読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-01-01から1年間の記事一覧

ジャン=フランソワ・リオタール『崇高の分析論 カント『判断力批判』についての講義録』(原著 2015 , 訳:星野太 法政大学出版局 2020)

カント『判断力批判』の第23節から29節までの崇高の分析論を中心に、美と崇高、理性と悟性と構想力と判断力について論じたリオタール晩年の講義録。『純粋理性批判』『実践理性批判』との関係性に目を配りながら、それぞれの批判書のアンチノミー(二律…

佐藤優『哲学入門 淡野安太郎『哲学思想史』をテキストとして』(角川書店 2022)

神学者である佐藤優の哲学に向ける視線はいたってドライだ。一般教養を求めて本書を手に取ると、世俗の厳しさを神学的立場から知らないうちに考えさせられることになる。 本書籍が一般購買層に対して優しくない書物となっているのは、本書が神学を専門としよ…

淡野安太郎『哲学思想史 -問題の展開を中心として-』(角川ソフィア文庫 2022, 原著 1949, 1962)

後進の教育にもっとも力を入れている人物のひとりである作家佐藤優が再刊までこぎつけた哲学史概説書。 古代哲学から近代哲学に移行するあいだの中世(キリスト教)哲学を教科書的哲学通史のなかでまがりなりにも取り上げ位置づけたこと、現代日本の高等教育…

ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ『ラ・フォンテーヌの寓話』(訳:窪田般彌, 沖積舎 2006)

ラ・フォンテーヌの寓話239篇からドレの挿絵のある86篇を選んで訳出した一冊。同じくドレ挿絵のラ・フォンテーヌの寓話の現代版訳書、谷口江里也翻案・解説の現代版『ラ・フォンテーヌの寓話 ドレの寓話集』もあるが、窪田般彌の訳書は17世紀の原文を…

谷口江里也『ギュスターヴ・ドレとの対話』(未知谷 2022)

スペイン文化に造詣が深く現代日本語圏におけるギュスターヴ・ドレの伝道者ともいえる谷口江里也によるギュスターヴ・ドレへの手紙形式の散文頌歌。ドレが五歳の時に描いた『ラ・フォンテーヌの寓話』のなかの「アリとキリギリス(セミ)」の最初期の絵から…

松長有慶『訳注 般若心経秘鍵』(春秋社 2018)

空海晩年の円熟した著作として解釈を施している著作。 般若心経を五分割し仏教各派の教えに対応づけていることを図示している137頁と、各所で指摘されている呪文としての経文の優位傾向性を取り上げているところが特徴の書物。 論理よりも呪力による世界…

メーテルランク詩集『温室』(原著 1889, 訳:杉本秀太郎 雪華社 1985)

『青い鳥』(1907)の作者モーリス・メーテルリンク(1862-1949)の20代の処女詩集。 己の魂が温室のなまあたたかい環境のなかで倦怠感をもって過ごしていることを歌い、清冽な外部の侵入をロマンティックに請い願うという構えがベースとなっている抒情詩集。 …

ミシェル・レリス『ピカソ・ジャコメッティ・ベイコン』(編訳:岡谷公二 人文書院 1999)

写真の発明と普及により絵画が外観の忠実な再現を期待されなくなり絵画独自の表現を追求していく時代に、それぞれ独自のリアリティーを追求し、表現への真摯さと相反することのないユーモアと残酷の感覚をともに持ち続けた三人の偉大な画家、ピカソ・ジャコ…

イェルク・ツィンマーマン『フランシス・ベイコン《磔刑》 暴力的な現実にたいする新しい見方』(原著 1986, 訳:五十嵐蕗子+五十嵐賢一 三元社 シリーズ(作品とコンテクスト) 2006)

フランシス・ベイコンの代表作《磔刑》(1965年, ミュンヘン)から作家の全体像に迫る一冊。ひとつの作品に焦点を決めて作家の本質に迫っていく著作は刺激的で学習効率もよく、概説書や入門書の次に読むものとして貴重な位置を占めている。実際に接したとこ…

デイヴィッド・シルヴェスター『フランシス・ベイコン・インタヴュー』(原著, 訳:小林等 ちくま学芸文庫 2018)

