会い…

村岡晋一『ドイツ観念論 カント・フィヒテ・シェリング・ヘーゲル』(講談社選書メチエ 2012)

近代ドイツ哲学入門解説書なのに、かなり面白い。なにかトリックが埋め込まれているのではないかと疑いを持つくらいに、かろやか。風通しがよい感じ。哲学者ごとに主要著作一冊と押さえておくべきポイントを思い切りよく絞り込んだために出てきた効果なのか…