読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

熊谷守一の画集二冊

1.没後40年展覧会カタログ『熊谷守一 生きるよろこび』2017年 日本経済新聞社 油彩200点、日本画8点、書7点、彫刻3点、スケッチ47点、資料類13点 art.nikkei-ps.co.jp 2.柳ケ瀬画廊創業100周年記念出版『柳ケ瀬画廊の百年 熊谷芸術と…

パナソニック汐留ミュージアム監修 ジャクリーヌ・マンク編『マティスとルオー 友情の手紙』(原著 2013, 日本再編集版 みすず書房 2017)

マティスとルオーの出会いは早く1893年パリ国立美術学校のギュスターヴ・モローの教室でのことであった。出会った当初はあまり交流がなかったようだが、その後、サロン・ドートンヌでの守旧派に対しての共闘を経た後、マティスの息子のピエールが画商と…

二つのジョルジュ・ルオー版画展のカタログ

1.ジョルジュ・ルオー版画展 ―暴かれた罪と苦悩― 1989年 町田市立国際版画美術館 高木幸枝+箕輪裕 184点※『ユビュおやじの再生』『ミセレーレ』『サーカス』『悪の華のために版刻された14図』『流れる星のサーカス』『受難』『回想録』『グロテ…

ベルナール・ドリヴァル+イザベル・ルオー『ルオー全絵画』(原著 1988, 柳宗玄+高野禎子訳 岩波書店 1990)

ジョルジュ・ルオーの全絵画の目録。掲載作品数全2568点。装飾美術学校に通っていた1885年の10代の素描から、1956年85歳での油彩作品までを、時代ごとテーマごとに分けて網羅した大型本。全二冊、総ページ数670ページ。売価88000円…

柳宗玄『ルオー キリスト聖画集』( 学研:株式会社学習研究社 1987, サイズ 43 X 31cm )

出会いというものは運命だから、後々の自分への影響を考えて自由に選択できるものとは考えていないほうがいいが、仮に画家ジョルジュ・ルオーの作品を意識的に系統的に見てみようとするならば、かなり期待を裏切られずに鑑賞できる優秀な作品集。 日本独自の…

『安藤元雄詩集集成』(野村喜和夫解説 水声社 2019)

安藤元雄がボードレールの『悪の華』を全訳したのは意外に遅く、1981年47歳の時で、自身の詩人の活動はそれよりだいぶ早く、1953年東大教養学部に入学し、学内の詩人サークルで入沢康夫や岩成達也などと知り合ったのち、シュペルヴィエルを卒論で…

ペトラルカ『カンツォニエーレ』(池田廉訳 名古屋大学出版会 1992)

ペトラルカの『カンツォニエーレ 俗事詩片』の全訳、全366歌。選集とは違った味わいがあるので全訳があることは大変貴重。 軽快、快活、ユーモラスな第一部と、愛の対象たるラウラを亡くして後の悲哀と栄光に彩られることの多い第二部との対象も見どころ…

塚本邦雄『王朝百首』(講談社文芸文庫 2009 文化出版局 1974)

塚本邦雄の定家撰百人一首嫌いはすさまじく、本書以外にも『新撰 小倉百人一首』があるし、他書でも事あるごとに定家の批評眼について疑問を投げかけずにはいられないようだ。伝統文化として定着してしまった観のある小倉百人一首にそれほど目くじら立てても…

田中喜美春+田中恭子『貫之集全釈』(風間書房 私家集全釈叢書20 1997)

紀貫之の私家集の全注釈本。基本的には本文(現代的表記の漢字かな交じり文に変換したもの)・本文異同の検討・現代語訳・語釈による四段構成で、追加で補説参考の考察を付加している。全般的に縁語や掛詞や願掛けを主体とした歌の呪術的機能への配慮が目立…

ピエル・パオロ・パゾリーニ『パゾリーニ詩集』(四方田犬彦訳 みすず書房 2011)

訳者である四方田犬彦が畏友中上健次の死で落ち込んでいたときにはじめた仕事。鬱屈と喪失感から逃れるためには、パゾリーニの詩は、よき道連れとなったであろうと思われる。さまざまな闘争のなかで、多くは敗れ、傷つき、孤立し、なんとか回復を期そうと綴…

宮下規久朗+佐藤優『美術は宗教を超えるのか』(PHP研究所 2021)と『ヴォルス 路上から宇宙へ』(左右社 2017)

「美術は宗教を超えるのか」と問うていて、対談を行なう両者の立場からは、超えられないという道筋はあらかじめ消えている。であるから、どんな場合に美術は宗教を超えるのかという点について注目して読みすすめることになる。 西欧美術・キリスト教の下での…

堀江敏幸訳の『土左日記』(河出書房新社 池澤夏樹個人編集 日本文学全集03 2016)

ひらがな主体の『土左日記』が当時書かれた状態の姿に限りなく忠実に現代語に移した画期的な翻訳。少なく見積もっても傑作といえるだろう。 おとこがかんじをもちいてしるすのをつねとする日記というものを、わたしはいま、あえておんなのもじで、つまりかな…

ロラン・バルト『美術論集 アルチンボルドからポップ・アートまで』(原著 1982, 沢崎浩平訳 みすず書房 1986)