ジャコメッティのモデルをつとめ作家論を書いたことでも知られるイギリスの美術評論家・キュレーターであるデイヴィッド・シルヴェスターによるフランシス・ベイコンへの20年を超えるインタヴュー集成の書。訳者あとがきからも著者まえがきからも分かるこ…

サルトル×レヴィ『いまこそ、希望を』(原著 1980, 1991 訳:海老坂武 光文社古典新訳文庫 2019)

希望が見いだせたらいいなぁと思って手に取った著作。 サルトル最晩年の言葉。 対談相手のベニ・レヴィは毛派のプロレタリア左派指導者で、1973年に68歳で盲目となったサルトルの秘書として1974年から思考の相手をつとめた人物。 本対談はレヴィ主…

アルベルト・ジャコメッティ『エクリ』(原著 1990, 訳:矢内原伊作+宇佐見英治+吉田加南子 みすず書房 1994, 2017)

ジャコメッティ存命中に発表されたすべての文章を収めた書物。 ジャコメッティ愛好家必読の書物ではあるが、芸術家本人が書いたテクストだからといって絵画や彫刻と同じレベルの表現とはとらえないほうが無難。あくまで芸術家本人が綴ったところの参考資料と…

石田英敬+東浩紀『新記号論 脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン 2019)

世界規模のネットワークに常時接続されている世界を生きる現在の人間の在りようを現代記号論の立場から分析しより良き未来に繋げることを意図してなされた総計13時間を超える講義対談録。 基本的に東大教養学部時代の師弟コンビの再編となる高級コミュニケ…

ヒド・フックストラ編著 嘉門安雄監訳『画集レンブラント聖書  旧約篇』(原著 1982, 学習研究社 1984)『画集レンブラント聖書  新約篇』(原著 1980, 学習研究社 1982)

聖書に題材をとったレンブラントの作品を見ていると、対象となっている聖書の記述を確認したくなる気持ちにさせられる場合が多くあるのではないだろうか? レンブラントの聖書の場面は、いわゆる聖画一般のイメージとは異なり、描かれている人物たちは貧しく…

海津忠雄『レンブラントの聖書』(慶応義塾大学出版会 2005)

レンブラントはその画業全般にわたって新約旧約の聖書のエピソードを取り上げて自身の作品をつくりあげてきた。ただ、その作品の構成は聖書の記述に厳密に従ったものではなく、レンブラントが聖書と聖書をもとにした先行作品に取材して、独自に形づくりあげ…

エルンスト・ファン・デ・ウェテリンク『レンブラント』(訳:メアリー・モートン 木楽舎 2016)

本書はデジタル技術によってリマスタリングされた、オランダレンブラント・リサーチ・プロジェクト(RRP)公認の高精細画像の作品約180点を収録した最新図録集。A4判変型で224ページ、本体定価2500円。かなりお買い得の作品集。収録図版はか…

『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社 2022)

歌人としてのデビューが1997年。それから25年、一貫して商業出版で短歌に携わってきた1968年生まれの現代口語歌人の集大成。収録歌数355首ときわめて寡作。そのわりに作風が重たいわけでもなく、作品ごとに大きな変化があるわけでもない。世界…

神戸芸術工科大学デザイン教育研究センター編『塩田千春/心が形になるとき ─美術と展示の現場2─』(新宿書房 2009)

塩田千春は、糸を張り巡らせることで創られた作品や大量の同一収集物による構成などの大きな規模のインスタレーションが印象的な、ベルリン在住、1971年生まれの現代美術家。 本書は、2008年に行われた神戸芸術工科大学での公開特別講義に、作家への…

モーリス・メーテルランク『ペレアスとメリザンド』(原著 1892, 訳:杉本秀太郎 岩波文庫 1988)

ドビュッシー作曲でオペラ化もされたメーテルリンクの戯曲。水の精を思わせるメリザンドは何者かから逃げて森の中の泉の傍らで泣いているところを、狩りの途中で道に迷った寡の王族ゴローに出会い見初められ、結婚相手となり城に住まうようになるが、その城…

ジャン・スタロバンスキー『道化のような芸術家の肖像』(原著 1970, 訳:大岡信 新潮社 叢書<創造の小径> 1975)

日常を離れた驚異的で奇跡的な技を見せる見世物小屋の異質な価値基準の世界の主役たる軽業師と道化の志向性は近代の画家や詩人や小説家たちの意識と相似形をなしている。現にあるものを嘲笑するイロニーが作り出す意味の空無の時空間が、観衆の普段の振舞い…

