2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧
日夏耿之介の手になる漢詩の訳詩アンソロジー。全63篇。 松岡正剛とドミニク・チェンの対談本『謎床 思考が発酵する編集術』(晶文社 2017)を読んで、いたく感心する一方、自分の卑小さにへこんでいたところ、なにか癒しの本をと思い、手にした一冊。 欲…
多作の詩人のアンソロジーで、読者側に立つものが困るのは、詩集完本が収められることが少なく、ひとつの刊行物としての或る詩集が持つ全体としての力が分かりにくくなってしまっているということである。 西脇順三郎は生前十四冊の詩集を刊行している。生存…
西脇順三郎85歳での最後の詩集。1970年以降の作品を集めたものというから70代後半からの作品が収められている。全66篇。創作のエネルギーが落ちることなく作品に凝縮されているところがすばらしい。 戦後初の詩集『旅人かへらず』で「淋しく感ずる…
1958年から1968年までノーベル賞候補にもなった西脇順三郎の1963年刊行の筑摩版全集編纂時の未刊行詩篇を集めた詩集。拾遺詩篇という範疇にあるにもかかわらず、一篇一篇の質の高さと、詩人の内なる詩魂の一貫性が読み手に伝わる一冊となってる…
多才な高橋睦郎の手になる新作能。能の試みとして1921年に書かれたイエーツの戯曲『鷹の井戸にて』をベースに、1990年の公演用に翻案・リメイクを委嘱され作成された作品。アイルランドの詩人の作品を伝統的な謡曲の構造、文体にどこまで近づけられ…
娘の眼に映った作家堀田善衞の仕事と日常。 田植えをするように夜中にお気に入りの万年筆でトントンと原稿用紙を埋めていく堀田善衞が印象的。 一日五枚、2000字を積みあげて、堅牢であるが陽当たりも風通しもよい質の高い大作を次々に生み出していった…
1936年(昭和11年)の二・二六事件前夜から1943年(昭和18年)11月15日召集の召集令状が届くまでの予科を含めて大学生活約8年間を描いた自伝的長編小説。 父の代で家が没落してしまった北陸の廻船問屋に生まれ育ち、北陸旧家に受け継がれて…
ジブリの鈴木敏夫プロデューサーが堀田作品の中でいちばん好きだという小説『路上の人』。そのことを作者本人に伝えたところ映画化権をあげると言って、もらっている状態のジブリ。いまのところ実現されていないが、アニメーションになったらどうなるだろう…
ストア派の哲人エピクテトスは、彼が敬愛するソクラテス同様、自分ではなにも書かなかった。 ソクラテスの言行を弟子のプラトンが残したように、エピクテトスの言行は弟子のアリアノスによって残された。 歴史家として著作を持つアリアノスの書き残したエピ…
エンツェンスベルガーの第六詩集。いったんは1969年ハバナにて完成していた作品であったが、飛行機での移動時に原稿とともに荷物が紛失したため、あらためて書き直された。単に書き直されただけではなく、紛失したものを回復し復元させるための考察と戦略が…
エンツェンスベルガーの第五詩集全訳。十四世紀から二十世紀までの進歩の過程に名を刻んだ者たち三十七人の肖像を、アイロニカルな視線で詠いながら、二十世紀も終わりに差し掛かろうとしている1975年時点の状況、歴史の積み上げによって生まれている状…
本日旧暦 10/15(神無月十五日)、月齢 14.2、満月(18時)。 今回の部分月食は98%強の部分が月食となるという。月の出以前の16時19分頃からはじまり、食の最大が18:02頃、19時47分に食が終わる。 16:30区の児童への帰宅アナウンス(夕焼けチャイム)を聴いて…
『方丈記私記』『定家明月記私抄』『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』『別離と邂逅の歌』『堀田善衞詩集 一九四二~一九六六』と堀田善衞の作品を読みすすんできて、次は何を読もうかということと、他の人はどんな風に読んでいるのかを知りたくて手に取った一冊…