再読。 二十数年ぶり。 当時と今とで最も変わったことは、ネット環境の充実によってバルトが論じている作家の作品を手軽に高解像度で閲覧できるようになったこと。 図版が十分でなくとも、スマホ片手に検索しながら、バルトが見ていたであろうものを確認しつ…

藤岡忠美『紀貫之』(講談社学術文庫 2005, 集英社 王朝の歌人シリーズ 1985)

紀貫之はいわずと知れた『古今和歌集』の編者で『土佐日記』の作者。かな文学創生期の大人物であるが、公的な役職地位は低く(といっても貴族階級に属し、支配階級との交流もあるのだが)、伝記的な資料はかなり限られている。人生の再現するのに確実な記録…

近藤恒一『ペトラルカ 生涯と文学』(岩波書店 2002)

ペトラルカの父、セル・ペトラッコはダンテと同じく教皇派の白派に属しており、ダンテ同様フィレンツェから追放、財産も没収された受難の人であった。 息子のペトラルカも幼くして生まれ故郷のイタリアを離れ、21歳の時には父を失い、後ろ盾のない苦難の非…

塚本邦雄『珠玉百歌仙』(講談社文芸文庫 2015, 毎日新聞社 1979)

人生は短く芸術は長いとはよく耳にする言葉だが、芸術は非情だ。誰にでも開かれているようでいても、誰もが可能で誰もが到達できる、というわけではない。時代によって、個々の鑑賞者の資質によって、選ばれ称賛される作品に違いは出てくるであろうが、その…

ペトラルカ『凱旋』(池田廉訳 名古屋大学出版会 2004)

ルネサンス期にはラウラへの愛を歌いあげた『カンツォニエーレ 俗事詩片』よりもよく読まれたペトラルカの『凱旋』。ダンテの『神曲』からの影響も感じられる凱旋パレードを模した人物総覧の凱歌。人物名、固有名が列挙される「愛の凱旋」「貞潔の凱旋」「名…

小海永二訳『アンリ・ミショー全集』2(青土社 1986)

アンリ・ミショーの後半生(一九五四~一九八五)の主要な詩集および詩的エッセー集を集めた全集第二巻。以下七冊分を収録している。 閂に向きあって 1954 55歳夢の見方・眼覚め方 1969 70歳様々の瞬間 1973 74歳逃れゆくものに向きあって 1975 76歳角の杭 1…

山口晃『親鸞 全挿画集』(青幻社 2019)

五木寛之作『親鸞』三部作の新聞連載時に挿画として書かれた全1052点に、山口晃の書下ろし絵解きコメントをつけた全696頁におよぶ大作。カット、漫画、版画調あるいは判じ絵などの様々な表現技法によって、その時々の作画情況と該当するテキストの解…

続々日本絵巻大成 伝記・縁起篇1『善信聖人親鸞伝絵』(小松茂美編 中央公論社社 1994)

『善信聖人親鸞伝絵』は親鸞の曽孫にあたる覚如が、親鸞没後33年の1295年に自ら詞書を染筆し完成させた伝記絵巻。絵師は不明だが、絵からはしっかりした技量が伝わってくる。寺社の室内での場面が多く、比較的動きの少ない絵巻だが、描かれている人物…

飯吉光夫編訳 ローベルト・ヴァルザー『ヴァルザーの詩と小品』(みすず書房 2003)

ローベルト・ムージル、フランツ・カフカ、ヴァルター・ベンヤミン、ヘルマン・ヘッセ、またブランショやスーザン・ソンタグなど錚々たる面々から高く評価されているローベルト・ヴァルザー(1878-1956)は、スイス生まれのドイツ語の詩人であり散文作家。本書…

『自選 串田孫一詩集』(彌生書房 1997)

新潮美術文庫43『ブラック』の串田孫一の解説が歯切れがよく自分の鑑賞を自信をもって打ち出しているところが爽快だったので、詩人としての作品を読んでみることにした。散文と同じく小気味よく晴れ上がったような表現が基本で、さっぱりしている。表記は…

ベルナール・ジュルシェ『ジョルジュ・ブラック 絵画の探究から探究の絵画へ』(原著 1988, 北山研二訳 未知谷 2009)

フランスの近代芸術史家による本格的なジョルジュ・ブラック論。日本語版ではページの上部四分の一が図版掲載スペースになっていて、論じている対象や該当の時代を象徴する作品をたくさん取り上げている。図版数全227点。モノクロームでしかも限られたス…

鶴岡善久『アンリ・ミショー 詩と絵画』(沖積舎 1984)

小海永二と同じくアンリ・ミショーの特異な隠者性に魅かれて詩と絵画の世界を探求した詩人鶴岡善久によるアンリ・ミショー論。多くの詩が引かれ、そこにあらわれたイメージについて語られることが多いので、詩と絵画双方を論じていながら、ミショーの絵画の…

ジョルジュ・ブラックの画集6冊

1.美術出版社 世界の巨匠シリーズ『ブラック』 レイモン・コニャ解説 山梨俊夫訳 1980 33×26cm 原色図版48葉、モノクローム図版72点。日本で出ている画集のなかでは、もっとも数多くのブラックの作品に触れられる一冊。原色図版の作品ごとに付けられた…