西垣通編『AI・ロボットと共存の倫理』(岩波書店 2022)

AI(人工知能)とロボットとの付き合い方について、現代の日本の状況や世界的状況をを踏まえて、多分野の研究者6人が集うことで成立した新時代の倫理観をめぐる論文集。 全体的な印象として倫理は経済効率とは相性がよくないということがすべての人の発言…

日経ビジネス、日経クロステック、日経クロストレンド 編『 ChatGPTエフェクト 破壊と創造のすべて 』(日経BP 2023)

システムエンジニアという職業柄 ChatGPT の出現による業務上の圧力は現時点において身に染みて感じている。 問題が発生した場合にブラウザによる検索と情報収集よりはるかに迅速かつ的を射たソリューションの提案がソースコードレベルで提供される確率が高…

前田英樹『絵画の二十世紀 マチスからジャコメッティまで』(日本放送出版協会 NHKブックス996 2004)

写真の登場によって絵画における写実再現の価値下落が起こったあとの時代において如何なる表現の途が残さているのかという探究が二十世紀以降の芸術界の動向を方向づけている。本書は近代以前の慣習にとらわれない最初期印象派の画家モネの視覚と写実とのあ…

デイヴィッド・シルヴェスター『ジャコメッティ 彫刻と絵画』(原著 1998, 訳:武田昭彦 みすず書房 2018)

フランシス・ベーコンのインタビュー集も著作として持つイギリスの美術評論家・キュレーターであるデイヴィッド・シルヴェスターのジャコメッティ考察の書。ジャコメッティのモデルをつとめたことのある人物のうちでは最も美術批評っぽいテクストで、作家が…

矢内原伊作『ジャコメッティ』(編:宇佐見英治+武田昭彦 みすず書房 1996)

1956年から1961年にかけての五度にわたってジャコメッティのモデルをつとめた経験から生まれた哲学者矢内原伊作のテクストと日記およびメモにジャコメッティからの手紙を添えてジャコメッティ晩年の基本的資料集成を目指した一冊。完成させることを…

パスカル・ボナフー『レンブラント 光と影の魔術師』(原著 1990, 創元社 「知の再発見」双書98 SG絵で読む世界文化史 2001 監修:高階秀爾、訳:村上尚子)

レンブラントの生涯と作品を追う本篇とレンブラントの実像にいくつかの角度から迫る資料篇の二段構成からなるコンパクトでありながら充実した導入書。本篇を執筆したのがフランスの作家、小説家、美術評論家であるパスカル・ボナフーで、レンブラントの起伏…

幸福輝『もっと知りたいレンブラント 生涯と作品』(東京美術 アート・ビギナーズ・コレクション 2011)

見開きページごとにトピックが変わっていて、簡潔かつ印象的にレンブラントの作品世界の様々な特徴に触れることができる、手軽で美麗な美術書。掲載されているカラー図版は他書に比べて明るく鮮明で、細部や暗部がより明瞭に識別することができる。自作と関…

高橋陸郎『語らざる者をして語らしめよ』(思潮社 2005)

古事記を核に論じた日本の神話と詩の発生に関するエッセイ「神話の構造のためのエセー」(現代詩手帖 1979.11)と0年代に物された連作詩篇「語らざる者をして語らしめよ」のカップリングの一冊。矮小でありながら超越し、超越していながらきわめて矮小な日本…

渡邊二郎『芸術の哲学』(ちくま学芸文庫 1998, 放送大学 1993)

ハイデガー研究者による芸術哲学概論。芸術作品の成立根拠を心のはたらきに帰する近代の主観主義的美学を批判し、ハイデガーが強調した生や歴史における真理の生起に焦点を当てる存在論的美学の流れを称揚するテクスト。作品は真実を露呈させるための発見的…

マルティン・ハイデッガー『芸術作品の根源』(原著 1960, 訳:関口浩 平凡社ライブラリー 2008)

存在するものの真理を生起するものとしての芸術作品、世界と大地との間の闘争としての芸術作品。ハイデガーの用いる「真理」という概念については訳者後記でも強調されているように「空け開け」「アレーテイア」「不伏蔵性の領域」という意味でもちいられて…