ドゥルーズ、デリダ以後の最大の哲学者と言われるモロッコ・ラバト出身のフランスの哲学者アラン・バディウの小品。余裕を持ったレイアウトで本文は150ページ程度、新書一冊分の分量。主著『存在と出来事』(原書 1988)と『世界の論理』(原書 2006)の…
黒井千次の「老い」シリーズ新書作品のおそらくいちばん最初の作品。他三作は中公新書、(現時点で未読の)『老いのかたち』(2010)『老いの味わい』(2014)『老いのゆくえ』(2019)。 本書はNHKラジオの「こころをよむ」の2006年第1四半期放送分…
ハイナー・ミュラー(1929-1995)は、ブレヒトを批判的に継承し発展させた旧東ドイツの劇作家。西側世界のベケット、東側世界のハイナー・ミュラーというように紹介されることもしばしばある存在。 本書は日本初刊行のハイナー・ミュラー戯曲集で、1950…
戦時中の雑誌掲載作品から、「広場の孤独」で1951年下期の芥川賞をとり、本格的に小説を書きはじめるまでの、1950年代初頭までの雑誌掲載作品を中心に集められた、没後刊行の拾遺詩集。 死に囲まれた絶望と哀しみから、冷たく静かで深い怒りを経て、…
遺稿整理から発見された、第一次戦後派作家というようにも分類される作家、堀田善衛の、主に戦中の20代に書かれた詩作品。死と隣り合わせに生きていた世界戦争の時代における、生々しい精神の記録としても、読み手の心に響いてくる詩作品。 大学時代から、…
金井美恵子がフランシス・ポンジュの詩「動物相と植物相(ファウナとフローラ)」を引用しながら岡鹿之助を語ったエッセイ「思索としての三色スミレ(パンセとしてのパンセ)」を『切り抜き美術館 スクラップ・ギャラリー』に出会ってしまったがために、そこ…
映画、とりわけオーギュス・トルノワールを父に持つジャン・ルノワールに寄り添ってもらいながら、図像にも高揚する個人的な日々を、文章で迎え撃ちつつ、外の世界にも波及させようとしているかのような、勇ましさも感じさせる美術エッセイ集。 戦闘的で毒の…
『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』に先行すること5年、上田三四二、56歳の時の刊行作品。醇化しまろやかになる前の荒々しく切り込んでいく姿勢が感じられるのは、壮年の心のあり様がでたのであろうか。語りの対象と同じく歌に生きる者の厳しい…
世俗を離れて透体にいたるまで純化した人たちの思想と詩想を追う一冊。第36回の読売文学賞(評論・伝記部門)の受賞作であるが、いまは新刊書では手に入らない。 明恵は一個の透体である。彼はあたうかぎり肉体にとおい。もちろん、肉体なくして人間は存在…
訳文の中に出てくる「免算」という見慣れない語彙に引っ掛かった。 「免算」だけでは検索でヒットしなかったので、「免算 数学」と「免算 バディウ」で検索したところ、科学研究費助成事業データベースに導かれていった。 アラン・バディウの数学的存在論と…
光文社古典新訳文庫の斉藤悦則の新訳(2016)もあるらしいが昔からある中川信の訳で『寛容論』を読んだ。 不寛容が拡がっている世の中で、あらためて読み直されている古典、らしい。 カソリックとプロテスタントの対立が長くつづいていた18世紀フランスに起…
谷川俊太郎の写真60葉と詩作品90篇。 80歳の時の一冊。 写真は50年代、60年代のもの。東京タワーの建設中の風景を含むモノクロームの写真。 詩は、10代後半のものから書下ろしを含む刊行当時のものまでの60数年からのピックアップ。 バラード…
折口信夫の口述筆記による現代語訳万葉集。最終巻は第十三巻から第二十巻までを収める。 口述筆記という体裁も手伝ってか、若い折口の爽快感ある万葉解釈が印象に残る。さっぱりとした、すがすがしい読後感だ。 折口が教えた中学生にもわかるような現代口語…
2021年、11月を迎えた。 なんだかびっくりだ。 年の終わりを迎える準備なんかまったくできていないし、新たな一年なんてものも、ぜんぜん視野に入ってこない。 仕事的には怒涛の10月後半があって、まだその余韻から抜け切れていないでいる。 久方ぶ…