読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

イヴ・ボヌフォワ『ジャコメッティ作品集 ―彫刻・絵画・オブジェ・デッサン・石版画―』(原著 1991, 訳:清水茂 リブロポート 1993 本体37500円)

20世紀のフランスを代表する詩人のひとりイヴ・ボヌフォアの重厚なテクストとともにアルベルト・ジャコメッティの生涯と創作の軌跡をたどることができる充実した作品集。 本書は20年ほど前に池袋西武の三省堂美術洋書コーナーにて9000円くらいで購入…

矢内原伊作『完本 ジャコメッティ手帖 Ⅰ』『完本 ジャコメッティ手帖 Ⅱ』(みすず書房 2010)

矢内原伊作がジャコメッティに出会いはじめてモデルとなった1955年から最後にモデルをつとめた1961年までの手帖を編集したジャコメッティ晩年の創作現場を身近にうかがえる貴重な資料集。日々繰り返されるジャコメッティの感覚と思考の基本的な動きが濃密に…

矢内原伊作+宇佐見英治『対談 ジャコメッティについて』(用美社 1983)

日本で最初期にジャコメッティに注目し、それぞれ渡仏しジャコメッティ自身と深い交流を持ったふたりの文学者による対談。1980年に日本で開催された「ジャコメッティ版画展」の最終日におこなわれた公開対談をベースに、出版を念頭において改めておこな…

立木康介『ラカン 主体の精神分析論』(講談社選書メチエ シリーズ極限の思想 2023)

ラカンが最も多く参照する哲学者であるアリストテレスにおける「原因」と「偶然」の概念から、ラカンの精神分析がいかなる部分を継承し、さらに超えていったかを、主体の構造という観点から説いた一冊。著者のフランス語の学位論文をベースに翻訳再編集した…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『不安』(セミネール第十 1962-1963 原著 2004, 岩波書店 2017 上下全二巻)

およそ二年ぶりくらいの再読。ほとんど忘れているが前回と比べて違うところに気がひかれているという感触もあり頭から通読した。借り物だと意図せず再読することもあるので、そこは流れに任せている。 不安は裏切らない、騙さない。他なるものの脅威としてあ…

ジョルジョ・アガンベン『言葉と死 否定性の場所に関するゼミナール』(原著 1982, 訳:上村忠男 筑摩書房 2009)

言語の核心にある否定性、空隙、空無、未決定、無底について、ハイデガー『存在と時間』の「ダーザイン」の「ダー(そこ)」と、ヘーゲル『精神現象学』の「このもの」から、代名詞の指示作用、「意味内容をもたない空虚な記号」としての性格から考察してい…

ジョルジョ・アガンベン『例外状態』(原著 2003, 訳:上村忠男+中村勝己 未来社 2007)

第二次世界大戦期の独裁国家誕生以降、政治的には世界的に例外状態あるいは緊急事態がつづいていることを指摘して、行政の執行権力の拡大による法の力に関わる危うさの増大を考察した濃密な一冊。法学に疎いものにはなかなか敷居が高いが、現在においても継…

松岡正剛『うたかたの国 日本は歌でできている』(工作舎 2021)

松岡正剛の日本の詩歌に関する文章を、イシス編集学校で学んだ歌人でもある編集者米山拓矢(米山徇矢)がまとめ上げた、濃密な一冊。多くの本から切り取られた断片の集積であるにもかかわらず、古代から現代までの日本の詩歌芸能の推移を追うようににして積…

『矢内原伊作詩集 1941~1989』(思潮社 1994)

みすず書房の『完本 ジャコメッティ手帖』をちょっとずつ読みすすめているうちに詩人としての矢内原伊作の作品にも目を通しておこうと思い手に取った一冊。サルトルの実存主義などを学びにフランスに留学しているときにジャコメッティと出会い、長い時間モデ…

ジョルジョ・アガンベン『瀆神』(原著 2005, 訳:上村忠男+堤康徳 月曜社 2005)

有用性の軛からの解放の諸相について書かれた短めのエッセイ集成。名前のないものとなって必要に追いたてられることなく遊び戯れるという至福。資本主義というよこしまな魔法使いから逃れて自らが魔術師となって行為することの可能性に気づかせようとアガン…

ジョルジョ・アガンベン『ニンファ その他のイメージ論』(編訳:高桑和巳 慶応義塾大学出版会 2015)

日本独自編集のアガンベンの芸術論集。絵画が中心で、映画と演劇とダンスが少々配合されている。全20篇。こういった著作では著者の論考そのものも楽しみであるのはもちろんだが、自分の知らない作家に出会えることの喜びもある。本書では日本ではあまりな…

ジョルジョ・アガンベン『カルマン 行為と罪過と身振りについて』(原著 2017, 訳:上村忠男 みすず書房 2022)

哲学とキリスト教神学に加えインドのタントラ仏教の教えから人間における自由について考察した論考。働かないこと、遊ぶこと、踊ることによって現世にニルヴァーナ(涅槃)が出来することを説いている。西洋においても東洋においても秘儀に属するようなこと…

ジョルジョ・アガンベン『バートルビー 偶然性について [附:ハーマン・メルヴィル『バートルビー』]』(原著 1993, 訳:高桑和巳 月曜社 2005)

ブランショ、デリダ、ドゥルーズなどによって論じられるメルヴィルの特異な短編小説「バートルビー」(1853)の新訳とアガンベンのバートルビー論を組み合わせて刊行された一冊。本篇と序文という形で刊行される形式は海外では多くあるようだが、メルヴィルの…

ジョルジョ・アガンベン『中身のない人間』(原著 1970, 訳:岡田温司+岡部宗吉+多賀健太郎 人文書院 2002)

アガンベン28歳の時の処女作、芸術論。ベンヤミンに多大な影響を受け、驚くべき博識を支えに、潜勢力を重視する独自の思考を組み上げていくアガンベンのはじまりの著作。 芸術家と鑑賞者にともに存在する批評的意識、芸術と芸術に関わる自分自身を解体しつ…

柳田国男『不幸なる芸術・笑の本願』(原著 1946, 1953 岩波文庫 1979)

苦しみ多い現実を凌いでいけるように、時に情動を解放してこわばりをほぐし、区切りをつけて新たに向き直るようにしてくれる、笑い、泣き、たくらみの様々な様相と効能を説き、近代以降に衰退してしまったそれらの技芸や習俗となっていた振舞いの再興を願い…

ジョルダーノ・ブルーノ『原因、原理、一者について』(原著 1584, 土門多実子訳 近代文藝社 1995)

遍在する一者。外部のない一者。究極の境界を持たない一者ではあるが、その内に差異を持ちながら対立する複数の個体が存在するという世界観を説くブルーノの著作。岩波文庫にも訳出され、主著と言われている『無限、宇宙および諸世界について』(1584)からも…

ジャン・ジュネ『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』(現代企画室 鵜飼哲編訳 1999)

ジュネの芸術論6篇。レンブラント2篇、ジャコメッティ、綱渡り芸人でジュネの恋人だったアブダラへのメッセージ、犯罪少年たちへ向けたラジオ原稿、演劇論。貧しさと闇を抱えているがゆえに異彩を放ちつづける者たちへの讃歌。既成の枠組みを支える世俗的…